今回は『アーヤと魔女』について語っていく。
『アーヤと魔女』はダイアナ・ウィン・ジョーンズによるファンタジー小説が原作で、これが2021年8月に劇場公開された。アニメ制作はスタジオジブリ、監督は宮崎吾朗が担当している。
『アーヤと魔女』の評価
※ネタバレ注意!
作画 | 90点 |
世界観・設定 | 88点 |
ストーリー | 87点 |
演出 | 85点 |
キャラ | 85点 |
音楽 | 80点 |
作画
スタジオジブリ初のフル3DCG作品で、セルルックの加工は一切施されていないことから、ピクサー映画を彷彿とさせる仕上がりになっている。そして実際のクオリティに関しては、キャラクターはもちろんのこと、背景もしっかり細かく描写されていて、ちゃんとリソースを投下していることがわかる。
世界観・設定
ちょっとおもしろい世界観。一応、魔法が使える世界観になっているけれど、実際に登場する舞台は孤児院とベラ・ヤーガの家だけ。これは多分、3DCG制作におけるリソースの節約もあるんだろうけれど、それを差し引いても、これまでのジブリ作品には全くなかった魅力だと言える。『アーヤと魔女』のメッセージ性も、かなりおもしろい。
ストーリー
83分という尺なので、ジブリ作品の中だと短尺になる。でも、尺が足りないわけではなく、普通にスッキリとした印象がある。ストーリーの構成も非常にシンプルだ。ちょっとわかりづらい部分が多々あるし、一体何がメインパートなのかもわかりづらいんだけれど、それも含めてジブリっぽいのかもしれない。
演出
“3DCG”というジブリ初のジャンルで、ジブリらしい演出自体はなかったんだけれど、新しいジブリを見せることに成功したんじゃないかなぁと思う。実際、アーヤの表情はかなりユニークだった。
キャラ
アーヤ以外のキャラクターは、割とジブリライク。ベラ・ヤーガもマンドレークも、ジブリらしいと言えばらしい。そしてアーヤが意外にかなり作り込まれている。実際、アーヤが「人を操る魔法」を使っていたのか。そしてアーヤの母親はどのような存在なのか。意外に、考察しがいのあるキャラ設定になっている。
音楽
1990年代のイギリスが舞台ということで、UKロックが1つのテーマになっている。曲時代は正統派のロックという感じ。というか、ロックが登場したジブリ作品って、もしかして『アーヤと魔女』が初めて?
『アーヤと魔女』の感想
※ネタバレ注意!
期待以上におもしろかったけど何かが足りない……
個人的に『アーヤと魔女』はジブリの黒歴史に認定されていると思ってるんだけど、ただ僕が思っていたよりも『アーヤと魔女』はおもしろかった。たしかにこれまでのジブリ作品に比べると物足りないのは事実だが、普通のフル3DCGアニメ作品の中だったら、全然上位に進出ぐらいのパワーがあると思う。
ということで『アーヤと魔女』は、僕の期待以上におもしろかったわけだが、何かが足りない気がするのである。その”何か”があれば『アーヤと魔女』はもっと化けていたのだと思うんだけれど、その”何か”がよくわからない。
まず考えられるのが3DCGだ。手描きから3DCGに移行したことで、”温かさ”みたいなものが失われたのではないだろうか。しかし『アーヤと魔女』自体は、普通にかなり温かい作品に仕上がっていたと思う。というか3DCGが、意外にもかなり温かった。人間の柔らかさもしっかり再現されているように思う。
あとは根本的なストーリーも挙げられるかもしれない。『アーヤと魔女』は、非常に狭い世界観の中で描かれる。これまでのジブリ作品のほとんどは、個人と社会の関わり方について考えさせられる作品が多かった。だが『アーヤと魔女』に社会は登場しない。最も大きい単位は「家族」であり、それ以上に大きい単位が登場することはなかった。
一応『借りぐらしのアリエッティ』も、非常に狭い世界観で描かれるのだけれど、小人目線で描かれているから、多分例外。それに『借りぐらしのアリエッティ』は、個人と社会の関わり方について色々と考えさせられるわけだし……。
これぞいわゆる”言葉にできない何か”なのだと思う。『アーヤと魔女』では、これまでのジブリ作品にあった”何か”が失われたのである(個人的意見)。この違和感は、一体何なのだろうか……。
これまでになかったメッセージ性
とはいえ『アーヤと魔女』のメッセージ性は、非常にユニークなものだったし、その点については、色々と思うことがあった。
『アーヤと魔女』の注目ポイントは、アーヤの名前にもなっている「アーヤ・ツール」、つまり人を操る魔法である。これが魔法なのかどうかは一旦置いといても、たしかにアーヤは、人を操る能力を有しているようだ。人を操るといっても、操り人形のように操るのではなく、自分の好きな感じに操る能力という感じ。孤児院の生活でも自分の思い通りのように生活し、そしてベラ・ヤーガという曲者に対しても、最終的には自分の思い通りに生活するだけのアドバンテージを得ることに成功した。
その際にアーヤが実践したアクションというのが、大まかに言えば「まずはこちらから歩み寄る」ということである。アーヤは、とにかくイタズラ好きで、反骨心が強いことから、ベラ・ヤーガにどれだけ虐められても全然へっちゃらで、むしろ「やり返してやる」という感じである。でもその中でちょっと可愛かったりするから、それでベラ・ヤーガやマンドレークがやられてしまうのである。まさに、魔性の女だ。
『アーヤと魔女』から得られる教訓は、世渡り術である。まず大前提として、どれだけ理不尽なことがあっても、それに耐えられるポジティブマインドが必要。むしろ「やり返してやる!」ぐらいの気骨が必要なのかもしれない。でもその上で、1人の人間としての優しさも重要だ。多分アーヤは、これを計算ではなく、完全に無意識に実践している。めちゃくちゃあざとい戦術を無意識に実践してしまえるアーヤは、紛れもなく魔性の女であり、たしかに魔女なのである。
あぁ、それで『アーヤと魔女』で「人を操る魔法」なのか。魔性の女で、魔女ね。笑
さいごに
『アーヤと魔女』は、なんかジブリの歴史から完全に排除されそうな雰囲気になっているけれど、3DCGのアニメーションとしてはクオリティが高いし、メッセージ性も普通におもしろいので、見て損はない作品に仕上がっているように思う。
はたして次もジブリが3DCG作品を作るかは微妙だけれど、宮崎吾朗が制作する可能性は十分にある気がするな。