今回は『スパイ教室(以下、スパイ教室1期)』について語っていく。
『スパイ教室』はファンタジア文庫で刊行されているライトノベルが原作だ。そして2023年冬クールにアニメが放送される。アニメ制作はfeel.が担当した。
『スパイ教室1期』の評価
※ネタバレ注意!
作画 | 68点 |
世界観・設定 | 60点 |
ストーリー | 60点 |
演出 | 60点 |
キャラ | 75点 |
音楽 | 65点 |
作画
キャラクターデザインの安定を最優先事項とした作画だった。実際、キャラデザはしっかり安定している。ただしその分、キャラの動きはほとんどなく、戦闘シーンの迫力はない。キャラ人気が出やすい作画だったけれど、アニメーションとしては物足りないタイプの作画だ。まあ、予算内で上手くやろうと思ったら、こういう作画になると思う。
世界観・設定
とても率直にいえば「ハーレム×スパイ」が『スパイ教室1期』のテーマだ。また、なんだかんだで主人公最強なので、典型的なライトノベルという感じである。
ストーリー
ストーリー進行がよくわからない。僕は原作ラノベを読んでいないのだけれど、ネット上の情報を見る限り、原作とは異なるストーリー展開になっているようだ。時系列がめちゃくちゃで、とてもわかりづらい。だからといって『物語シリーズ』のように、時系列を活用した演出を取り入れているわけでもない。ビジネス都合でストーリー進行をイジった感じだ。
ちなみに、ストーリー自体は中々面白かった。たしかにこのストーリーだったら、ファンタジア大賞を受賞してもおかしくはない。……気が向いたら原作読もう。
演出
会話のテンポ感はとても良かった。切り返しの速さみたいなものは『俺ガイル』を彷彿とさせるものだったと思う(どちらもfeel.作品)。それとキャラを可愛く魅せる演出は中々力が入っていた。
その一方で戦闘シーンなどの演出はイマイチピンとこない。これも、予算の都合の問題だと思うけれど……。
キャラ
男1人に女8人だから、それなりに多い。だが想像以上にヒロインの個性が強く「これぞライトノベル!」という感じだ。一方で、肝心の男主人公であるクラウスの立ち位置がよくわからない。ここもやっぱり「これぞライトノベル!」で、おそらく読者の理想像を形にしたのがクラウス。でもそのおかげで、ハーレム系作品の安っぽさが抜けていない。
音楽
OPの『灯火』は中々強烈なイントロ。イントロを聴くだけで「あ、灯火だ」とわかる。また、基本的なEDは『Secret Code』だけれど、時折キャラソンが入ってくる感じのやつ。キャラの個性が強いからキャラソンを導入したのだと思うけれど、肝心の曲が似たり寄ったりなのがちょい微妙。
『スパイ教室』の感想
※ネタバレ注意!
もう、ラノベ原作アニメが面白く感じられない
これはあくまでも個人的な感想なのだけれど、もう、ラノベ原作アニメが面白く感じられなくなってきた。理由は2つある。
1つめは、ラノベ原作の作品は、アニメのクオリティが低くなりがちなことだ。実際、ラノベ原作アニメの大半はクオリティが微妙。『スパイ教室』に関しては一応「ファンタジア大賞の大賞受賞作品」なのだけれど、それでもこれぐらいのクオリティだ。
なぜクオリティが低くなりがちなのかと言われれば、それはKADOKAWAが薄くて広いメディアミックス戦略を取り入れているからだ。実際、何がウケるのかわからないわけで、クオリティが高ければ高いほど売れるというわけでもない。だから、それなりのクオリティの作品を大量に生産して、その中でワンチャンを当てるのがKADOKAWAの基本戦略になっている。
2つめは、ライトノベルの性質だ。角川武蔵野ミュージアムのラノベ図書館に、角川歴彦のライトノベル宣言というものがある。その中の一文が僕にとって印象的だった。
ライトノベルで綴られる言葉は、同時代の生きた言葉である。
『ライトノベル宣言』より引用
書き手が読み手と同じ空気を吸っている。時代を共有していると実感できることが大きな特徴となっている。
もっともらしいことを言っているが、これは簡単にいえば「読み手ファースト」のストーリーということだ。だからライトノベルは基本的に読み手のことを第一に意識する必要があり、それはつまり、売れるようなライトノベルを書くことが求められている。あくまでも「面白いライトノベル」ではない。
こうなってくると、読み手が求めているストーリーが多く出版されるようになる。今、ヲタクたちが求めているのは逃避的な空間だ。現実世界で体感できなかった恋愛や成功を、ヲタクたちはライトノベルに求めているように、僕は思う。それがハーレムや主人公最強であり、異世界という名の逃避的な空間なのだ。だから、それがライトノベルに強く反映される。
『スパイ教室』も、やはりライトノベルの脈絡をしっかり引き継いでおり、なんだかんだで主人公最強だし、ハーレムだ。しかも、明記されることはないけれど、男1人と女8人の共同生活でもある。これほど逃避的な空間は中々ない。
まあたしかに、逃避的な空間が大流行している現代のアニメ業界は、一周回って面白い。でも長期的に見ると、やはりこのままではヲタク文化がつまらないものになってしまう気がする。
予算内で上手くやる技術
feel.というアニメ制作会社は、それなりに人気があるのだけれど、特別クオリティが高い作品を作っているわけではない。おそらくfeel.で一番有名な作品は『俺ガイル』だと思うけれど、これも「マジでクオリティが高い!」というわけではないだろう。
おそらくfeel.の強みは、予算内で上手くやる技術にあると思う。『スパイ教室1期』も、おそらくそこまでお金がかかっていないのだけれど、それっぽいアニメに仕上げることに成功している。
アニメ業界ではとにかくクオリティが高いことが絶賛される影響がある。だが、ビジネス的な意味でいくと、予算内で確実にそれなりのクオリティのアニメを作れる技術は、かなり重宝される。
というか、日本のアニメのポテンシャルは、そこにあると僕は思う。数十億円の予算で制作されるディズニー映画と真っ向勝負したってしょうがない。日本のアニメの武器は、数億円程度の予算でも様々な工夫で面白く見せられる部分にあるだろう。
だから『スパイ教室1期』でも、そこだけは好印象に思っている。流石に声優起用のやり方はビジネス臭満載だったけれど、これも「予算内で上手くやる技術」に関していえば、上等だ。
さいごに
あのストーリーの終わり方だと、よっぽどの赤字でない限り、続編制作が決定すると思う。
それにしても、もうラノベ原作アニメには、あまり期待できないかもしれない。これはラノベの構造の問題だから、根本的な問題だ。ラノベの逃避的な感情がカウンターカルチャーに動いてくると面白いけれど、残念ながら方向は真逆。社会に向かっていくのではなく、社会から逃げるように感情が動いている。それも、異世界転生という名のメタバースに。
この問題は、割と真剣に考えなければいけない問題なのではないだろうかと思う。多分、今のヲタク文化の方向性はよろしくない。
まあ、現代の逃避的な文化を知るためにも、『スパイ教室』の続編は見ていこうと思う。あ、ちなみに萌えアニメとしては『スパイ教室』はやっぱり面白くて、僕は個人的にリリィが推しです!