今回は『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン(以下、劇場版ヴァイオレット)』について語っていく。
TVアニメの『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』についての記事はこちら。
https://terukun.blog/violet-evergarden/ちなみに僕は『劇場版ヴァイオレット』を2回見ている。1回目は上映当初の10月頃。2回目はアカデミー賞授賞式手前の3月上旬だ。2回目に関しては高画質・高音質のドルビーシネマで鑑賞した。ぜひ一度体験してほしい。
『劇場版ヴァイオレット』の感想
ここから『劇場版ヴァイオレット』の感想について語っていく。
感想①:京アニは凄い
京都アニメーションはすごかった。あの凄惨な事件は本当に心が痛むものだったが、その復活作としてアニメ史上最高傑作を制作してきた。EDでクレジットが流れてきたときは感慨深いものがあった。
製作技術において今回は美術、つまり背景が素晴らしかった。まるで背景画の中でキャラクターが動いているようだ。CGクオリティも高く、めちゃくちゃ難しいとされている水の動きが素人目線では完璧だった。
登場人物の表情描写は、相変わらず丁寧だ。数多くの京アニ作品の中でも『劇場版ヴァイオレット』は、表情だけで会話する非言語コミュニケ−ヨンが多い。そのため京アニの技術が強調されていて、原作とアニメ制作の相性が良いように感じた。京アニの制作スタイルである、「自社でレーベルを持ちそれをアニメ化する」ことのメリットが最大限活かされている。
2020年は数多くのアニメ映画が上映されてきた。中には社会現象を起こした『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』や『えんとつ町のプペル』もあるが、やはり『劇場版ヴァイオレット』が飛び抜けていたと感じている。
感想②:電話と手紙の素晴らしさ
今までは「手紙」がメインテーマとなっていたが、今回は「電話」もテーマとなっていた。
現代社会では遠くの人とやり取りするときは電話がメインだし、それどころか遠くの相手の顔を見ながら通話することもできる時代だ。メールやLINEを使えば文字媒体でもやり取りすることができる。紙媒体がどんどん廃れていく時代だ。そんな時代に、一生残り続ける「手紙」の素晴らしさを世の中に再認識させたのが『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』だった。
今回の『劇場版ヴァイオレット』は今まで通り手紙の素晴らしさを伝えながらも、電話の素晴らしさも伝えることに成功している。危篤状態に陥ったユリス(CV.水橋かおり)が、疎遠になっていた友達のリュカ(CV.佐藤利奈)と電話するシーンでは涙が止まらなかった。
電話は、世界中の誰とでも「リアルタイム」でやり取りできることに最大のメリットがある。僕が生まれた時からある技術なのだが、「とても素晴らしいものだ」と改めて気づくことができた。このようにありふれた技術の重要性の再認識は、アニメのようなサブカルチャーが一番得意だ。
感想③:ラストシーンについて
『劇場版ヴァイオレット』では数多くの名シーンがあった。ユリスのシーンや『ミチシルベ』が流れるシーンでは多くの人が心打たれたことだろう。
そんな中、ヴァイオレット(CV.石川由依)とギルベルト(CV.浪川大輔)の再会シーンについて「微妙だった」と解説する人が多い。そういう動画がYouTubeで度々目にすることがあった。もしあのシーンをただ「微妙」というのであれば、アニメへの理解がまだまだ足りてないなと感じる。
あのシーンは紛れもなく京アニの演出の真骨頂であり、チャレンジでもあったはずだ。
そもそも本作のゴールは「ヴァイオレットとギルベルトの再開」であり、それにふさわしい演出を心がけていた。あのシーンには視聴者の気持ちよりも作品に対するリスペクトが強かったように感じられたのだ。
実際、あのシチュエーションにふさわしい演出が施されている。その演出というのは、BGMを一切つけずに、表情や心情描写をとてつもなく丁寧に表現することだった。それはある意味アニメの壁を一つ壊しに行くようなチャレンジのように感じた。
そもそも従来の京アニであれば、視聴者を泣かせることに特化した演出をすることは容易かったはずだ。だが、それは「感動ポルノ」だと表現されることもある。だからこそ京アニはその概念をも壊しにいっているように感じた。ただ泣ける演出を施すのではなく、登場人物を最大限にリアルに表現することで、本質的に涙を誘う。そんなチャレンジ精神を感じることが出来た。
僕はこのシーンがリアルの人間を超えていたように感じた。だからこそ、このシーンをきっかけに「一生アニメを見続けよう」と決心した。アニメがリアルの人間を完全に超える瞬間が来るかもしれない。そこまではアニメを見続けようと思ったのだ。
もちろん、これはあくまでもアニメをめちゃくちゃ見てきた僕だから気づいていることだし、本当にアニメが好きな人は同じことを言っている。一方で本格的にアニメを見ていない人からすると、「あのシーンは微妙」と言わざるを得ないのだろう。だからこそ京アニはもっともっとオリジナリティ溢れるチャレンジをしてほしいと思う。というより絶対に仕掛けてくると感じている。他のアニメ制作会社には真似できない制作スタイルやビジネスだからこそ、アニメのクオリティにとことん追求できている。近いうちに必ずやってくれるはずだ。
『劇場版ヴァイオレット』の評価
ここから『劇場版ヴァイオレット』について、個人的な目線多めで評価していく。
作画 | 99点 |
世界観・設定 | 90点 |
ストーリー | 98点 |
演出 | 95点 |
キャラ | 85点 |
音楽 | 95点 |
作画
アニメ史上最高クオリティの作画だった。これは間違いない。
キャラの動きはもちろんだが、なんといっても背景が素晴らしい。背景画のような美しさが常にキープされている。
世界観・設定
今回は「電話」が1つのテーマになっていた。手紙からするとある意味、敵のようなものだ。だが、それでも「電話」と「手紙」のそれぞれの素晴らしさをしっかり表現していた。
ストーリー
完璧なラストだった。多くの人が言うが、見終わった後の余韻が凄まじい。文句なしのストーリーだった。
演出
音楽を交えながらの演出はさすが京都アニメーション。映画館で見ていたこともあって、演出が冴え渡っていたように感じた。
キャラ
『劇場版ヴァイオレット』は現代の深夜アニメのような、萌え要素があるキャラデザではない。だが、キャラの表情描写がとても丁寧なので、ちょっとした表情の違いだけで心情が分かってしまう。リアルの人間を見ているみたいだった。
音楽
背景に合っている壮大なBGMだった。挿入歌の『ミチシルベ』、EDの『WILL』はとてもクオリティが高い。特にEDは余韻を感じさせられる素晴らしいものだった。
さいごに
『劇場版ヴァイオレット』を超える作品は、あと5年は出ないのではないだろうか。それぐらい素晴らしいクオリティだった。現段階で可能性があるのは『鬼滅の刃』の続編ぐらいなのだろうか。
最近京アニは、アニメ制作はもちろんのこと原作も自社で制作している。それこそ京アニの全盛期は『涼宮ハルヒの憂鬱』や『らきすた!』のように他社の出版社の作品を原作にしていた。一方で京アニ原作の作品は人気はあるものの爆発的な人気にはならなかった。
その流れを壊したのが『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』だった。『劇場版ヴァイオレット』の興行収入は21億円を超えていて、これは『まどマギ』を超えている。原作も自社で制作しているため、アニメ制作の自由度も高く、利益も大きく取りやすい。
これを考えると『劇場版ヴァイオレット』を超えることができるのは、やはり京アニ作品しかないのかもしれない。