今回は『終末トレインどこへいく?』について語っていく。
『終末トレインどこへいく?』は、水島努監督によりアニメオリジナル作品で、2024年春クールに放送された。
アニメ制作はEMTエクスアードが担当している。
『終末トレインどこへいく?』の評価
※ネタバレ注意!
作画 | 88点 |
世界観・設定・企画 | 87点 |
ストーリー | 85点 |
演出 | 88点 |
キャラ | 80点 |
音楽 | 90点 |
作画
水島努監督らしいコミカルな動きが満載だった。元々『クレヨンしんちゃん』のアニメーターとして参加していた経歴を持っていたことから、特に背景の動かし方は丸っきし『クレしん』だった。3DCGも適度に使う程度で、基本的には動きの大半を手描きで作っている。3DCGでは絶対に作れないアニメーションに仕上がっているのは間違いない。
世界観・設定・企画
正直に言えば、世界観は早過ぎたと思う。理解できない人が大半だろう。しかも、なんだかんだでSFだから、テクノロジーに対する理解も必要だ。でも、僕としてはこれぐらい早い方がちょうどよく、おそらく一部のアニメファンにかなり刺さっているのではないかと思う。また、ハードSFでやってもいいテーマを、極めてコミカルに描いているのが、水島努監督らしいなぁと思わされる。聖地巡礼も促せる企画になっていて、僕はすでに友人と「吾野」に行く約束を取り付けた。
ストーリー
作品の世界観の構成上、ストーリーは基本的に1話完結型になっていて、少しずつ池袋に近づいていく感じになっている。なんだかんだでゴールが明確になっていることから、ストーリーはわかりやすい。
演出
水島努が撮影監督を担当していることから分かる通り、声優の演技やテンポには相当に介入している感じがある。実際、本作の会話のテンポ感は尋常ではなく、とにかくスピーディー。それが作品の世界観にマッチしている。
あと、超久しぶりに、背景があんなに動くのを見た気がする。
キャラ
相当に会話に力を入れていたこともあって、キャラが魅力的に見える。
音楽
OP『GA-TAN GO-TON』もED『ユリイカ』も、日本のアニメーションのチルな感じを上手く取り込んでいて、一般的なアニソンの一歩先をいくサウンドだと感じた。多分、Lo-Fiを強く参考にしているのだろう。
劇伴も非常にセンスがよく、映像に負けない音楽に仕上がった。8bitのサウンドを上手くミックスさせている。
主題歌も劇伴も、日本発祥のサウンドをベースに、世界でも通用する形でミックスしていて、そういう意味でも一歩先をいく音楽だと思う。
あと挿入歌の『黒豹便のテーマ』は最高に水島努っぽい。
『終末トレインどこへいく?』の感想
※ネタバレ注意!
7Gについて
本作における「7G」は、ほぼ間違いなく「次世代通信技術」のことを指している。2024年現在、通信技術は5Gに到達しているので、その次の次が7Gということになる。
現在、6Gについては世界中の通信会社が開発に勤しんでいる最中で、おそらく2030年代に実用化が開始される可能性が高い。6Gが普及するようになると、5Gに比べて高速化・大容量化が促進されるだけでなく、地球上のあらゆる場所をカバーできるようになる可能性が高い。なぜなら、6Gの開発には衛星ネットワークが鍵になると考えられるからだ。宇宙に通信端末があり、それらが連動して私たちにデータを提供してくれるようになるため、通信エリアのカバー率が100%になるのも頷ける。
ちなみに参考までに、実は日本の国土の大部分は3Gが接続できない。というのも日本の国土の多くは森林だからだ。しかしこれが6Gによって、完全に改善される可能性がある。「圏外」が死語になるのだ。
それで、本作で登場する7Gは、そのさらに先にある通信技術で、早くても2040年代での登場になるのだろうか。そんな7Gが普及?する時代を描いているのが『終末トレインどこへいく?』ということになりそうである。
1駅違うだけで世界が変わる
実存主義の目線で世界を見れば、空間に境目など存在しないはずである。例えば、東京と神奈川は違うものだとされているが、それを勝手に定義づけているのは日本人の我々であり、実存主義の観点で言えば、東京と神奈川はそもそも幻想に過ぎないから、境目なんて存在しないはずである。
しかし、電車という移動手段が登場するようになってから、世界のルールが劇的に変わった。これまでは都道府県や地名によって世界が区分されていたが、電車の登場により、駅によって世界が区分されるようになった。例えば、同じ千代田区でも秋葉原と御茶ノ水と神保町では、街並みが丸々異なる。秋葉原は電気街で、御茶ノ水は楽器の街で、神保町は古本街だ。これらの駅は、直線距離で1km程度しか離れていないが、たった1kmで街並みが激変するのである。
電車という移動手段の登場によって、僕たちはある意味、ワープができるようになった。秋葉原から御茶ノ水までにある旅路を経験することなく、電車ですぐにワープできる。駅に降り立つと、どちらも全く違う世界が広がっている。わずか数分の移動時間で、全く異なる世界にワープできる。
また、電車よりも「速度」が速い交通手段として、新幹線や飛行機がある。僕たちは新幹線に2時間ほど乗るだけで、東京と京都を移動できる。電車が存在しない世界では、東京から京都まで移動するには、2週間ほどの時間が必要だった。でも今ならたったの2時間である。また、飛行機を使えば、大抵の場所は24時間以内に到着できる。
人類は移動速度が速くなったことで、それぞれ異なる2つの地点の距離が劇的に短くなる。それに伴い、乗り物に乗ることで事実上のワープをすることから、それぞれ異なる2つの地点は、同じ国とは思えないほどに全く違う世界が広がる。本当は東京から京都の間に、ごく普通のありきたりな田園や住宅街が広がっているのだが、僕たちはそれを見ることなくワープできるようになっている。
そう考えると『終末トレインはどこへ行く?』で描かれる世界は、全く不思議なものではない。吾野が動物の街で、東吾野は寄生キノコの街だが、1駅違えば、それぐらい違ってくるだろう。
通信速度と移動速度
『終末トレインはどこへいく?』がおもしろいのは、電車という高速移動手段に7Gという高速通信手段を掛け合わせたことである。
移動速度が速くなればなるほど世界は小さくなるが、一方で、通信速度が速くなればなるほど世界は大きくなるのではないだろうか。なぜなら通信技術が進化することで、移動する必要性が薄まるからである。実際に、4Gが普及したタイミングで、人類は文章だけでなく画像や動画などの比較的重いファイルも送受信できるようになり、その結果、リモートワークが可能になった。出勤のために移動する必要がなくなった。
その結果、どうなるか。人々は移動しなくなるので、自分たちの住む街に依存するようになる。吾野から池袋に出勤しなくてもいいので、だったら吾野でリモートワークでもしながら、吾野の街を楽しんだ方がいい。そしておそらく、街に依存する人が増えれば、それだけ、それぞれの街が特色化する。吾野が動物の街になることもあれば、東吾野が寄生きのこの街になることもある。
これがもし、通信速度と同時に移動速度も劇的に速くなれば、お互いにバランスが取れて、世界がカオスになることはないのかもしれない。しかし、残念ながらそれは不可能だろう。リニア中央新幹線は最大時速500kmとなり、従来の新幹線に比べて運行時間が約半分になる一方で、5Gから6Gに通信技術が進化した場合は、通信速度が約10倍速くなることが想定されている。
7Gを始めとしたテクノロジーが普及することによって、世界はどんどんめちゃくちゃになるだろう。その最たる例が「AI」だ。
しかし、それでも僕たちは前を見て進まなければならない。もう後戻りはできない。それは本作のラストで、世界が元通りにならなかったことから察しがつく。
一方で、自分から速度を落としてみることはできる。通信速度が速くなり過ぎて自分自身がめちゃくちゃにならないように、コントロールすることは可能だ。僕が思う『終末トレインはどこへいく?』のメッセージは、これに尽きる。技術の流れに飲み込まれると、動物になったりキノコに寄生されたりする時代が、もうすぐ到来しようとしているのだ。
さいごに
個人的には2024年春アニメの新作アニメの中では、とびっきりで面白かった。水島努監督による映像表現と世界観が最高に決まっていた。全ての要素で現代アニメの1歩先をいっていて、だから多分、そんなに売れないと思うけど、一部のクリエイターやオタクには刺さったのではないだろうか。
それにしても水島努監督は忙しそうだ。そろそろ『ガルパン』の最新作が見たいところである……。