『劇場版 PSYCHO-PASS PROVIDENCE』の感想記事

劇場版PSYCHO-PASS PROVIDENCE
星島てる
アニメ好きの20代。ライターで生活費を稼ぎながら、アニメ聖地の旅に出ている者です。アニメ作品の視聴数は600作品以上。

今回は『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE(以下、サイコパス PROVIDENCE)』について語っていく。

『サイコパス1期』が2012年秋クールから2クールにかけて放送。それからメディアミックスが展開され続け、2022年10月に10周年となり、記念プロジェクトとして『サイコパス PROVIDENCE』の制作が決定。2023年5月に劇場アニメが公開された。

アニメ制作はProduction I.Gが担当した。

目次

『サイコパス PROVIDENCE』の評価

※ネタバレ注意!

作画85点
世界観・設定83点
ストーリー85点
演出80点
キャラ85点
音楽80点
※個人的な評価です

作画

『サイコパスシリーズ』を初めて映画館で鑑賞した。ちゃんと映画館仕様になっていて、巨大スクリーンに適した作画の構成となっている。特に背景が進化しており、3DCGの進化に合わせてレベルが上がっている。また、登場人物の心情描写も丁寧。どんどん作品に引き込まれた。

世界観・設定

最近の『サイコパス』では海外の要素が反映されることが多い。今回の『サイコパス PROVIDENCE』は中国が印象的。旧正月のタイミングにドンピシャで、祭りのシーンは美しかった。また、出島が移民特区になっている設定も面白い。それに加えて終盤の戦闘シーンは北海道が舞台になっている。

毎度恒例のシビュラシステムに関して言うと「移民のために法律が必要」という視点が面白かった。

ストーリー

時系列的には『サイコパス3期』の前。慎導灼と炯・ミハイル・イグナトフが追い求めてきた事件の真相の全てが『サイコパス PROVIDENCE』で語られる。想像以上にハードなストーリーで、常守朱の苦労がよくわかる。

演出

これまでの『サイコパスシリーズ』の中でも最も演出が優れていた。特に常守朱の心情描写が印象的。雑賀譲二の手を離してしまうシーン、エレベーターの中で顔を俯かせながら泣くシーン、そしてラストの全てが終わった後に泣き崩れるシーンは本当に素晴らしかった。

キャラ

『サイコパス1期』と『サイコパス2期』の主要人物が勢揃い。その中でもやはり常守朱と狡噛慎也の印象度が大きい。特に常守朱の描き方が良い。

あと、全体的にキャラデザが安定していて、とても繊細な仕事をしていたことがよくわかる。

音楽

OPの『アレキシサイミアスペア』とEDの『当事者』は、いずれも『サイコパス』らしい主題歌だった。また『サイコパス PROVIDENCE』は劇伴が印象的で、これも音響に優れた映画館だからこそできた楽曲だったかも。いつも以上に低音が印象的だった。

『サイコパス PROVIDENCE』の感想

※ネタバレ注意!

『サイコパスシリーズ』最高傑作かも

2012年の放送から10年以上経過した『サイコパスシリーズ』では、やはり原点である『サイコパス1期』が最高傑作だとする意見が多い。実際、『サイコパス1期』はめちゃくちゃ面白い。狡噛慎也と槙島聖護の対決がとにかく最高で、刺激的だった。

では今回の『サイコパス PROVIDENCE』はどうだろうか。個人的には『サイコパス1期』を超えた最高傑作だと感じる。

まず『サイコパス1期』ぶりに、狡噛慎也と常守朱の関係性が描かれた点が個人的に良かった。これは多くのファンの心を掴んだことだろう。

それとアニメーション作品のクオリティが間違いなくトップレベルだった。本当に、これまで以上にクオリティを追求していたのだと思う。全体的に隙がない。特に心情描写のレベルが格段に上がっていると感じる。これまでの『サイコパスシリーズ』の見せ場は戦闘シーンで、『サイコパス PROVIDENCE』も戦争シーンは良かったが、それ以上に日常シーンでの演出が印象的だった。

あとはストーリーも中々強烈。最初から最後まで衝撃的な展開の連続だった。あれだけ序盤から盛り上げておいて、最後の最後でさらにボルテージを上げてくる展開はお見事としか言いようがない。だからってめちゃくちゃな展開になっているわけではなく、常守朱だったらやりかねないことだったと思う。

人間が作る法律とシビュラシステム

今回の『サイコパス PROVIENCE』のテーマの一つとして挙げられるのが「法律」だ。『サイコパス』の世界ではシビュラシステムが絶対であり、その関係上、法律が軽視されることが多い。『サイコパス PROVIDENCE』の序盤では法律の完全撤廃に関する会議が開催されていた。

実際、この問題はそう遠くない未来に訪れるだろう。AIの進化とブロックチェーン技術の発展によって、テクノロジーが法律を代替する未来が必ず訪れる。少なくとも『サイコパス PROVIDENCE』の舞台設定である2110年代までには、必ず問題提起されるだろう。

その中で常守朱は「法律は人間の努力の結晶」みたいな思想を抱いており、法律を手放してしまっては、いよいよ人間らしさが失われてしまうと主張していた。それに加えシビュラシステムにはごく一部の欠陥が存在しており、それが免罪体質という形で現れてしまっているのも大きい。

また、『サイコパス PROVIDENCE』の世界のように、とんでもない規模の国際格差が起こってしまうと、移民受け入れのためにも法律の整備が必要不可欠となる。なぜならシビュラシステムは、紛争地域で育ってきた人々を潜在犯と判定してしまうからだ。このあたりも、実際に到来しそうな未来である。

そして最後の最後で、免罪体質である常守朱が禾生局長を銃殺することで、法律の必要性を再主張し、物語が終了する。実際、このショッキングな出来事によって法律の完全撤廃の話が見送られることになる。……この流れは本当に完璧だった。

省庁のパワーバランスの変化

『サイコパス PROVIDENCE』を視聴していて面白いと思ったのが、各省庁のパワーバランスの変化だ。

我々が生きる現代社会では「予算」を握っている財務省のパワーが強いのは言うまでもない。それから、お金を握っている経済産業省や、国際バランスを担う外務省が強くなっている。厚生労働省は各省庁のパワーバランスの中だと割と下の方になっている。

だが『サイコパス PROVIDENCE』の世界では、厚生省がシビュラシステムを保有しているため、このパワーバランスが変化。ドローンやロボットの登場で警察庁がコンピュータに代替。実質的に厚生省に取り込まれており、その影響もあって厚生省のパワーが非常に大きくなっている。武力的に強い防衛省や、裁量権を持って行動できる外務省は相変わらず強い。

今回の『サイコパス PROVIDENCE』の冒頭で各省庁幹部による会議が開催されていて、そこであらためて各省庁のバランス関係が実感できた。厚生省のパワーが大きくなっているものの、やはり財務省や経済産業省の力が強い。そして相変わらず法務省は弱い。

さいごに

時系列的には最も新しい『サイコパス3 FIRST INSPECTOR』のラストで人事再編が進められ、そこで常守朱と狡噛慎也は再会している。でも『サイコパスシリーズ』が終わることはないだろう。売上もまだまだ見込めるし、アイデア次第でいくらでもストーリーを膨らませられる。そしてもし『サイコパスシリーズ』で最終決着がつくとしたら、やはり常守朱&狡噛慎也コンビがケリをつけるに違いない。また続報を待とうと思う。

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