『化け猫あんずちゃん』感想:なぜアニメオリジナルで「地獄」を描いたのか

化け猫あんずちゃん

今回は『化け猫あんずちゃん』について語っていく。

『化け猫あんずちゃん』は、いましろたかしによる漫画(コミックポンポン)が原作。2024年に劇場アニメが公開される。

アニメ制作はシンエイ動画とMiyu Productionsが担当した。

目次

『化け猫あんずちゃん』の評価

※ネタバレ注意!

作画93点
世界観・設定・企画85点
ストーリー85点
演出90点
キャラ83点
音楽83点
※個人的な評価です

作画

本作では、実写で撮影した映像からトレースするロトスコープが採用されており、リアリティ溢れる動きとなっている。何気ない動作がリアルで、でもキャラクターは可愛らしいというギャップが魅力で、ずっと見ていられる。

世界観・設定・企画

リアルとファンタジーが激しく融合していて、全体的にちゃんと子ども向けに作られている印象がある。一方で、大人が楽しめるような仕掛けもちゃんとある。

全体的に雰囲気が楽しく、ずっと見ていたくなった。なんだかんだで大衆的だと思う。

ストーリー

本作はアニメオリジナルのストーリーがほとんどらしく、そもそも主人公のかりんちゃんがオリジナルキャラで、地獄のくだりも全部オリジナルだ。ぱっと見では特にメッセージ性がないように思えるが、本作のように、何もないと見せかけて実は深いメッセージが眠っている作品は多い。

全体として、ストーリーに飽きることもなかった。

演出

本作は、スタジオで動きと音声を収録してから、それをロトスコープでアニメーションにしているらしい。つまり本作の録音方式は、アフレコではなくプレスコということになる。ロトスコープの動きと相まって、リアリティを感じさせられた。

キャラ

オリジナルキャラであるかりんちゃんが、とても良いキャラをしている。かりんちゃんは、一見良い子そうに見えて、実は性格が悪い”猫かぶり”である。そして嘘つきは地獄行き。これが本作における「地獄」に繋がってくるのだろう。

音楽

全体的に音楽がカッコいい。それもそのはず。本作の音楽は『Mother』や『アウトレイジ』で有名な鈴木慶一が担当している。

『化け猫あんずちゃん』の感想

※ネタバレ注意!

なぜアニメオリジナルで「地獄」を描いたのか?

『化け猫あんずちゃん』をWikipediaで調べてみると、本作のストーリーの大半がアニメオリジナルであることが容易に分かる。なぜなら主人公のかりんちゃん自体がアニメオリジナルキャラだからだ。もちろん、お父さんとお母さんも原作に登場しないし、地獄も登場しない(ちなみに妖怪たちは原作にも登場する)。

視聴していて感じたことだが、本作は「子ども」をターゲットにしている。真っ当なアニメだ。だからオリジナル要素として、小学5年生のかりんを投下したのだろう。もちろん、親子連れも見越して、お母さんとお父さんも登場させている。僕もどちらかと言えば、親サイドで感情移入した。

では、なぜ「地獄」という要素を投入したのだろうか。どう考えても、本作の雰囲気に地獄は合わない(結果的にシュールさは生まれたが)。

僕が思うに、本作はリアリティとファンタジーの融合や対比を描きたかったのではないだろうか。

かりんは、現実逃避したかった

大人よりも子どもの方が発想が自由で、結果的にファンタジーに寄りやすい。そして、大の大人のように現実逃避しているわけでもない。が、かりんのように、親がダメダメだと、リアリティとファンタジーのバランスが崩れる。

かりんは、一見すると冷笑的で、割と現実的な見方をするように見える。だが、実際はかりんもまだまだ子どもで、寂しい気持ちを見てみぬふりをするために、嘘や虚栄で身を固めていたのだ。

この感情は、それなりの数の子どもたちが抱いていると僕は思う。やたらと親や先生に反抗したがる子が、その典型例だろう。

本当は親が、子どもが抱くファンタジーとリアリティのバランスを調整する必要があるのだが、かりんには近くに親がいない。そこで登場したのがあんずちゃんであり、地獄である。

嘘つきは、地獄に行く。嘘で身を固めていたかりんが地獄に行くのは、ある意味当然なのかもしれない。それと同時に、かりんにとって地獄は、死んだお母さんと会える可能性のある場所で、これこそまさにファンタジーである。

そのままお母さんを現実世界に引き戻そうとするかりんだったが、最後の最後でお母さんが、かりんを庇う形で、地獄に帰ることを決断する。ここで、かりんはようやく母の死を受け入れ、現実と向き合うようになる。

……と思ったのだが、かりんはお父さんと一緒に帰るのをやめ、まだ当分は妖怪たちと生活することに。まだまだ大人への道のりは長いが、小学5年生なのだから及第点だろう。

さいごに

ここ最近のアニメ映画は本当にすごくて、見るたびに「この作品はすげえ!」ってなってる気がする。本作もその例外ではなく、アートアニメーションのようでありながら、ちゃんと大衆にもウケている(僕が行った映画館では席がちゃんと埋まってた)。

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