今回は『坂道のアポロン』について語っていく。
『坂道のアポロン』は、小玉ユキによる漫画(月刊フラワーズ)が原作で、これが2012年春クールに放送される。
アニメ制作はMAPPAと手塚プロダクションが担当した。
『坂道のアポロン』の評価
※ネタバレ注意!
作画 | 87点 |
世界観・設定・企画 | 80点 |
ストーリー | 78点 |
演出 | 85点 |
キャラ | 78点 |
音楽 | 88点 |
作画
演奏シーンに関しては、完璧と言っていいだろう。ほかの音楽系アニメとは違い、一切の妥協なしで、基本的にフルアニメーションだ。そしてそれでいて、モーションブラーなようなエフェクトもかけている。
一方で日常シーンは、流石に演奏シーンほどのクオリティではないものの、全体的に安定しており、ノイタミナ枠にふさわしい仕上がりだった。
全体的に、リアリティを追求しているのがわかる。
世界観・設定・企画
1960年代の長崎が舞台。海外文化が入りやすい地域ということで、キリスト教とジャズが他地域に比べて普及していたのは間違いない。また、学生運動に関しても佐世保は特別な場所である。
そう考えれば、60年代の長崎は相当におもしろい舞台だ。
それと少女漫画原作ということで、ちょっとBL要素もある。
ストーリー
ジャズをテーマにしたアニメだけど、実際はヒューマンドラマがメインパート。ジャズはあくまでも、登場人物の心の拠り所的な扱いであり、青春を凝縮させたものでもある。
テンポ感は相当に速く、高校3年間を全12話で描いている。結果として、ラストは相当駆け足になったが、特別大きな不満があるわけではなかった。
演出
同じジャズをテーマにしたアニメ作品『BLUE GIANT』の激アツな演出とは異なり、本作の演奏シーンはリアリティかつ繊細な印象を抱いた。そう、とにかく繊細なのだ。
三角関係がふわふわなまま卒業してしまったのも含めて、全体的にリアリティがあり、かつ演出が繊細だった。
キャラ
すごく極論を述べれば、本作のキャラ関係の描き方は「友情」と「恋愛」の対比で、ここがとても女性的だなぁと思う。一方でジャズの純粋なおもしろさがあるから男性ウケもある。
ヒロインは萌え要素はほとんどなく、でもそれがいい。
音楽
音楽は、日本最高のサウンドアレンジャーである菅野よう子が担当。本作は既存曲が多いことから、菅野よう子特有のアイデア満載メロディーは抑えめで、ジャズのサウンドアレンジに終始していた。
それを象徴するのがOP『坂道のメロディ』だ。Bメロまではよくあるメロディなのに対して、そこからサビへの転調がおしゃれ。サビ終わりも綺麗。やっぱ菅野よう子って一周回ってすごいや。
『坂道のアポロン』の感想
※ネタバレ注意!
『坂道のアポロン』におけるジャズの扱い
本作において非常に重要なテーマである「ジャズ」は、1920年代の米国で普及した音楽で、日本では戦後で本格普及し、1960年代にフリージャズが流行するようになる。
ジャズという音楽ジャンルの特徴はいくつかあるが、その際たるものは「即興性」だ。実際に『坂道のアポロン』でも、クラシックピアノとジャズピアノの対比が冒頭で描かれた。ルールに縛られがちなクラシックと異なり、ジャズは自由なのである。
そして、ジャズの自由性を青春に押しはめているのが『坂道のアポロン』の最大の特徴だと思う。
一方で本作において、人間関係で喧嘩になることはあっても、ジャズで喧嘩になることは一切なかった。ほぼ必ずと言っていいほど、ジャズは「悩み解決のための道具」として扱われる。
これは、キリスト教とシンクロしているように僕は考える。
千太郎と律子はクリスチャンで、信仰心を心の拠り所としている。同じく、西見薫もジャズを心の拠り所にしていたのは間違いない。悪く言えば現実逃避のために、薫はジャズに浸っていたのだ。
だから本作において、ジャズはキリスト教と同じようや役割を担っていたのではないかと思う。でも実際、若者が音楽をやる理由って、逃避、反抗、モテたいの3つしかないと思うのだ。
ポジティブな意味での音楽
一方で『坂道のアポロン』において、ジャズにはもう1つの意味があった。それは「繋がり」だ。
薫と千太郎が仲良くなったきっかけもジャズにあるし、律子を含めた3人が大人になっても繋ぎ止めることができたのもジャズのおかげである。
また、千太郎と淳一を繋ぎ止めたのも、千太郎が「一生忘れない」と言った最後のセッションにあった。当時、インターネットどころか携帯電話すら普及していなかった時代だ。上京するということは「最後」になるかもしれない、ということである。
『坂道のアポロン』は、青春をテーマにした作品であって、ジャズはその一要素でしかない。でも、ジャズが本作で果たした役割は非常に大きいものだった。
思えば、ほとんどの学生の方は、部活動や趣味での付き合いが大人でも残っているのではないかと思う。僕は中学から大学まで卓球をやっていたけど、その人脈が今でも強く残っている。それは、部活動や趣味を通じて、お互いに本気でぶつかり合うことができるからではないだろうか。
さいごに
やっぱりノイタミナはすごい放送枠だし、渡辺信一郎と菅野よう子のタッグも素晴らしいと思う。これを機に『カウボーイビバップ』を見たいなぁと思ったし、現在流行中のLo-Fiの原点とも呼ばれる『サムライチャンプルー』も視聴していきたいなぁと思う。