【デデデデ後章感想】絶対を守るためならば

デデデデ後章

今回は『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション(以下、デデデデ後章)』 について語っていこうと思う。

『デデデデ』は浅野いにおによる漫画(ビッグコミックスピリッツ)が原作で、2022年までに全12巻が刊行された。そして2024年3月に『デデデデ前章』が公開。同年5月に『デデデデ後章』が公開された。アニメ制作はProduction +h.が担当した。

目次

『デデデデ後章』の評価

※ネタバレ注意!

作画91点
世界観・設定・企画89点
ストーリー88点
演出90点
キャラ90点
音楽88点
※個人的な評価です

作画

相変わらず作画のクオリティは高い。今回の『デデデデ後章』では、グロテスクなシーンや恋愛パートもあって色々な表情が見れた。クライマックスシーンの映像表現もたまらなかった。

世界観・設定・企画

『デデデデ前章』であれだけ散らかしておきながら、最後の最後でセカイ系らしい「よくわからない終わり方」で最高だった。一方でメッセージ性も十分伝わってきた。とても現代的なセカイ系アニメだと思う。

企画からプロモーション方法まで、何から何まで秀逸だった。

ストーリー

ラストは賛否両論ではあるものの、全12巻で壮大なストーリーを、よく2本の映画だけでまとめたなぁ、というのが率直な感想だ。実際、ストーリーの筋は通っているし、群像劇もしっかり描けている。たしかに各キャラの深掘りはできなかったが、それを求めるのも酷な話。

演出

やはりもっとも強烈なシーンは、東京が崩壊するシーンだろう。アイドルソングを劇伴にして東京が崩壊するシーンを見るのは、一見すると非日常だが、実はかなり真理を突いてるんじゃないかと思う。多分、僕たちは地球最後の日でも、スマートフォンを見てると思うから。

キャラ

120分の映画2本立てというストーリーの中で、それぞれのキャラが一体何を信じているのかがちゃんと伝わってきた。これぞ、現代的な「信念」と言えるものかもしれない。そしてやっぱり中川ひろしがカッコいい。

音楽

今回の主題歌『青春謳歌』は非常に爽やかなナンバーになっていて、おんたんと門出の友情愛が存分に伝わってくる。挿入歌の『あした地球がこなごなになっても』は、原作者・浅野いにおが作詞を担当した楽曲で、メロディーはいかにもアイドルソングっぽいが、挿入されたシーンと歌詞の相性が抜群すぎて最高だった。

『デデデデ後章』の感想

※ネタバレ注意!

大切な人を守るためなら

『デデデデ前章』の感想記事で、僕は「おんたんと門出の選択が世界の運命を決めるだろう」と書いた。多分、普通はそうなると誰もが思う。だが今回の『デデデデ後章』で、世界の運命を握ったのは、元・侵略者の大葉圭太だった。大葉くんは、自分にとって大切な人を守るために、本来であれば全世界を滅ぼすはずだった大爆発を、東京までに留めることに成功する。

もちろん、この大爆発によって、中川ひろしを始めとした多くの死亡者が出た。しかしその一方で、大葉くんにとって大切な人に値するオカルト研究会の人たちを守ることができた。

これは、元・侵略者の大葉くんの変化も示している。侵略者は人間と違って無欲とのことだが、”大葉くん”という人間の身体に入った元・侵略者は、次第に侵略者から人間になっていき、”大切な人を守る”という欲を惜しみなく発散する。

そう考えると、人間が持つ欲求というのは、その方向性とアプローチ次第で、いかようにもなるということなのかもしれない。大切な人を守るために優しくなれることもあれば、方向性を誤って、別・並行世界の門出のように、殺人を繰り返すようにもなる。

この”信念”の部分を間違えないようにするためにも、確固たる自分を持つことが、情報が溢れる現代社会で生き抜くコツなのだろう。

絶対を守るためなら

『デデデデ』は「絶対」がテーマになっている。

私はあなたの、絶対なの

『デッドデーモンズデデデデデストラクション』より引用

僕は門出の、「絶対」だからです

『デッドデーモンズデデデデデストラクション』より引用

門出にとっておんたんは絶対(に必要な存在)で、おんたんにとっても門出は絶対に必要な存在だ。おんたんにとって、門出のいない世界なんてあってはいけない。だからおんたんは、仮に世界が滅びるとしても、門出と一緒にいる世界を選ぶことにした。

一方で大葉くんも、人間としての生活を過ごしていく上で、おんたんのことが絶対だと思えるようになっていく。同時に、平和であることも強く望む。その結果、大葉くんは自らの命を懸けて、世界崩壊を防ごうとする。

大まかに言えば「絶対」とは「大切な人」のことなのだが、しかし人によって「絶対」は異なるものだ。例えば小比類巻健一は、自分が信じる世界崩壊のシナリオが絶対であり、だからあのような惨劇を作り出した。竹本ふたばも、彼女にとって絶対とは「侵略者擁護」なのだが、これを過度に信じすぎたがあまりにテロ活動に参加してしまうことになった。

人々は、自らの「絶対」を大切にするためなら何だってする。世界を滅ぼすこともあれば、自分だけが助かるために大切な人を見捨てることだってする。真実を追い求めるために、命を懸けることだってある。それがいわゆる「欲」なのかもしれない。

だが「絶対」に関して言えば、絶対を追求したデカルトに言わせれば「我思う、ゆえ我あり」であって、つまり、ほぼ例外なく「自分」という存在は間違いなく「絶対」である。だからこそ、やっぱり自分を第一に信じるべきなのだ。

俺が信じるお前でもない、お前が信じる俺でもない。お前が信じる、お前を信じろ!

『天元突破グレンラガン』より引用

インターネットの情報や、SNSに流れてくるデマ情報や、罵詈雑言の数々や、ネトウヨや、陰謀論者や、オーガニックを信じても、しょうがないではないか。まずは自分を信じよう。そして自分の信じた道を貫こう。そういったメッセージが『デデデデ』から感じ取れた。

さいごに

『デデデデ』は、個人的にはかなり好きな作品で、とても意義のあるテーマを扱いながらも、大衆性を確保することに成功していると思う。一方で興収は伸び悩んでいて、まあその理由もよくわかる。内容がかなりセンシティブだし、ちょっとした色物にも見えるからだ。

でも、バイアスフリーで見ても、やっぱり『デデデデ』はめちゃくちゃおもしろいと思う。仕上がりだけ見れば最先端の作りになっている。というか基本的に、アニメ映画作品にハズレはない。意欲的なテーマと大衆性の両立を実現するために、試行錯誤が繰り返されている。たぶん、今はアニメ映画がアニメ界でもっともおもしろい領域なのだと、改めて感じさせられた。

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