【色づく世界の明日から感想】世界の見え方は、一瞬で変わる

色づく
星島てる
アニメ好きの20代。ライターで生活費を稼ぎながら、アニメ聖地の旅に出ている者です。アニメ作品の視聴数は600作品以上。

今回は『色づく世界の明日から(以下、色づく)』について語っていく。

『色づく』はP.A.WORKSによるアニメオリジナル作品で、2018年秋クールにTVアニメが放送された。

アニメ制作はP.A.WORKSが担当している。

目次

『色づく世界の明日から』の評価

※ネタバレ注意!

作画85点
世界観・設定・企画83点
ストーリー83点
演出83点
キャラ80点
音楽80点
※個人的な評価です

作画

キャラクター原案を担当しているのはイラストレーターのフライで、個人的に、かなりクセのあるデザイン原案だと思うのだけど、それを見事に動かしているのは、流石だなぁと思う。キャラクターがめちゃくちゃ動くわけではないけれど、背景のクオリティが高いので、全体の画として見たときにとても綺麗。この辺のバランス感覚がP.A.WORKSのアニメーション表現の特徴だと思う。

世界観・設定・企画

日常の中に少しだけ魔法が残っている不思議な世界観で、タイムトラベルが用いられる。そのうえ、長崎市を舞台にしているのが中々に渋い。この辺の舞台設定もP.A.WORKSの特徴で、なんだか『凪のあすから』を彷彿とさせる。テーマは、やはり「色」で、たしかに「色」というのは、人それぞれで見え方が異なるものだと思う。それを「世界の見方」に対比させて、登場人物の成長を描いていて、この辺はかなりセンスがいい。

ストーリー

全体的なストーリー構成は、かなりクオリティが高いと思う。少しだけ魔法が残っている世界で、タイムトラベル系で「色」をテーマにしているわけだけれど、それらの設定を惜しげもなく活用したストーリーになっている。改めて振り返ってみると、月白琥珀を第4話から登場させるのも含めて、中々に計算高いストーリー構成だ。

演出

個人的にP.A.WORKSは、視聴者を煽りすぎない演出が、最大の特徴だと思う。『色づく』も、やろうと思えば超感動モノにできたと思うけど、あえてそうしないのがPAらしい。おかげさまで、いつまでも心に残り続ける作品の完成である。やっぱりPAは最高だ!

キャラ

改めて『色づく』のキャラを振り返ってみると、登場人物の繊細な雰囲気は、キャラ原案のフライの力が大きいと思う。そう考えると、フライをキャラ原案に据えて人選のセンスが優れているように感じる。

全体として、まだ高校生のキャラの成長を描いていて「変わるor変わらない」のくだりとかは『凪あす』に近いものを感じる。ただし『凪あす』と明確に違うのが、月白琥珀の存在だ。第4話から登場している点も含めて、琥珀はやや外野に位置しているキャラだと思う。魔法が主役なのではなく、あくまでも魔法は、人を幸せにするための手段にすぎないということだ。

音楽

OPはハルカトミユキの『17才』で、これが中々に素晴らしい曲。爽やかでありながら切ない。EDはやなぎなぎの『未明の君と薄明の魔法』だ。やなぎなぎが作曲しているということで、幻想的な雰囲気が漂う『色づく』にピッタリな楽曲に仕上がっている。

『色づく世界の明日から』の感想

※ネタバレ注意!

やっぱりP.A.WORKSは最高だ!

『色づく』が放送された2018年秋クールといえば、超がつくほどの大激戦クールで、その中で見ると『色づく』は少々インパクトに欠ける。円盤売上も1,800枚ほどらしい(ネット調べ)。

しかしそんなことは関係ない。そもそもP.A.WORKSが手がける作品は、視聴者を煽りすぎることがなく、あくまでも視聴者の心に残り続けるものである。感動ポルノ系の泣きアニメとは違って、PA作品の感動にはぬくもりがある。これを可能にしているのは、P.A.WORKSのスタッフ陣の技術力で、同時に、勢いやエモさだけではない計算高さも感じられる。

PA作品と言えば『SHIROBAKO』や『凪あす』が有名だけど、『色づく』は1クール作品である。この短い尺の中で、視聴者にメッセージを伝えるために、P.A.WORKSはあらゆる工夫を施した。その典型例が「魔法が少しだけ残っている世界」である。あくまでも魔法は脇役で、ヒューマンドラマがメイン。ただし「時間魔法」というギミックが、ストーリーを大きく動かす役割を担う。だから、魔法が少しだけ残っている。

アニメーション表現を見ると、そこまで大きな予算をかけているわけではないように思う。キャラクターの動き自体は、意外にもカロリーが小さい。一方で背景美術は極めてクオリティが高く、それを最大限に活かすためにヒキの構成が多めに取り入れられ、それに合わせて色彩設計にもこだわりが感じられる。「色」をテーマにしているだけあって、そこは抜かりがない。ということで、言ってしまえば非常にコスパのいい作品に仕上がっている。それでいてP.A.WORKSらしさも感じさせられる。

魔法写真美術部という名称も、なんだか『TARI TARI』っぽいエモさがあって、P.A.WORKSファンには嬉しい演出だ。

売れているとか売れていないとか関係なく、やっぱりP.A.WORKSは最高だ。これだから僕はPAが好きなのである。

世界の見え方は、一瞬で変わる

『色づく』は、とにかく計算高いストーリー構成だった。特に「魔法」の使い方が素晴らしい。ストーリー全体を揺るがす「時間魔法」は、起承転結における「起」と「転」の役割を担っている。また『色づく』は基本的に写真美術部に所属していた5人と瞳美がメインの作品である。すでに立派な魔法使いだった琥珀はあくまでも引き立て役で、実際、第4話からの登場だった。……んだけど、琥珀の葛藤もしっかり描かれてはいる。

そして何よりも「瞳美が見える世界が白黒になっていた理由が”魔法”だった」という伏線回収が、とてもよかった。

瞳美が心を閉ざし、世界から色が消えてしまったのは、母親が原因である一方で、瞳美自身の問題でもあった。瞳美が自分で魔法をかけてしまった。

でも、琥珀の策略と、美術写真部の5人との出会いが、少しずつ瞳美を変えていった。同時に、瞳美と琥珀の存在が、美術写真部の5人を変えていった。前に一歩踏みだすきっかけを作った。

そして最後の最後で、瞳美は色を取り戻すことに成功する。少しずつ色が見えていくのではなく、一瞬のできごとだった。

世界の見え方は、一瞬で変わる。その一瞬を手に入れるために、人は長い時間をかけてもがき苦しむのだけど、色が変わる瞬間そのものは、文字通り一瞬である。

僕たちは、この一瞬を手に入れるために、長い時間をかけて、それこそ60年ぐらいかけてしまうのかもしれない。そう考えると、唯翔が残したカラフルな絵本がとても素敵なものなんだけど、そこをあえてすっきりと爽やかに描いたのが脚本家と演出のセンスの良さで、それはおそらくP.A.WORKSの影響力が大きいと思う。

『色づく』は、魔法が主役の物語ではない。これが『色づく』におけるキーポイントだと思う。結局は、自分次第。とても素敵なメッセージ性だと思う。

さいごに

ここ最近、P.A.WORKSには触れてこなかったんだけど、『色づく』を視聴して、あらためてP.A.WORKSがもたらす感動が素晴らしいことに気づいた。「いつかPA作品は全部見る!」と思っていて、でもちょっと足が遠のいていたのだけど、やっぱりPA作品は急ピッチで見る必要があると思った。

それと、長崎市にはぜひとも足を運びたいと思う。

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