『きみの色』感想:好きなことは変えられない、山田尚子監督のメッセージ

きみの色
星島てる
アニメ好きの20代。ライターで生活費を稼ぎながら、アニメ聖地の旅に出ている者です。アニメ作品の視聴数は600作品以上。

2024年8月31日のこと。ちょうど僕はアニサマのために埼玉に滞在していた。

アニサマの難しいところは日中の過ごし方で、これでいつも迷うのだが、今回は2日目の朝イチにユナイテッドシネマ浦和のIMAXで『きみの色』を鑑賞することにした。

『きみの色』は『けいおん!』や『聲の形』で有名な山田尚子の監督作品で、アニメ制作はサイエンスSARUが担当している。

目次

『きみの色』の評価

※ネタバレ注意!

作画94点
世界観・設定・企画93点
ストーリー90点
演出92点
キャラ90点
音楽97点
※個人的な評価です

作画

近年の山田尚子監督は繊細な映像表現が多かったが、今回の『きみの色』では、監督デビュー作の『けいおん!』を彷彿とさせるゆるふわな映像になっていた。でも『リズと青い鳥』のような繊細さもある。これまでの山田尚子作品が詰まってる感じの作画だった。

世界観・設定・企画

『けいおん!』からずーーっとやってきた「変わるor変わらない」をテーマにしているが、『きみの色』に関しては切り取り方が上手い。それでいて現代的。

長崎県を舞台にしていることもあって、キリスト教をベースにもしている。そして取り扱ってる音楽はテクノだが、これは家族にバレないように音が出ないDTMがベースになっている。世界観がしっかり作り込まれてる。

ストーリー

プロデュースに川村元気が入っていることもあり、山田尚子監督の鋭さに加えて、ある程度の大衆性も確保されているように思う。ストーリーはふわふわしているけど、難しさは特にない。分かりづらかったのは、ラストシーンぐらいだろうか。

演出

相変わらず山田尚子監督らしい演出が終始続いていく。実写的なカメラワークや足元へのヨリは十八番。

それに、予算も比較的余裕があったのだろう。とにかく全体的に動く。エキストラが全部動いてたし、『けいおん!』のときのような”ごまかし”もなかった。

キャラ

主人公の日暮トツ子は、まんま『けいおん!』の平沢唯みたいなキャラ。実のところ、トツ子の成長よりも、トツ子との出会いをきっかけに成長していく作永きみや影平ルイが描かれている。そしてトツ子は唯ちゃんと同じで、多分天才。

音楽

これまで数多くの音楽系アニメを作ってきた山田尚子監督だが、今回の『きみの色』ではテクノがメインになっている。

特に、予告編から流れていた『水金地火木土天アーメン』の中毒性は凄まじい。また、終盤のライブシーンの『あるく』と『反省文〜善きもの美しきもの真実なるもの〜』は、テクノとして渋すぎて最高だった。これは映画館で見ないと。

『きみの色』の感想

※ネタバレ注意!

好きなものは変えられない

『きみの色』では、トツ子が寮に帰れないときは「合宿」と言い換えるなど、シスター日吉子がリフレーミングを用いて生徒の考え方を変えていく描写が、とても印象的だった。

山田尚子監督は京アニで「高3専用機」と呼ばれるほど、半強制的に変化が訪れる「高3」を、たくさんの作品で描いてきた。

人生は、予期しないタイミングで変化が訪れるものである。逆に、自分が「変えたい!」と思っても、変えられないことの方がほとんどだったりもする。だから人々は、人生に迷う。

その中で『きみの色』では「ニーバーの祈り」のフレーズが引用された。

私たちに変えられないものを受け入れる心の平穏を与えて下さい。
変えることのできるものを変える勇気を与えて下さい。
そして、変えることのできるものとできないものを見分ける賢さを与えて下さい。

ここで重要なのは「変えることのできるものとできないものを見分ける賢さ」だと思う。

とりわけ印象的なのは「好きなことは変えることができない」という考え方である。社会の圧力に押し潰されそうになると、自分の好きなことを曲げそうになる。でも「好きなことは変えられない」のであれば、やっぱり好きなことに真摯に向き合うしかなくて、他のことを変えないといけないのだと思う。ときには、退学とか退職してもいいのだ。

久しぶりに『けいおん!』を感じた……

山田尚子監督は『聲の形』以降、繊細な描写をメインで描くことが多くなり、『けいおん!』のような漫画的な表現は激減した。その流れの中、今回の『きみの色』に関しては、主人公のトツ子の表情とかがまるで唯ちゃんのようだった。

それだけでなく、そもそもストーリーが『けいおん!』を踏襲しているし、極め付けはラストの「See you…」の演出だ。完全に『けいおん!』だった。言わば『きみの色』は、現代版『けいおん!』やサイエンスSARU版『けいおん!』ということなのかもしれない。

思えば『けいおん!』も「自分の好きなことにハマればいいんじゃない!?」みたいなメッセージを感じさせられる作品だった。そして『きみの色』では、好きなことは「変えられないもの」として扱われていた。

僕はこれまで「変わるor変わらない」の高3作品をたくさん見てきたと思うのだけど、これほどおしゃれに「変わらないこと」を肯定する作品はなかったと思っている。

正確に言えば、好きなことは「変わること」はある。でも「変えること」はできないのだ。

さいごに

サイエンスSARU制作だけど、今回は京アニ時代の山田尚子監督らしさが出ていたので、京アニファンかつ『けいおん!』好きの僕としては嬉しかった。なんだか山田尚子監督の全てが詰まっているような作品だった。

次回作も期待しています!

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