どっちがリズで、どっちが青い鳥だと思いますか?

リズと青い鳥
星島てる
アニメ好きの20代。ライターで生活費を稼ぎながら、アニメ聖地の旅に出ている者です。アニメ作品の視聴数は600作品以上。

今回は『リズと青い鳥』について語っていく。

『リズと青い鳥』は『響け!ユーフォニアム』のスピンオフ作品で、鎧塚みぞれと傘木希美にフォーカスしたストーリーとなっている。時系列としては久美子が2年生のとき。

2016年秋クールに放送された『ユーフォ2期』の続編でもあり、1本の独立した映画としても楽しめるようになっている作品だ。

アニメ制作は京都アニメーションが担当している。

目次

『リズと青い鳥』の評価

※ネタバレ注意!

作画95点
世界観・設定92点
ストーリー95点
演出93点
キャラ92点
音楽95点
※個人的な評価です

作画

TVアニメの『ユーフォ』とは全く異なる雰囲気の作画。キャラデザを安定させることよりも、表現することを優先している。色も線も全体的に薄く、とにかく淡くて繊細。みぞれと希美の関係を描くのに最適化された作画だった。

山田尚子の技量が凄いのはもちろんだけれど、これほどのパフォーマンスを発揮する京アニのアニメーターの方々も凄い。

世界観・設定

実在する童話をモチーフにした世界観。この童話を見つけたことも凄いし、これを『響け!ユーフォニアム』にミックスさせるセンスも凄まじい。

『リズと青い鳥』は楽曲として存在していたわけではないそうだから、原作者の武田綾乃が普通にミックスさせてきたということになる。

ストーリー

みぞれと希美の関係性を深掘りするために、90分という尺をたっぷり使っていた。起承転結の流れも完璧。”転”のインパクトが強く、かつ”結”のセンスも素晴らしかったので、本当に文句なし。

演出

山田尚子監督特有の演出が『リズと青い鳥』でも採用されていた。登場人物の繊細な心情描写。そして足に寄った画面構成だ。

おかげさまで、どのキャラクターがどのソックスを履いているかを覚えてしまう。というか、足を見ただけで、このキャラクターが誰なのかがわかってしまう。しかしたしかに、足はそのキャラクターの感情を端的にあらわしているよな……。

キャラ

鎧塚みぞれと傘木希美の関係性が深掘りされていた。『ユーフォ2期』の前半でもフォーカスされたが、たしかにあのころから、みぞれの依存体質はちょっと問題だったし、希実のあっけからんとした雰囲気も何かトラブルを引き起こしそうな感じではあった。

それにしても、目の付け所が凄まじいと思う。久美子とあすか先輩の関係性も凄かったけど、みぞれと希美の関係性の描き方も中々のものだ。ただし、絶対に万人受けはしない。

音楽

『リズと青い鳥』も素晴らしいが、劇伴がヤバい。OPの『wind,glass,bluebird』はずっと聞いていられるぐらい心地よかったし、剣崎梨々花専用のBGM『doublelead,girls』も大変素晴らしい。この『doublelead.girl』は全部で6曲も展開されているライトモチーフで、剣崎が作中で重要なキャラクターであることがよくわかる。

そして何といっても主題歌の『Songbirds』が素晴らしい。

また、全体を通して音響が非常に良かった。僕はAirPods Proで鑑賞したが、それでも音響を感じ取れたぐらい。これが映画館だったらと思うと……。映画館で見たかったなぁ。

『リズと青い鳥』の感想

※ネタバレ注意!

disjointとjoint

『リズと青い鳥』で、まず考えなければならないのは冒頭に登場した「disjoint」と、ラストに登場した「joint」である。このdisjointとjointは、みぞれと希美の関係性を表していると考えるのが無難だろう。

disjointは、簡単に言えば交わっていない状態という意味。そしてjointが交わっている状態である。数学の授業のシーンで「disjointは素である」と解説されているのも印象的。

物語終盤で、水色と桃色の2つの円が交わる演出が施されていたが、あれがまさにjointだ。物語を通してみぞれと希美が繋がったという表現になる。

そもそも、この2人は正反対の人間だった。みぞれは希実のことだけが好きだけれど、希美は必ずしもみぞれだけが好きというわけでもない(ように見える)。また、靴下の色も違うし、性格も真反対だ。

そして何よりも、お互いの関係性に対する考え方がマッチしていなかった。後述するが『リズと青い鳥』に対する2人の考え方が、ミスマッチを象徴しているように思える。でも結局、2人は自分の立ち位置を理解し、そしてjointの状態へと進むことができるようになったわけだ。

どっちがリズでどっちが青い鳥なのか

『リズと青い鳥』の最大の論点は「どっちがリズでどっちが青い鳥なのか」という部分にある。

一応、物語を表面的に見ていくと、まず序盤では「リズがみぞれで、青い鳥が希美」ということになっていた。なぜなら、みぞれは希美がいないとダメなのに対して、希美はみぞれがいなくても大丈夫だからだ。……というように、みぞれは解釈していたわけである。

しかし物語が進むにつれ、特に新山先生がみぞれに音大を進めるあたりから、徐々に考え方が変わる。そしてみぞれは「自分が青い鳥で、希美がリズだった」ということに気づくのだ。それからはもはや説明不要かもしれない。みぞれは思う存分オーボエの実力を発揮し、空に飛び立つことになる。

以上の流れでいくと「希美がリズで、みぞれが青い鳥」ということになるのだが、本当にそうなのだろうか。これはあくまでも”みぞれの視点”という話だ。しかしその一方で、希実はどのように考えていたのだろうか。

希美の視点は?

僕は個人的に、当初の希美も「自分が青い鳥で、みぞれがリズである」と考えていた可能性を推したいと思う。

一瞬、最初から自分がリズであることに気づいていた可能性も考えた。しかし、それだと矛盾するシーンが多いように感じる。

特に、みぞれが「自らが青い鳥であること」に気づくシーンで、希美も「でも今は……」と述べていたのが一番大きい。希美が自分のことをリズだと認識していた場合、「でも今は……」の流れでいくと、色々と矛盾する気がするのだ。

それと、希美が夏紀と会話するシーンのセリフ。

希美「私さ、リズが逃した青い鳥って、リズに会いたくなったらまた会いにくればいいと思うんだよね」

夏紀「え〜、それじゃリズの決心が台無しじゃん」

希美「でも、ハッピーエンドじゃん?」

『リズと青い鳥』より引用

個人的にこのシーンは、希美の怖さみたいなものが出てきたシーンだと解釈している。この段階で希美は「音大に行く」という見栄を張っているし、希美の性格を考えても、このセリフにおける青い鳥は自分のことを指しているのではないかと思う。

実際『ユーフォ2期』にて、希美はリズ(みぞれ)に会うために、また吹奏楽部に戻ってきたではないか。

以上のことから、希美も希美で自分のことを青い鳥だと思っていたのではないかと思う。

【アンサー】リズと青い鳥の正体

結論から言ってしまうと、希美とみぞれは「二人ともリズだし青い鳥」というのが一番しっくり来ると思う。

まず考えていきたいのは、声優起用だ。『リズと青い鳥』が面白いのは、童話の中で登場したリズと青い鳥の声優が同一人物であるという点である。しかも、起用されたのは当時15歳の本田望結だ。もし「どちらかがリズでどちらかが青い鳥」なのだとしたら、それぞれで声優を分けてもよかったはずである。しかし、実際は同一人物だった。これは解釈次第では「リズでもあり青い鳥でもある」と読み取ることができてしまう。

それに、やはり希美もみぞれも、リズと青い鳥、どちらの見方ができてしまう。大まかに分けると、交友関係ではみぞれがリズで希美が青い鳥となり、音楽の才能では希美がリズでみぞれが青い鳥になるだろう。

本来であれば、みぞれも剣崎梨々花を始めとする後輩たちと上手く付き合うことができれば、いよいよ本当に青い鳥になりそうなものだ。だが、終盤のシーンを見てわかる通り、やっぱりみぞれは希美が圧倒的一番なのである。ワンチャン、恋愛にまで発展してるレベルの重い方の”好き”である。

文句なしのハッピーエンド

童話『リズと青い鳥』は、やはり悲しいお話だ。誰もがそういう印象を抱くだろう。せっかく友達になれたリズと青い鳥だが、青い鳥の自由を尊重したリズが籠を開けてしまうのである。

この物語に対して希美は、終始「ハッピーエンドの方が良い」と主張していた。冒頭でのみぞれとの会話でもそうだし、先ほど引用した夏紀とのシーンから見てもわかる。

それで中盤から、みぞれが青い鳥であることが発覚。そしてとてつもない才能が、希美に襲いかかった。あの演奏シーンで希美のプライドは大いに傷ついたことだろう。

それから『リズと青い鳥』のクライマックスと言える理科室での出来事に繋がる。このシーンは本当に心苦しいし、なんなら怖さまで感じた。希美の嫌な部分が前面に出ていたことに加え、みぞれの希実に対する愛がとにかく重いのだ。笑

それで、みぞれの告白とも言える「好き」の嵐に対して、希美は「私もみぞれのオーボエが好き」と答える。それから少し間を置いて、希美はふと笑いだすのである。

なぜ笑い出したか。これは僕の個人的な推察だが、希美は自分が口にした「ハッピーエンドの方が良い」という言葉を思い出してしまったのだと思う。
青い鳥は、リズに会いたくなったらまた会いにくればいい。希美がみぞれに会いに吹奏楽部に戻ってきたように、あの神がかりの演奏で大空を羽ばたいたみぞれも、希美に会いに希美のところに戻ってきたのである。これでめでたくハッピーエンド。
……という流れに気づいてしまった希美は、自らの発言を頭の中で反復してしまい、思わず笑ってしまったのである。あぁ、なんて滑稽な物語だったのだろうかと。

良好な人間関係とは

『リズと青い鳥』から学べる教訓は何か。それは人間関係の在り方に尽きる。

多くの人は、友人関係を地球と月の関係のように解釈している。月は地球の周りをグルグルと回るので、いつまでもずっと一緒。一緒にいればいるほど、仲がいい。そういう考え方。しかしこれは、やはり重い。

当初の希実とみぞれも、まさにそんな関係だった。みぞれは言わずもがな希美が大好き。そして希美の方も、自分に依存するみぞれに対して、無意識的に優越感を得ていたことだろう(ここに切り込んだのが『ユーフォ』の凄いところ!)。

しかし、残念ながらこれでは前に進めないのだ。希美もみぞれも、それぞれ違う人間。高校生までは同じで良かったかもしれないけど、卒業後は嫌でも別々の道に進まなければならない。

地球と月の関係ではなく、地球と火星の関係。つまり惑星同士の関係というのが、良好な人間関係なのではないだろうか。たしかにずっと一緒ではないかもしれないが、いずれはまた会える関係。これが本物の友人関係なのではないかと僕は思う。

おそらく今後も希美とみぞれは、長い目で見ればずっと一緒にいるのだと思う。しかし365日ずっと一緒にいるわけではない。たまーに会う。前よりも会う頻度は少ないかもしれないが、その分、希美とみぞれは自分の道を突き進むことができるのだ。

【さいごに】The film is perfect.

個人的に『リズと青い鳥』はパーフェクトな仕上がりだったと思う。本当に文句なしだった。作画もストーリーも音楽も、全部がパーフェクト。欠点は何一つ見当たらない。90分はあっという間で、ぜひ映画館で鑑賞したい作品だった。

なお『リズと青い鳥』は玄人向けの作品なのかもしれないが、個人的には、TVアニメの久美子とあすか先輩の関係の方がずっと難しいことをやっていたと思う。『リズと青い鳥』の方が洗練されている分、まだわかりやすい。

さて、次は『響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜』を鑑賞しよう。鑑賞次第、ブログにしようと思う。

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