【呪術廻戦2期感想】アニメ制作の潮流は繊細から大胆へ

呪術廻戦2期

今回は『呪術廻戦 懐玉・玉折/渋谷事変(以下、呪術廻戦2期)』について語っていく。

『呪術廻戦』は芥見下々による漫画が原作で、2020年秋クールから2クールにかけてTVアニメ1期が放送。2021年12月に劇場版が公開され、2023年夏クールから2クールかけてTVアニメ2期が放送された。

アニメ制作はMAPPAが担当している。

目次

『呪術廻戦2期』の評価

※ネタバレ注意!

作画90点
世界観・設定88点
ストーリー87点
演出90点
キャラ85点
音楽83点
※個人的な評価です

作画

MAPPAのブラック環境問題とか色々言われているけれど、少なくとも作画のクオリティがそれなりに高いのは間違いない。やはり近年は「繊細さよりも大胆さ」ということで、緻密に作画を作り上げるよりも、大胆にケレン味溢れる作画で攻めていった方が、受け入れられる傾向が出てきている。エピソードによって作画の雰囲気もかなり変わっていて、作画オタクからすれば、見応えある作画になっている。

一方で、やはり「ケレン味」があるということで、作画のカクツキが目立ちすぎている感じは否めない。

世界観・設定

想像以上に世界観が作り込まれていたのがビックリ。「五条悟がいなくなった後の世界」とか「呪霊を完全に消す方法」とか、かなり上手く作り込まれていたと思う。渋谷を舞台にしているのも、リアリズムを生み出しているためだと思われる。芥見下々先生は、これを連載当初からイメージしていたのだろうか。だとしたら、かなりの策士だ。

ストーリー

ストーリーはかなりおもしろかった。週刊連載のジャンプ作品らしく、怒涛の展開が続いていく。特に渋谷事変編はかなり見応えがあった。

演出

メカ丸の戦闘シーンでロボットアニメを彷彿とさせる演出が用いられていたりなど、演出はアニメーターの個性が爆発しているように思う。その一方で、カロリーオーバーによる作画崩壊を避けるために、あえてケレン味溢れる演出でごまかしているようにも感じられる。どちらにせよ、演出のクオリティが高いのは間違いない。

キャラ

『鬼滅の刃』と同じで、敵キャラでも相当に深掘りされているので、それなりに感情移入できてしまう。五条悟と夏油傑の過去編を最初に描いたのも、そのためだと思うし。

音楽

前半クールのOP『青のすみか』とED『燈』は、『呪術廻戦』とは思えないほど爽やかな楽曲となっている。五条悟と夏油傑とかの青春がイメージされている。

後半クールのOP『SPECIALZ』とED『more than words』は『呪術廻戦』って感じがする。なんだかんだでどちらも渋谷系か雰囲気がある。

『呪術廻戦2期』の感想

※ネタバレ注意!

MAPPAの炎上問題について

まず『呪術廻戦2期』における炎上問題について、私見たっぷりに考えを述べようと思う。

『呪術廻戦2期』が放送中のタイミングで、2つの問題で炎上が発生した。1つめは、パクリ問題だ。『呪術廻戦2期』では「色々な作品からパクっている」と指摘され、それが一時炎上したのである。たしかに『呪術廻戦2期』では「これはあの作品のカットだよな」と思われるシーンが多数あった。だが、そもそも作画や演出における”技法”に著作権は存在しない。他作品の動画素材を使い回すのは問題だが、技法をマネるだけでは十分に「オマージュ」の範囲内だ。それなりに作品を見ている人にとって「あぁ、これはオマージュだな」と思えるぐらい、わかりやすいぐらいに”技法”が表現されていたので、パクリとも言えない。これは十分に”表現の自由”の範囲内だと思う。

一方で、もう1つの問題は、MAPPAのブラック労働問題だ。『呪術廻戦2期』の絵コンテ・演出を務めた土上いつきが、Xで不満を爆発させたのである。具体的には、スケジュールに無理があったり、報酬が安かったりなどが問題として挙げられ、現場が必死に頑張っている中で、アニメ制作会社の名前だけが賞賛の声を浴びていることに嫌気がさしたらしい。

元々、MAPPAの制作スケジュールに無理があったのは言うまでもない。近年のMAPPAは高クオリティのアニメを数多く制作しており、正直なところ「これ、本当に大丈夫か?」と思ってしまったぐらいである。それでいて京アニやTRIGGERやP.A.WORKSのようにホワイトな職場環境を構築しようとする話も、あまり聞かない。ということでMAPPAは、日本のアニメ業界における典型的なブラック職場なのは間違いなく、それが表面上に出てきたのが今回の炎上問題ということなのだと思う。

MAPPAの良くないところは、短期的な目線でビジネスを捉えている点にある。変化の激しい現代社会において、短期的な目線でビジネスをするのは悪いことではない。だが、もし短期的な目線でビジネスをするのであれば、資本集約型のビジネスであることは必要不可欠。でも現在の日本のアニメ制作会社の大半は極めて労働集約型のビジネスモデルだ。だから、アニメ制作会社が短期的な目線でビジネスをやってしまうのは無理がある。

近年のウイグル問題と同じ感じで「ブラック労働によって作られたアニメを見ない」という選択肢が生まれるんじゃないかな、と僕は考えている。そうなれば、まず真っ先に大損害を被るのはMAPPAだろう。

これは僕の私見に過ぎないが、現在のMAPPAのブランディング戦略は、かなりマズイと思う。今回の炎上問題を機に経営スタイルを変えるのかそうでないかで、10年後のMAPPAの命運が左右されるのではないかと思う。

「繊細さよりも大胆さ」の時代

『呪術廻戦2期』を視聴していて、アニメ業界のメインストリームが「繊細さよりも大胆さ」に完全に移行したことを確信した。

2010年代のアニメは、高品質な作画に基づいた繊細さがメインストリームだったように思う。この流れの最前線にいたのが京都アニメーション、P.A.WORKSなどのアニメ制作会社だ。また、マーチャンダイジングによるビジネスを見込む必要があることから、キャラクターデザインを可能な限り安定させる作画が好まれるようになり、これも「繊細さ」がメインストリームになった要因だと考えられる。

だが、2020年ごろになって「繊細さよりも大胆さ」の流れが少しずつメインストリームになりつつあった。その最大の要因はセルルック3DCGの進化だ。『THE FIRST SLAM DUNK』により、多くの人がセルルック3DCGの現状を知ったことで、アニメ制作側は「3DCGでは難しい手書きアニメ特有の演出」に舵を切ることになる。その鍵を握っているのが「”線”という素材を最大限活用した映像表現」で、この点で言えばTRIGGERや湯浅政明監督が得意分野だ。

そして「繊細さから大胆さ」に移行した背景として見逃せないのが、視聴者のマインドの変化だ。常日頃からSNSやソシャゲなどの刺激的なコンテンツに熱中しているため、視聴者は相当に派手な演出でなければ、アニメ鑑賞できなくなってしまっている。ここ最近で記憶に新しいのだと『ぼっち・ざ・ろっく!』や『推しの子』が挙げられる。

『呪術廻戦』も、2020年秋クールから放送されていたTVアニメ1期では、まだ「繊細さ」を追求していたように思う。だがこの数年で、時代は「繊細さから大胆さ」に移行し、それに伴う形でTVアニメ2期では「大胆さ」が追求されたのではないかと思う。

この「繊細さから大胆さ」の流れが、あと数年かけて行われ、そして2020年代は「大胆なアニメ」が注目を集めるようにはずだ。当然、MAPPAはそのトレンドを追いかけるだろうが、おそらくせいぜい「一歩先」で、最前線の位置にはつけないと思う。僕の予想では、大胆なアニメの最前線に着くのはTRIGGERで、実際『サイバーパンクエッジランナーズ』はめちゃくちゃ話題になったし、これからは『ダンジョン飯』のように、あえてアニメオリジナル作品を攻めない方向で作品を制作していくと思われる。TRIGGERが巨大コンテンツを制作し始めたときが、大胆なアニメの全盛期ということになるだろう。

スクラップアンドビルドの世界観

さて、肝心の作品の感想なのだけれど、表面的な作画は置いといて、想像以上に世界観が作り込まれていたのが驚きだった。『呪術廻戦』があえて都会を舞台にしていたのは、「現実社会に起こり得る」というメッセージを強めるため。そして最強キャラである五条悟の時代を終わらせたのは、これから始まる新時代を描くため。『呪術廻戦』において重要な設定である呪霊は、元はと言えば人間の悪意によって生まれるという話だし、夏油傑が「呪霊のいない世界」を構築しようとしているのも、それなりのメッセージを感じさせられる。

夏油傑(偽)の「呪霊のいない世界」の作り方は「全人類を呪術師にする」というものだった。そのために五条悟が封印され、その副産物として東京23区が崩壊するに至った。

このスクラップアンドビルド的な世界観は、現在の日本にも当てはまるというか、どうしようもない国になりつつある日本に対する一種の風刺のように解釈することもできると思う。実際、そんな感じのシーンが最終話を中心に描かれた。

はたして、世界をより良くするためには、徹底的に壊してゼロからルールを作った方がいいのだろうか。そんな壮大な社会実験が『呪術廻戦2期』で行われているという解釈ができる。

さいごに

ということで、原作漫画に非常に強い興味を抱くようになってしまった。

そして第3期「死滅回游編」の制作も決定したらしい。

とりあえず原作漫画を読んでみたいと思う。

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