2024年10月25日、『がんばっていきまっしょい』が上映されたので、109シネマズのSAIONで鑑賞した。
『がんばっていきまっしょい』は1996年に発表された小説が原作で、これまでに劇場実写化、テレビドラマ化がされており、2024年10月に劇場アニメ版が公開された。
全編3DCGで描かれており、アニメ制作はスタジオ萌とレイルズが担当している。
『がんばっていきまっしょい』の評価
※ネタバレ注意!
作画 | 80点 |
世界観・設定・企画 | 80点 |
ストーリー | 80点 |
演出 | 85点 |
キャラ | 80点 |
音楽 | 80点 |
作画
完全に、いい意味でティザービジュアル詐欺。確かに3DCGのテクスチャーの作り込みは微妙に感じられたし、アニメーションのカクつきも気になるが、意外にもそれにはすぐ慣れた。
というのも、画面構成や演出がめちゃくちゃ良かったからだ。結果として自然な映像になり、作品の中に入り込めた。
世界観・設定・企画
おそらく、ボートの複雑な動きを手描きアニメにするのは予算オーバーになるということで、3DCGが採用されたのだと思う。その目論見は上手くいき、結果的に良作になった。アニメオタクアイドルの宮田俊哉さんをプロモーションに起用できたのも大きい。
マイナースポーツをテーマにするのはよくあるが、それを使って「本気になること」のメッセージを伝えようとしたのも良かった。
ストーリー
登場人物がボートを始めてからの1年間を約90分で綺麗にまとめ切った。テンポ感が早いのはもちろんだが、そもそもの会話のテンポ感がいいので、決して内容が大きくカットされているわけではない。
ちゃんとエモーショナルに仕上がっていて、ちょっと感動した。
演出
まず、1つの映画作品として映像演出に優れている。わざわざアスペクト比をシネマスコープにしているし、シネスコだからできる演出も多く見受けられた。
それと、録音方式はよくわからんが、会話のテンポ感も絶妙。だから、ちょっとしたギャグも笑える。
冒頭の入り方ですぐ分かったが、本作が「音楽」に力を入れているのは間違いない。
全体的に、映画作品としての演出が際立っていて、映画館だからこその映像体験を味わうことができた。
キャラ
キャラデザそのものは良いものの、やはり3DCGのテクスチャーが微妙だったのは否めない。だが、有名声優をこぞって起用することで、キャラクターに厚みが生まれたのは事実だと思う。実際、演技は安定していた。
音楽
音楽は、作曲・作詞とかというより、映像を引き立たせるためのエンジニアリングが優れていたと思う。特に今回は、音響に力を入れたSAIONで鑑賞したから尚更だ。
『がんばっていきまっしょい』の感想
※ネタバレ注意!
良い意味で予告編詐欺
正直に言えば、本作にはほとんど期待していなかった。一応、僕は年間で30本以上はアニメ映画を鑑賞するので、予告編をしょっちゅう見る。それで『がんばっていきまっしょい』もめちゃくちゃ予告編を見たのだけど、これがかなり微妙だったのだ。
あらためて予告編を見ると、たしかに曲に合った動画だとは思うが、作画に関しては「なんだかなぁ……」という感じになりかねない。本編ではもっとすごいシーンがたくさんあっただけに、映像メインのプロモーションビデオを作ってもよかったんじゃないかなと思う。
ただ、一度見た僕としては、いい意味で予告編詐欺を味わったということで、本編の素晴らしい映像表現を楽しめたのは、ちょっとお得感がある。
「本気で頑張る」って何だろう?
メインの登場人物は5人いるが、基本的には主人公の篠村悦子(悦ネエ)が深掘りされるストーリーになっている。
悦ネエは、小学校のころは身長も高くて運動神経が良かったから、クラスの人気者だったそうだ。しかし中学生になると、受験とか部活とか色々あって、悦ネエは「ナンバーワン」から遠い存在になる。それからは、何に対しても本気になれなくて、頑張れなくなってしまうのだ。
おそらく、これはライフステージが上がるほど、多くの人が陥る現象だと思う。
僕も、中学校のころは部活動で学校No.1の成績を出し、同じく高校でも部活でキャプテンを任されていた。しかし、強豪の大学に入学すると、ナンバーワンから遠い存在になってしまい、なぜか本気で頑張れなくなった。社会人になると、仕事とかお金のこともあるから、一体何を本気で頑張るべきかわからなくなる。完全に個人的な事情だが、実は本作が上映されるときに、上司に厳しい助言をいただいたこともあって、「本気になる」ということに対して深く考えていた時期でもあった。
だから僕は、本作に対して強く感情移入してしまった。別に、泣くわけではないけど、この作品のどこかに「本気で頑張る意味」があるのではないかと、何かを求めるように僕は本作に魅入った。
本作はボートがテーマになっている。言わずもがな、ボートは典型的な「マイナースポーツ」で、相当好きになれないとハマれないスポートだと思う。それで、最初は悦ネエも乗り気ではなかったが、一瞬だけめちゃくちゃ気持ちよくオールを漕ぐことができて、その小さな成功体験が、悦ネエの大きなモチベーションになった。
あらためて考える。「本気で頑張る」とは、いったい何なのだろうと。思えば、僕が『けいおん!』に惹かれたときも、挿入歌『私の恋はホッチキス』の「はじまりだけは軽いノリで しらないうちにあつくなって」という歌詞に、思うことがあったのだった。
もしかしたら「本気で頑張る」というのは、そんなに難しく考えなくていいのかもしれない、と。軽いノリで始めちゃって、熱くなっちゃえばそれでいい。そしてもっと良いのは、仲間を作っておくということ。
『がんばっていきまっしょい』でも、悦ネエが途中でボート部から離脱したけど、仲間たちが待っていてくれたおかげで、なんとか復帰することができた。
現代社会は、色々な誘惑があるけど、そんなものを蹴散らしてしまうぐらいの強いモチベーションで「本気で頑張る」ことが、求められているのかもしれない。
さいごに
『がんばっていきまっしょい』もそうだけど、2024年のアニメ映画は、そのほとんどが期待値以上におもしろい。やっぱり映画は、ライセンス収入が大前提のTVアニメとは異なり、制作陣がそれなりにこだわれるから、質の高い作品が生まれる。
『がんばっていきまっしょい』も、3DCGのテクスチャーに関しては、昨今のセルルック3DCGに比べて相対的に劣る部分も多いが、それ以外の部分で弱点を補っていて、何なら強烈な魅力を作り出すことに成功している。
3DCGの可能性を感じさせられる作品が増えてきたなぁと思う。