【リンダはチキンが食べたい!感想】生き生きとしたアニメ表現

リンダはチキンが食べたい!

今回は『リンダはチキンが食べたい!』について語っていく。

『リンダはチキンが食べたい!』は、フランスで制作されたアートアニメーション映画で、世界最高のアニメ映画祭であるアヌシー国際アニメーション映画祭で、グランプリとなるクリスタル賞を受賞している。

目次

『リンダはチキンが食べたい!』の評価

※ネタバレ注意!

作画89点
世界観・設定・企画85点
ストーリー80点
演出85点
キャラ80点
音楽78点
※個人的な評価です

作画

制作技法としては「手描きアニメ」を採用している。アートアニメーションで「手描きアニメ」を採用している以上、当然のことながら、3DCGやFlashでは出来ないような映像表現になっていて、おもしろかった。線の使い方と、「色」としての形の使い方が、実に秀逸だった。全体的に、とても生き生きしていた。

世界観・設定・企画

フランスを舞台にしたフランスアニメで、近年のアートアニメーションで多く見られる「彩度の高い世界観」になっている。原色が多く用いられていて、これはたしかに、海外の3DCGアニメや、日本式アニメではできない表現である。

やはりアートアニメーションとして作られているだけあって、制作技法の段階で、強いメッセージ性を感じられる。それに加えて「子供向け」としての機能もしっかり担保されているので、感性豊かな子どもとクリエイターを強く刺激する作品に仕上がっている。

ストーリー

起承転結の「転」が多く、とにかく場面が転換し、それでいて全体としてはコメディ作品だった。尺が約70分というのも絶妙な長さで、ちょうどよかったし、テンポ感も中々に良かった。

演出

後述するが「現在を生きる」というメッセージ性が強いこともあり、全体として、キャラクターがとても生き生きしている。このフレッシュさを生み出しているのは2つ。1つめは、映像を作る前に録音するプレスコであること。もう1つは、原画を担当するアニメーターに大きな裁量を与えていることだ。まさに「現在」を重視した制作方式を採用しているため、これほどまでにキャラクターが生き生きしているのである。

キャラ

キャラクターはとても生き生きしている。キャラクターデザインとかは基本的にないはずだけど、原色を用いてキャラクターを区別化しているので、すぐに判別できる。

音楽

ミュージカル形式の演出で登場した音楽は印象に残っているけど、特段、印象的な劇伴は音楽表現はなかった。

『リンダはチキンが食べたい!』の感想

※ネタバレ注意!

フランスだからこそできるアニメ

日本人の僕が本作を見たとき、まず思ったのが「フランスらしい」ということだ。世界的にフランスはストライキが多い国で、とにかく労働者が、賃金交渉をしたがる。そのため、グローバル企業の多くは、ストライキが原因で、フランスへの進出を見送ることがある。とはいえ、フランス人全員がストライキをしたいわけではなく、作中でも描かれたように、賃金交渉に興味がないフランス人もいる。フランスにとってストライキと言うのは当たり前の日常なのだろうが、日本人の僕にとってはかなり新鮮な体験だった。

また、フランスは欧州の中でも移民の受け入れが比較的活発で、白人だけでなく、多くの人種が混在している。実際、サッカーのフランス代表のメンバーを見ると、そのほとんどで、ネグロイドの傾向が見て取れる。

だからなのかはわからないが、キャラクターが実にカラフルに描かれている。下手に人種差別を刺激しないための演出という側面もあるんだろうし、純粋にアートアニメーションとして「人種なんて関係ない」というメッセージを込めているようにも見える。

どちらにせよ、本作が実にフランスらしいアニメーション映画になっているのは間違いない。

過去ではなくて現在を見る

『リンダはチキンが食べたい!』は、アートアニメーションであると同時に、子供向けアニメでもある。そもそもアニメーションは子供向けのメディアで、それを前提として、アートとしての表現を追求しているのが、海外のアートアニメーション映画の特徴だ。だから、物語自体は実にシンプルで、しかも本作はコメディー作品としての要素が強いこともあり、奥底にあるメッセージ性を認識するのにちょっと苦労する。

それで、本記事を執筆しながら考えたんだけど、やっぱり「現在を生きる」というのが、メッセージではないかなと思う。実際、リンダ(主人公)とポレット(ママ)は、昔死んでしまったパパに囚われていたが、パプリカチキンをきっかけに、前を向いて生きる覚悟を持つことができた。どうも、その対比としてストライキが描かれているように思うし、アストリッド(叔母)がマインドフルネスとヨガの講師をしていたのも「現在を生きる」という暗喩が含まれていると思う。

「現在を生きる」というのは、現代社会における超キーワードだ。未来に対して不安を抱くのではなく、過去に囚われるのでもなく、現在だけを見て生きる。情報化社会とSNSの普及により、過去と未来にとらわれている人が多くなっている現代では、ここにある今に集中するマインドフルネスが大ブームである。これらのムーブメントを踏まえた上で、『リンダはチキンが食べたい!』が制作されているように思う。

さいごに

アートアニメーションは、アニメ制作の未来が詰まっているジャンルで、アートアニメーションで実験された制作技法が、数年遅れて日本のアニメ制作市場に持ち込まれることが多い。

『リンダはチキンが食べたい!』を見ると、手描きアニメの未来は「フレッシュさ」とか「現在」にある気がしていて、当然のことながら、3DCGやフラッシュアニメーションにはできない表現を用いる必要がある。

そのヒントとして『リンダはチキンが食べたい!』で採用されていた「モデルシートや絵コンテに縛らず、アニメーター1人1人が録音を元に自由に絵を描いていく」という制作技法が挙げられる。

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