今回は『古の王子と3つの花』について語っていく。
『古の王子と3つの花』は、フランスのアニメ監督の巨匠であるミッシェル・オスロが監督を務めたアニメーション映画で全3話構成となっている。
第1話『ファラオ』は古代エジプト、第2話『美しき野生児』はフランスのオーベルニュ地方、第3話『バラの王女と揚げ菓子の王子』はトルコを舞台にしている。
『古の王子と3つの花』の評価
※ネタバレ注意!
作画 | 85点 |
世界観・設定 | 83点 |
ストーリー | 80点 |
演出 | 80点 |
キャラ | 80点 |
音楽 | 83点 |
作画
Flashアニメーションで制作されたと思われる作画だが、クオリティは高い。第1話『ファラオ』は古代エジプトの壁絵を彷彿とさせる。第2話『美しき野生児』は影絵風で、ダークでユーモアのある雰囲気に仕上がっていた。そして第3話『バラの王女と揚げ菓子の王子』は、第2話『美しき野生児』の後ということもあり、色彩表現に注目がいく。
同じ作品の中で3つの雰囲気を楽しむことができる贅沢な作画だった。
世界観・設定
古代・中世・近代が舞台となっていて、それぞれの時代の世界観がうまく活用されていたと思う。
また、タイトルにもある通り”古の王子”が主人公で、非暴力かつハッピーエンドなのが微笑ましい。
ストーリー
語り手である女性が聴衆に向けて、3つの昔話を語る構成となっている。1つの昔話につき約30分なので、体感としてちょうど良かった。
演出
全体を通して1カットあたりの時間が短い。
また、Flashアニメーションは日本式アニメのような繊細な色彩表現がやりづらいので、それを逆手に取って、ビビットな表現を追求していたのが印象的だった。
キャラ
『古の王子と3つの花』というタイトル通り、古の王子が主人公になっている。3つのストーリーの共通点として、古の王子は、自らの国から離れ、自由と愛を手に入れたる。
クスッと笑えるユーモアさも印象的だ。
音楽
良い意味で眠たくなるような劇伴だった。実際、音楽にはかなり力を入れていたと思う。教養溢れる世界観にピッタリな古典的な音楽だった。
『古の王子と3つの花』の感想
※ネタバレ注意!
自由と愛の物語
やはり王族というのは、強い権力を持つ一方で、権力に縛られるから、退屈しがちなのかもしれない。『古の王子と3つの花』は、全ての作品で、主人公である”古の王子”が国を飛び出し、自由と愛を手に入れる物語だった。この物語から学べる教訓は多いが、どちらにせよ、自分の意思で環境を変えるというのが、とても大事なのだと思う。
また、”古の王子”は例外なく、最終的には愛に満ちたハッピーエンドを迎える。これは女性的なストーリーだと個人的に感じるが、実際、女性客の方が多かった。割合で言うと、7:3ぐらい。
それが古代・中世・近代と3つの時代背景で描かれているのだから、それなりに普遍的なのだと思う。
世界を舞台にした教養溢れるアニメ
僕は以前より、世界を舞台にしたアニメを作った方がいいと考えていた。実際、それはそこまで難しく無いのだけれど、残念ながら、日本から「世界を舞台にしたアニメ」はほとんど登場しない。聖地巡礼という名目で、日本国内を舞台にしたアニメが制作されることが多いが、それは単純にめんどくさいのと、取材費がかかるから海外を敬遠しているだけだと僕は考える。
一方『古の王子と3つの花』はエジプト、フランス、トルコを舞台にしたアートアニメーションである。オスロ監督が拠点としているフランス周辺の国ではあるものの、異なる文化をミックスさせた作品であるのは間違いない。
なお、オスロ監督は現地へ取材旅行に赴いているそうだ。そしておそらく『古の王子と3つの花』はFlashアニメーションで、日本のアニメよりも簡易的に作られているのは間違いない。それでも、やはり教養があるからこそ、作品としての濃度が高いのだ。
さいごに
『古の王子と3つの花』は、小規模の映画館でのみ公開されている作品で、視聴者層はアニメ好きというより映画好きという印象を受けた。実際、オタクっぽい感じの人はほとんどおらず、Filmarksとかでレビューを書いていそうな映画好きの女性の方が多かった。
日本式アニメが好きな僕としては、海外のアートアニメーションを視聴していると、どうしても日本式アニメと比べてしまう。そこで優劣をつけるわけではないが、どんなエッセンスを取り入れれば、日本式アニメをより面白く、かつ持続可能的でいられるかを考えるようにしている。
だからこれからも海外のアートアニメーション作品を視聴していこうと思う。何よりも、日本式アニメに比べて圧倒的に教養を感じるから。