今回は『葬送のフリーレン』について語っていく。
『葬送のフリーレン』は山田鐘人(原作)とアベツカサ(作画)による漫画(週刊少年サンデー)が原作だ。そして2023年秋クールから2クールかけてTVアニメが放送される。
アニメ制作はマッドハウスが担当した。
『葬送のフリーレン』の評価
※ネタバレ注意!
作画 | 90点 |
世界観・設定・企画 | 85点 |
ストーリー | 87点 |
演出 | 86点 |
キャラ | 87点 |
音楽 | 85点 |
作画
全体としてかなり漫画的な仕上がりになっているのだけれど、アニメーションとして破綻しておらず、全然飽きない。キャラクターと背景のシンクロ度も高いし、戦闘シーンの迫力も十分。作画のクオリティが終始安定していたことから、十分なリソースが投下されていたこともわかる。「商業アニメーションとしての仕上がり」という意味では完璧と言っていいだろう。
世界観・設定・企画
『週刊少年サンデー』を代表する作品ということで、絶対に失敗できない企画であり、逆に言うと、ほぼ間違いなく成功する企画でもある。そして製作委員会は、前代未聞の「金曜ロードショーでの初回放送」を実施。大衆を一気に惹きつけた。
また『葬送のフリーレン』が提示するメッセージ性は、今のライトノベルやジャンプ作品からはほとんど出ていないものなので、個性がある。
ストーリー
短編と長編が上手い具合にミックスされているストーリー。全体としては、シナリオがよくできていると思う。個人的には短編が好き。
一方で「現代でイベント発生→過去の回想シーン→ハッピーエンド」という感じでワンパターン化しているのは否めない。まあ今のところおもしろいからいいけど。
演出
『葬送のフリーレン』の最大の魅力と言っていいのが演出だ。全体として落ち着いた展開にもかかわらず、見ていて一向に飽きないのは演出の影響が大きい。シュールなギャグを作り出すための”間”の取り方が秀逸だった。
それでいて意外にも、視聴者を煽りすぎていないのも好感が持てる。
キャラ
全体的に表情の起伏がないキャラデザだけれど、ところどころで崩れるので、それがかわいらしい。
フリーレン、フェルン、シュタルクの中だったらフェルンの人気が出そうだけど、一級試験で新キャラが大量に登場し、そのどれもが絶妙にいい感じのキャラなのである。でもやっぱりキャラの造り込みに関してはフリーレンが1番おもしろい。長い時を生きるフリーレンは、一体どこに向かっていくのだろうか。
音楽
前半クールのOPはYOASOBIの『勇者』で後半クールのOPはヨルシカの『晴る』、EDはmiletの『Anytime Anywhere』だ。OPは現代的な楽曲に仕上がっているのだけれど『葬送のフリーレン』にちゃんとマッチしている。
EDは『葬送のフリーレン』のために作られた曲って感じがする。
『葬送のフリーレン』の感想
※ネタバレ注意!
太陽の美しさを語った数少ないアニメ
『葬送のフリーレン』は、とんでもないアニメである。
これまでに、大衆的なアニメ作品は数多く登場してきた。しかし、大衆的であればあるほど、中身も大衆に寄り、結果的にメッセージ性が薄くなる傾向にある。同じく、強烈なメッセージ性を提示する作品も数多くあるが、そういった作品は大抵の場合、大衆に受け入れられない。
大衆性とメッセージ性(芸術性)を高いレベルで両立している作品となってくると、僕が思いつくのはジブリ作品とエヴァぐらいである。
そして、そこにもう1つ作品を加えなければならなくなった。それが『葬送のフリーレン』である。
『葬送のフリーレン』は「勇者が魔王を倒した後」という時系列が特徴の作品で、やはり”勇者と魔王”というのは、大衆にウケる設定だ。それでいて、感動要素や主人公最強要素が適度にあるので、これが多くの視聴者の心を掴んでいる。
一方で『葬送のフリーレン』には、ちゃんとしたメッセージ性も感じさせられる。それも、現代のライトノベルやジャンプ作品ではほとんど見られなくなった”温かさ”を感じる。
特に僕がお気に入りのエピソードは第4話『魂の眠る地』だ。このエピソードで『葬送のフリーレン』は太陽の美しさを描いたのである。
日の出と夕日がもたらすマジックアワーは”どんなものでも美しくする時間帯”と言われている。まさに「魔法の時間」である。当初、フリーレンは日の出を見ることが楽しいとは思えなかった。だが、日の出に見惚れるフェルンを見て、ようやくヒンメルの真意を理解する。
言わずもがな、”日の出“というのは毎日見られるものだ。もちろん、海沿いで見れるようや美しい日の出を街中で見るのは難しいが、一方で、空が美しく彩られるマジックアワーであれば、誰でも楽しめる。ただ、朝早く起きるだけで、美しい天体ショーを楽しめるのだ。
残念ながら、現代人は太陽の美しさを忘れてしまっている。ディスプレイが映し出す光の誘惑に屈し、夜行性へと成り果てた。少し朝早く起きれば、そこには美しい空が広がっているのに、それに気づかぬまま、人々は怠惰に生きる。
幸せは、案外その辺に転がっているものである。『葬送のフリーレン』は、そのストーリーを通じて、日常の尊さを教えてくれる。
“魔法”をレトリックに演出
『葬送のフリーレン』の主人公であるフリーレンは、魔法使いのエルフだ。勇者ヒンメルと魔王討伐の旅に出かけ、見事魔王を討伐してから70年後、フェルンを弟子にする。
フリーレンは1000年を軽く生きる長命種であり、魔法収集が趣味だった。これまでもコツコツと(しょうもない)魔法を収集し、充実した知的生活をのんびりと過ごしていた。一方のフェルンは普通の人間なのだけれど、その才覚と、師匠であるフリーレンの指導が優れているからか、優秀な魔法使いになりそうな感じになっている。実際に、フェルンは一級試験に合格し、世界でごく少数しか存在しない一級魔法使いになることができた。
ということもあり『葬送のフリーレン』のテーマの1つに”魔法”がある。これまでも”魔法”をテーマにした作品は数多くあった。大人気コンテンツで言えば『とある魔術の禁書目録』や『魔法科高校の劣等生』がある。その中でも『葬送のフリーレン』は、”魔法”というテーマをレトリックに表現しているのが特徴だと思う。
魔法は探し求めている時が一番楽しいんだよ
『葬送のフリーレン』より引用
魔物や魔族が使う魔法の中には、人を眠らせたり石にしたりする物があってね。
『葬送のフリーレン』より引用
その中でも人類がいまだに解明できてない魔法を呪いと呼んでいるんだ
鳥を捕まえる魔法。
『葬送のフリーレン』より引用
今よりもずっと魔法使いが多くて魔法が一般的だった時代に、狩猟を生業とする一族が生み出した民間魔法だよ
魔法は自由であるべきだ
『葬送のフリーレン』より引用
フリーレンにとって、”魔法”はライフワークなのだ。そして魔法は、僕たちの世界における”趣味”や”技術”や”科学”を暗示しているように思う。
「魔法は探し求めている時が一番楽しいんだよ」は趣味やライフワークの在り方を示唆しているし、魔法が一般的だった時代にしょうもない魔法が誕生するのは、スマートフォンが普及した際に、しょうもないアプリが登場するようになる状況とよく似ている。
このように『葬送のフリーレン』は、魔法というテーマをレトリックに表現している。このようなメッセージ性は、他作品ではあまり見受けられない。『とある魔術の禁書目録』と『魔法科高校の劣等生』は、ライトノベルのくせに、やたらと説明するばかりで、レトリックな表現が用いられることがほとんどない。強いていうなら『キノの旅』がいい線だと思うけれど、あれは”魔法”をテーマにした作品ではない。
『葬送のフリーレン』の世界では、人類がいまだに解明できてない魔法は”呪い”と呼ばれるそうだが、僕たちが生きる科学全盛の世界においては、人類がいまだに解明できてない現象のことを”魔法”や”神秘”と呼ぶ。正直、現代人の大半は、ディープラーニング、電波などの仕組みを理解していないはずで、そうなってくると最新技術の大半は、現代人にとって”魔法”ということになる。もう既に僕たちの世界は、魔法全盛の世界になりつつある。そこに対する『葬送のフリーレン』のメッセージ性は、中々に考えさせられるものだった。
さいごに
ラストに「The journey to the Ende continues(エンデへの旅は続く)」というフレーズが表示されたことから、ほぼ間違いなく『葬送のフリーレン』は続編が制作されるだろう。アニメのクオリティが素晴らしいから、当分は、原作漫画を読まずに、アニメの方を中心に『葬送のフリーレン』を楽しもうと思う。