2024年11月22日、横浜ブルク13にて『ロボット・ドリームズ』を鑑賞した。
あらかじめムビチケでチケットは購入していたのだが、中々時間が取れなかった。というかチケットを買っていたことを忘れていた。
『ロボット・ドリームズ』は海外のアートアニメーションなので、この手の映画は、ちょっと遠くの映画館に行かないと見れない。だから、チケットを買ったことすら忘れてしまっていたのだが、それをやっと思い出して、無理やり時間を作って鑑賞してきた。
『ロボット・ドリームズ』の評価
※ネタバレ注意!
作画 | 92点 |
世界観・設定・企画 | 84点 |
ストーリー | 83点 |
演出 | 87点 |
キャラ | 80点 |
音楽 | 83点 |
作画
全体的にクオリティは高い。基本的にフルアニメーションだし、主要登場人物だけでなく、エキストラもよく動く。それに、多分Flashアニメではない。ちゃんと人の手によって描かれたものだと思う。全体的に線が太めなので、日本アニメとの親和性も高い(だから比較的日本で人気が出そう)。
世界観・設定・企画
1980年代のニューヨークが舞台。当時のニューヨークと言えば、カルチャー的には全盛期そのもので、治安が悪いのはもちろんだが、何よりも才能のある人々がストリートに集まっていた。地下鉄のバケツドラムのシーンが、それを象徴している。
そんな騒がしい街の中で、孤独な日々を過ごすドッグが主人公。そこにヒューマンロボットが登場して、友情を深めていくということで、この点に関してはSF要素が強い。
ストーリー
100分ぐらいの尺があるが、蓋を開けてみれば、悲しい展開が終始続いた。そして何よりも、セリフがほとんどない。アニメーションだけで、ストーリーが説明されている。
それでも充分にストーリーがわかるだけでなく、感情も大きく動かされた。また、終わり方がとても気持ちいい。考えさせられる終わり方だけど、半ば強引にハッピーエンドにした感じだ。
演出
アニメーションの演出には、相当のこだわりを感じさせられた。実写映画出身の監督なだけあって「アニメならでは」の演出と、実写的な演出のバランスがいい。
また、セリフなしだから、その分、キャラクターの表情描写がオーバーに描かれているのもポイント。
そして音楽もガンガン使っていて、特に主題歌?の『September』がヘビロテされていたので、とても印象に残っている。
キャラ
基本的に、動物が擬人化されたキャラなのがポイント。あえて動物にすることで、個性を強調しているのではなかろうか。たしかに、1980年代のNYは、個性が爆発していたように思う。それに、ドッグのいかにも「普通」な感じが強調されている。
音楽
『September』が目立つが、劇伴は全体的に重低音強めで、個人的に好きな部類。セリフがない分、音楽を使った演出にリソースを割いているのだと思う。
とは言え、やはり『September』が強烈だ。あれだけ何度も用いられるということは、『September』の歌詞を、メッセージとして作品に込めたかったということである。
本来、『September』は失恋ソングなのだが、まあ確かに言われてみれば『ロボット・ドリームズ』は「別れ」をテーマにした作品だと思う。
『ロボット・ドリームズ』の感想
※ネタバレ注意!
この作品に感情移入したのなら……
『ロボット・ドリームズ』は、全体的に明るい雰囲気で制作されているが、ストーリーだけ見たら、相当に悲しいストーリーである。
冒頭部分を見ると、ドッグは1980年代のNYで、孤独の日々を過ごしていたようだ。そして、それを紛らわせるためにロボットを購入し、楽しい日々を送るが、故障トラブルで、ロボットを海に放置せざるを得ない状況になってしまう。何度も助けようとするが、ことごとく失敗。時を待つしかなかった。そして、半年以上経って、ロボットを回収しようとするが、もう既にいなくなっていた。
一方のロボットは、ドッグに海に放置されたあと、ただただほったらかしにされる日々を送ることになる。何度もドッグに関する悪夢を見る日々だ。そして、不法侵入者に回収され、ジャンク店に売却されたあと、乱暴に分解されてしまう。一応、物好きな優しい壮年の男に拾われ、ほとんど元通りに治してもらったが、そのあと、別のロボットとデートするドッグを見かけてしまう。というエンディングだった。
もちろん、ドッグが悪いということはなく、これはとても典型的な恋愛の在り方だろう。好きだったけど、やむを得ず別れることになるのは、よく聞く話だ。でも同時に、ロボットのことが「可哀想」と思えるのもわかる。どうやら本作のロボットは、ちゃんと人間らしく振る舞っているようで、何よりも「夢を見る」というのが、いかにも人間だと思う。
では、現実世界に視線を向けたときに、この「ロボット」というのは、そのまま「AI」を表しているのではないだろうか。もし、このまま順調なAIが進化して、夢を見るほど人間らしくなったとしたら、はたして僕たちはドッグのように、AIを恋するようになるのだろうか。世間知らずのロボットに手を焼くドッグは、まるでカップルそのものだが、そんな世界が本当に訪れるのだろうか。
でもやっぱり、孤独を紛らわせるために、AIに頼る未来は、まず間違いなく訪れると思う。現に、オタクたちは二次元のキャラやVTuberで孤独を紛らわせているではないか。中身がAIになったところで、何が変わるというのだろう。
同時に、僕たちはAIをどのように扱うのだろうか。『ロボット・ドリームズ』で描かれたように、使い捨てのごとく雑に扱う人が出てくるだろう。「動物愛護」なんていうものがあるが、今後は「AI擁護」が出ると思う。二次元キャラにパッケージされる形で。
エンディングが秀逸
日本アニメに慣れ親しみすぎている僕としては、本作はエンディングが秀逸だと思った。本作のストーリー上のエンディングは、ラブロマンス作品としては「何とも言えない」感じに終わっている。「2人とも前を向いた」という意味ではハッピーエンドだが、「別れ」という意味ではバッドエンドになる。
だが、最後の最後で『September』を挿入し、2人が楽しげに踊るシーンを入れたことで、明るい雰囲気のまま、物語の幕が閉じた。
『September』は、歌詞だけを見れば失恋ソングになると思うが、曲調はとてつもなく明るい。ディスコでの一夜を巧みに表現しているように思う。本作にピッタリの楽曲だと言える。この曲をエンディングに挿入することで、別れの切なさを少し演出しながらも、全体として極めて前向きな終わり方にすることができた。見終わった感覚としても、心地いいものがあった。
さいごに
映画館の客入りは良好で、日本でも映画ファンを中心に、手堅い人気を獲得したっぽい感じがある。Filmarksの評価も4.0を超えているので、やはり映画ファンからの評価は高そう。口コミ効果で客が増えているのだと思う。
実際、アニメーション作品の品質は高く、日本で作ったら、制作費は3億円ぐらいは飛びそうな気がする。