今回は『ホーホケキョ となりの山田くん(以下、となりの山田くん)』について語っていく。
『となりの山田くん』はいしいひさいちによる漫画が原作で、これが1999年に劇場アニメーションで公開された。
アニメ制作はスタジオジブリ、監督は高畑勲が担当している。
『となりの山田くん』の評価
※ネタバレ注意!
作画 | 97点 |
世界観・設定 | 87点 |
ストーリー | 90点 |
演出 | 94点 |
キャラ | 85点 |
音楽 | 90点 |
作画
スタジオジブリ初となるデジタル制作なのに、デジタル制作の真逆とも言えるし、デジタル制作だからこそできるとも言える水彩画チックな作画になっている。「1999年当時で見ていたら、たまげただろうな〜」と思ったけど、この水彩画チックな作画が大衆に受け入れられるはずがないので興収はちょい微妙。それでいてコストが増大したことから、一時的に大きな赤字になったそうだ。
個人的に『となりの山田くん』は、膨大なリソースを投下したアートアニメーションだと思っていて、そしてこの作風が『かぐや姫の物語』に受け継がれることになるんだと思う。
世界観・設定
言ってしまえば「メッセージ性のあるサザエさん」みたいな感じだ。「家族生活はいざこざがあるんだから適当に生きようぜ!」というのを面白おかしく、それでいて芸術的に描いている。メッセージ性自体はありきたりのものだけれど、映像表現が極めて個性的だから、自然と世界観に魅入られた。
ストーリー
ストーリーは、延々と日常系パートが続いていく感じ。高畑勲と言えば『火垂るの墓』や『おもひでぽろぽろ』みたいなちょっとネガティブなストーリーのイメージがあったけれど、『となりの山田くん』は終始、和やかな雰囲気でストーリーが紡がれていた。サザエさんと同じようなイメージ。
演出
映像表現はもちろんのこと、間の使い方が上手く、セリフが全て関西弁ということもあって、普通にギャグで笑ってしまった。それと音楽の使い方も絶妙。様々な挿入歌が用いられていて、映像表現と相まって、素晴らしい鑑賞体験を得ることができた。
キャラ
キャラは、まあ典型的な”騒がしい家族”という感じである。一方で、映像全体が水彩画チックであることから、原作漫画のキャラデザを忠実に再現できているようにも思える。特にののちゃんの髪型とか謎でしかないんだけど、これも普通の手書きアニメーション(それもジブリ作画なら尚更)だったら絶対再現できなかっただろうなぁと思う。
音楽
様々な楽曲がふんだんに用いられている。そして主題歌『ひとりぼっちはやめた』も、本作で使用された有名楽曲に負けない素晴らしい楽曲だった。矢野顕子、恐るべし。これぞ天才だ……。
『となりの山田くん』の感想
※ネタバレ注意!
「個人×家族」って意外にジブリで描かれてない?
『となりの山田くん』のテーマは、紛れもなく家族である。家族って、まあ血が繋がっているから家族なのだけれど、基本的に、好き勝手に家族を選べるわけではない。もちろん、妻とか夫は自分で選べるけれど、親を選ぶことはできない。父親と母親の間に自分が生まれたら、その父親と母親は紛れもなく両親なわけで、それを取っ替え引っ替えすることなどできない。
当然、軋轢も生まれる。いくら血が繋がっているからって、共同生活がスムーズにいくわけではない。むしろ、血が繋がっていて、似たり寄ったりだからこそ、共同生活がスムーズにいかないという見方もできる。もちろん、家庭によるのだろうけれど。
んでまあ、その辺の部分を描いているのが『となりの山田くん』なのだけれど、ジブリ作品全体を見た時に、意外にも「家族」を中心に描いた作品って、そんなに多くないよなぁと思う。個人と社会(大自然)との結びつきとか、子供が大人になる過程が描かれることはあるけれど、あくまでも大半のジブリ作品における「家族」とは「いつでも帰れる場所」であって、その「いつでも帰れる場所」を中心に物語が展開されることは、ほとんどなかったと思う。
それでいて『となりの山田くん』のメッセージ性は、言ってしまえば「適当」なのだけれど、本当にその通りだなぁと思う。良好な家庭を上手に築くコツは「適当」なのだ。それはつまり、完璧主義からの脱却である。自分が完璧であろうとか、家族に対して完璧を求めようとか。こういうことが家庭崩壊の始まりなのである。
子どもであれば「親がもっとお金持ちだったらなぁ」と思うかもしれないし、親であれば「子どもがもっと頭が良かったらなぁ」と思うかもしれないんだけれど、しかしそれを望んだところで何かが生まれるわけでもないし、強制なんてしたらもっと話がこじれる。
結局大事なのは「適当」。山田家は、毎日不満を口にしながらも、なんだかんだで上手くやっている。良好な家族って、そういうものなのである。
リアリティの魅せ方がヤバい
今回の『となりの山田くん』は、高畑勲作品の中でも、極めて芸術性の高い作品だと思う。スタジオジブリ作品の中で、本作が初めてのデジタル制作作品にもかかわらず、その真逆をいく水彩画チックの映像表現。それでいて、物語自体は、極めてリアリティのあるストーリーとなっていて、いわゆる「家族あるある」が延々と描写されるだけである。
でも、その誰にでもある「家族あるある」に対して、芸術性の高い映像表現および演出を用いることで、華やかに魅せている。視聴者を世界観に引きずり込んでいく。「これはちょっとすごいなぁ」と思った。
スタジオジブリの中で、宮崎駿がファンタジーを描き、高畑勲がリアリティを描くと言われている。たしかに高畑勲の作品は、リアリティ色が強く、本作も例外ではない。家族で生活するんだったら誰もが直面するちょっとした風景が、とても丁寧に描かれている。
でも、その魅せ方がヤバいのだ。様々な楽曲を用いて雰囲気を演出しながら、そもそもの映像表現で濃厚な味を出していく。「もしかしたら高畑勲の最高傑作かもな」と思わされる素晴らしい作品だった。
さいごに
先ほども述べた通り、一応現段階では個人的に本作が「高畑勲の最高傑作」なのではないかと思う。でも、もっと強烈な作品が後ろに控えている。『かぐや姫の物語』だ。
やはり実験的なアニメーションと大衆映画がよくわからないバランスで混じり合っている作品が、一番美味しいと思う。それでいくと、本作はまさにドンピシャだった。