【フルメタTSR感想】京アニらしくないけど、京アニらしさもある

フルメタル・パニック!2期
星島てる
アニメ好きの20代。ライターで生活費を稼ぎながら、アニメ聖地の旅に出ている者です。アニメ作品の視聴数は600作品以上。

今回は『フルメタル・パニック! The Second Raid(以下、フルメタTSR)』について語っていく。

『フルメタ』は賀東招二によるライトノベルが原作で、2002年冬クールから2クールにかけてTVアニメ1期が放送。2003年8月から1クールで京都アニメーション制作の『フルメタふもっふ』が放送され、2005年夏クールに『フルメタTSR』が放送された。

アニメ制作は京都アニメーションが担当している。

目次

『フルメタTSR』の評価

※ネタバレ注意!

作画85点
世界観・設定85点
ストーリー88点
演出85点
キャラ85点
音楽80点
※個人的な評価です

作画

さすが京都アニメーションということで、作画のクオリティはこの頃から高い。流石に2010年代以降のクオリティではないけれど、2005年の時点でこれだけのクオリティだと、本当に他社に追随を許さない状況だったのだなぁと簡単にイメージできる。

戦闘シーンは「あと一歩」というところで工夫が施されているのが素晴らしい。個人的には、終盤でかなめが宗介を蹴り飛ばすときの回転の仕方が印象的だった。

世界観・設定

前評判では「TVアニメ1期よりもシリアス強め」だったのだけれど、思っていたよりはコメディもあった。また『フルメタTSR』もTVアニメ1期と同様に、想像以上に相良宗介が深掘りされている。強さに拘っていた相良宗介と、徐々に人間らしさを手に入れていく世界観。『フルメタTSR』は非常に暴力的な作品だけど、宗介の人間らしさを手に入れていく過程は、実に京アニ的だなぁと思う。

ストーリー

ストーリーはめちゃくちゃに面白い。SFロボットでミリタリー要素の強い作品なので、一見すると重い作品だが、シナリオ自体はとてもシンプル。群像劇というわけでもなく、基本的には千鳥かなめと相良宗介とテッサの3人の視点で物語が進んでいくので、わかりやすい。

また、第1話から第4話がアニメオリジナルということだが、原作者の賀東招二が脚本・シリーズ構成を担当しているため、ストーリーの整合性が取れている。その上、15禁にふさわしいグロテスクでエロな描写がたっぷり挿入されているのがこのパートで、序盤の段階で前作『フルメタふもっふ』の緩い雰囲気を一気に削ぎ落とすことに成功している。

演出

相良宗介がどんどん腐っていくあたりの演出は素晴らしいと思う。こちらも絶望感を味わうことができた。

また、なんだかんだで『フルメタTSR』は京アニ唯一のロボット作品だと思うけれど、ロボットの描写も素晴らしかった。

キャラ

テッサが主人公のOVA作品である『わりとヒマな戦隊長の一日』でテッサに胸キュンしてしまったためここで100点を差し上げてもいいぐらいなのだが、一旦冷静になって、無難に85点とすることにした。

『フルメタTSR』は、千鳥かなめと相良宗介の闇の部分が肝になっていた。特に相良宗介の葛藤は、男性に刺さると思う。たしかに、相良宗介がラノベ界屈指の人気キャラなのも頷けるところだ。

ちなみに『わりとヒマな戦隊長の一日』は、『フルメタふもっふ』のミスリル版ということで、めちゃくちゃ面白かった。やっぱりマオとウェーバーが最高だ。

音楽

OPの『南風』はボーイ・ミーツ・ガールを感じさせる爽やかなナンバーだ。EDの『もう一度君に会いたい』は千鳥かなめと相良宗介の心情を歌ったバラード。どちらもとても良い曲だ。

『フルメタTSR』の感想

※ネタバレ注意!

完成度高すぎ……

『フルメタ』の最大の特徴は、SFロボット×ミリタリーという硬派な世界観に、学園ラブコメとボーイ・ミーツ・ガールを巧みに組み合わせている点にある。正直なところ、TVアニメ1期は無駄に学園ラブコメに寄せていたので、この絶妙なミックス加減が損なわれていたように思える。一方『フルメタTSR』は、京都アニメーション制作ということもあって、実に素晴らしいクオリティに仕上がった。京アニは「原作をリスペクトした上でオリジナル要素を加える」とよく言われており、実際本当にその通りだと思うが、そう言われるようになったきっかけが『フルメタTSR』ということになるだろう。

『フルメタTSR』のアニメオリジナルエピソードは第1話から第4話まで。ラノベにできなくてアニメにできる演出として、第2話『水面下の状景』の高頻度の場面転換が挙げられる。アマルガムによる超グロテスクなシーンと、宗介とかなめによるたわいもない日常が高頻度で切り替わっていくのだ。この演出は、文章では難しい。映像だからこそできる演出だと言える。メディア特性の違いと『フルメタ』の強みを最大限に活かした素晴らしい演出だった。

また『フルメタTSR』では千鳥かなめ、相良宗介、テッサの闇の部分が直接的に描いていたのが印象的で、少年少女特有の葛藤をSFロボット×ミリタリーという世界観の中で描き切っているのが実に素晴らしい。一見すると突飛なストーリーのように思うが、なぜか共感できてしまうから不思議だ。

暴力的だけど、どこか京アニらしい

京アニは非暴力的かつ非エロな作品を多数生み出していることで、世界的に高い評価を受けてきたアニメスタジオだ。

一般的に深夜アニメは、他の時間帯のアニメに比べて刺激が強い。たしかに、中学生や高校生がこっそり深夜に刺激の強いアニメを見るというのは、何ともいえない背徳感があり、そして中毒性があった。だから製作側としても、視聴者を惹きつけるために様々な刺激を盛り込む。その代表例がグロでありエロであり萌えである。実際、僕の友人にも「とにかくグロいアニメを見たい!」というやつがいる。『SAO』の「これは、ゲームであっても、遊びではない」は最高だった。

一方、京アニがこのようなグロに頼る機会は少ない。たしかにちょっと感動ポルノ的な演出が多い気もするが、基本的にはヒューマンドラマをベースにした温かい作品が多いのだ。だが『フルメタTSR』は、その真逆をいく作品だと言える。初期の京アニ作品ということもあるが、それにしても15禁はヤバい。グロテスクな描写が多いし、なんと乳首も見せてくれる。だから現代の人は「『フルメタ』は京アニらしくない」と思うだろうし、実際、その通りだと思う。

ただ、それでもやっぱり僕は『フルメタTSR』が京アニらしいなと思わされた。

『フルメタTSR』の肝は、相良宗介がどのような選択を取るのかにあった。大きく分けて2つの選択肢があった。堕ちるか、堕ちないかだ。

ミスリル作戦部のメンバーのやり取りの中で、ミスリルと敵の違いが述べられていた。どちらも非常に大きな力を持っているが、ミスリスには魂や人間らしさがあるのに対し、アマルガムを始めとした”敵”は世界を冷笑的に見ているただの殺戮マシーンに成り果てているとのこと。ガウルンが少年期の宗介のことを”聖人のような眼をしていた”として、そこに他の人とは違う強みがあったという感じのシーンがあったが、元々、宗介はダークサイド側の人間だったわけだ。そして徐々に人間らしさを手にしていく宗介を見て、ガウルンは「弱い」と切り捨てた。ガウルンにとっての”強者”とは、人間の弱さを持たないことにあり、それはつまり、人間らしさから脱却することにある。

このシーンを経て、宗介はいよいよ堕ちる直前まで行き着いた。だが、そこに死んだと思われていた千鳥かなめがコミカルに登場し、「宗介は弱い!」と切り捨てるのである。

ダメ男。臆病者。へたれ。弱虫。だけど強い。とっても優しい。ダメなやつだけど、なんとかする。そういうやつだと思ってたんだけど?

『フルメタル・パニック! The Second Raid』より引用

『フルメタTSR』の核は、弱さを認めることにあった。千鳥かなめ、相良宗介、テッサの3人の直接的な闇を描き、そして自身の弱みにむき合わせることで、また一歩先に進んでいく。これが『フルメタTSR』で描きたかったことだと思われる。

ここで「なんだかんだで京アニらしい」と思ったのが、相良宗介が自分の力だけでなく千鳥かなめの力を借りることで立ち直ることができたということだ。僕は、この展開があまり好きじゃない。相良宗介自身の力だけで弱みと向き合うことが必要なのではないかと思っている派だ。もしかしたら、今後描かれる『フルメタ』で、そういったシーンがあるのかもしれない。でも少なくとも京アニが作った『フルメタTSR』では、千鳥かなめの力を借りることで、宗介は自身の闇を払拭することができたのである。言わば「俺には千鳥かなめが必要だ」ということ。

これからは「個人の時代になる」と言われていて、実際、”強い個人”を目指すストーリーは、SFロボット作品でよく描かれる。でも京アニは、これとは真逆の方向性の作品が多い。一人では何もできない。人の助けが必要なんだ。そういったメッセージを感じさせる。
そしてそれと同時に「”個の強さ”はそんなに必要ない」というメッセージも、僕は感じ取ってしまう。最強かつ合理的な生物・ドラゴンが、非合理的で醜いはずだった人間の生活に溶け込んでいく様を描いた『小林さんちのメイドラゴン』が、その典型例である。

表面的に見れば『フルメタTSR』はグロくて乳首も見られる刺激的な作品なのかもしれないし、そこだけを見れば京アニらしくないのかもしれない。でも『フルメタTSR』の根幹は、やはり相良宗介と千鳥かなめ(とテッサ)にある。そしてこの3人の成長の過程は、実に京アニらしいと僕は思う。

“強い個人”と”人に助けを求めること”は共存可能だと思う。でも”強い個人”と”この人がいないと俺は生きていけない”は、共存不可能なのではないかと僕は思っている派だ。これは、僕がまだまだ未熟者だからこういう捻くれた考えになっているのかはわからないが、そんなことを考えさせられるのが僕にとっての京アニ作品だし、そういう点でも、やっぱり『フルメタTSR』はとても京アニらしいと思うのだ。

さいごに

とりあえずOVAの『わりとヒマな戦隊長の一日』をなんとしてでも視聴することを強くおすすめしたい。テッサがめちゃくちゃに可愛い。まじで可愛い。やばすぎる。

そしてひとまず続編の『フルメタIV』も視聴したい。京アニ制作ではないものの、著名なアニメーターが多数登場していることもあり、中々期待できる。早速視聴したいと思う。

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