今回は『チェンソーマン』について語っていく。
『チェンソーマン』は、藤本タツキ先生によって『週刊少年ジャンプ』で連載されている漫画が原作だ。これが2022年秋クールに、MAPPA制作のアニメで放送された。
製作委員会ではなくMAPPAが単独で資本を出したことで、放送前にはかなり話題にもなった。
『チェンソーマン』の評価
ネタバレ注意!
作画 | 90点 |
世界観・設定 | 90点 |
ストーリー | 90点 |
演出 | 90点 |
キャラ | 88点 |
音楽 | 88点 |
作画
作画は普通に良かったと思う。戦闘シーンなどで3DCGが採用されていたけれど、しっかりセルルック(手描き風)になっている。さすがMAPPAという感じ。
世界観・設定
世界観がいい感じにぶっ壊れている。これは明らかに原作漫画の影響だ。こんなダークでクレイジーな世界観の作品が「勝利・友情・努力」を信条とする『週刊少年ジャンプ』で連載されているのが、時代を感じさせる。
それに、とにかくぶっ壊れているように見えて、なんだかんだで深いメッセージ性も伝わってくるのが不思議だ。藤本タツキのセンスを感じさせる。
ストーリー
ストーリーも終始面白かった。というのも普通に人が死んでいくので、誰がいつ死んでも全くおかしくない状況を作り出している。流石にデンジとマキマが死ぬことはないにしても、それ以外のキャラは普通に死にそうだからハラハラする。
演出
演出のクオリティは高いだろう。『チェンソーマン』のイかれた雰囲気をしっかり再現していると思う。戦闘シーンの描き方も上手いし、キャラの表情の表現も巧みだった。
キャラ
ジャンプ作品はキャラが圧倒的に強いが、『チェンソーマン』も全く例外ではない。むしろ、歴代ジャンプ作品の中でもトップクラスで印象的だ。特にデンジやパワーがイカれてるけど、マキマも素敵。
音楽
OPの『KICH BACK』は普通に良曲。流石、米津玄師。
そしてEDは全12話で全て異なる構成となっており、それぞれのエピソードの雰囲気に合わせた楽曲が用いられている。どの楽曲もサブカル要素が強めで中々新しい。ただ、ソニーミュージック所属のアーティストが多いイメージがあるのが少し気になった……。
『チェンソーマン』の感想
ネタバレ注意!
デンジの言動がめちゃくちゃ深い
『チェンソーマン』は、グロテスクな演出やクレイジーなストーリーが刺激的で、どうしてもそこに注目してしまう。しかしその裏側では、中々興味深いメッセージが散りばめられていた。その中でも特に、デンジの言動が僕にはとても印象的だった。
まずデンジは、生まれながらにして奴隷同然の非常に貧しい生活を送っていた。だから、人間としての普通の生活を送れるだけでも十分な幸せを感じている。そしてだからこそ、常人ではあり得ないぐらいのリスキーでクレイジーな行動を取ることができる。
それはつまり「失うものは何もない状態」であり、これによってデンジは圧倒的な強さを発揮することができている。
そして僕たちは、こんなデンジの立ち振る舞いから、2つのメッセージを感じ取るべきだ。
まず1つめは、当たり前の生活を送れるということが幸せであること。
人々はやたら”成功”を求めるし、お金を持つことが幸せに繋がると考えている。しかしそれは間違いだ。実は幸せというものは、そこら辺の日常に転がっているものなのである。つまり幸せは、手に入れるものではなく気づくものなのだ。
そして2つめは、失うものは何もないこと。
先ほど述べた通り、当たり前の生活を送れることが幸せということは、基本的にどんな失敗をしてしまっても、刑務所に入らない限りはノーダメージだといえる。だからこそリスクを取って挑戦することができ、人生を思う存分楽しむことができるのだ。
実際、今の時代は動画配信サービスに1つ登録しておけば、生活保護状態でもそれなりに幸せな生活ができると思う。だとするなら、セーフティラインを生活保護まで押し下げて、その分リスクを取ったチャレンジもできるはずだ。それで成功すれば万々歳だし、仮に失敗しても生活保護でそれなりに幸せな生活を過ごすだけ。そしてまた機を伺って再チャレンジすればいい。これはとてつもないぐらい幸せな人生ではないだろうか。
『チェンソーマン』のキャラで例えると、多くの人々は早川アキのような状態に陥っていると僕は考える。本来であれば幸せな生活(当たり前な生活)を送れるはずの早川だが、”復讐”に囚われるがあまり、どんどん不幸になっていく。そして同じように多くの人々も、仮初めの”安定”や”成功”に囚われて、すぐそこにある幸せに気づくことなく、心身がどんどん疲弊しているのだ。
だとすると、僕たち人間はデンジのように立ち振る舞うべきではないだろうか。
当たり前の生活ができればOK。あとはそれを担保にしながらガンガンリスクを取って、死なない程度に自分のやりたいようにやり、人生を楽しむ。
そんなことを僕は、デンジの言動を眺めながら考えていた。
MAPPAが単独出資したけど……
少しビジネスライクな感想も述べてみる。
『チェンソーマン』は放送前から、MAPPAが単独出資したことで話題になっていた。通常、テレビアニメというのは様々な企業が出資する製作委員会方式で資金調達される。その方がリスクが分散されるからだ。しかし『チェンソーマン』はMAPPAが単独で出資した。それはつまり、リスクを全てMAPPAが背負うということだ。
特に『チェンソーマン』の場合、制作コストが通常のアニメの数倍に膨れ上がるのは間違いないコンテンツ。それをMAPPAが単独出資したというのは、アニメヲタクにとって衝撃的なニュースだった。
ただし僕の中で懸念点が2つある。
1つめは、結局のところIPは集英社が持っているという点だ。
たしかにMAPPAが単独出資することで、他の企業の言い分を聞くことなく、MAPPAがやりたいように制作を進めることができる。しかしIPを保有しているのは集英社であるため、メディアミックスにおける最終的な決定権は集英社が保有しているといっても過言ではない。つまり、MAPPAは『チェンソーマン』を自由に制作することはできても、自由に展開することはできないのだ。
そして2つめは個人的な憶測なのだが、ソニーに寄っている点だ。
「MAPPAが単独出資した」影響なのか、EDは全12話で異なる楽曲を採用する形式が用いられた。しかしそのEDの主題歌の約半分がソニーミュージック所属のアーティストなのである。OPの米津玄師もソニーミュージック所属。そして『チェンソーマン』の音楽を担当した牛尾憲輔もソニーミュージック。
そして何よりも見過ごせないのが、デンジ役の戸谷菊之介とマキマ役の楠木ともりもソニーミュージック所属なのだ。音楽をソニーに頼るのは妥当だとしても、声優起用を事務所で選考するのはちょっと見過ごせない(もちろん憶測)。
しかもマキマに関しては視聴者の多くから「声質が合ってない」という指摘がされている。もし、楠木ともりの起用がソニーの力によるものだとしたら、はたしてMAPPAが「自由に制作するために」単独出資した意味があると言えるのだろうか。
この2つの懸念点があるため、僕はMAPPAの単独出資という判断が正解だとは断言できない。しかも2022年秋クールは『びっち・ざ・ろっく!』などがめちゃくちゃ注目されてしまった。『チェンソーマン』の影が予想以上に薄くなってしまっている。
そう、もはや投資分を回収できるかが怪しい段階になってきているのだ。まあでもそれなりのスパンをかければ、なんだかんだで回収できる気はすると個人的には思うけど……。仮に製作費を10億円と見積もっても、普通に回収できそうだけどな。MAPPAがちゃんとメディアを展開できれば。
さいごに
『チェンソーマン』は、アニメとしてのクオリティが非常に高かったと思う。原作漫画勢からはそれなりに批判されているようだが、初見勢からするとかなり好印象だったのではないだろうか。
問題はビジネス面である。今回の『チェンソーマン』は、MAPPAにとって大きな挑戦だったというのは言うまでもない。もちろん、失敗すればMAPPAは大ダメージを被る。
だが大きな挑戦は、MAPPAがアニメスタジオとして自立していくためにも、どこかのタイミングで必ず実行しなければならなかった。そう考えると『チェンソーマン』という大注目コンテンツに単独出資できたのは、中々運が良かったといえる。
そしてそもそもMAPPAは生産ラインを複数持っていて、しかも『呪術廻戦』や『ゾンビランドサガ』の続編制作がほぼ決定している。なによりも、MAPPAの技術力の高さは既に高い評価を受けている状況だ。だから仮に『チェンソーマン』がコケてしまっても、またイチからやり直すことは十分に可能だと考えられる。
そう考えると、MAPPAが仮に『チェンソーマン』で失敗しても、そんなに大したことにならない。考え方としてはデンジと全く同じだ。またゼロからやり直せばいいのである。