【鬼太郎誕生ゲゲゲの謎感想】風刺色がかなり強い

鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎
星島てる
アニメ好きの20代。ライターで生活費を稼ぎながら、アニメ聖地の旅に出ている者です。アニメ作品の視聴数は600作品以上。

今回は『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』について語っていく。

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は2018年から2020年まで放送されていた『ゲゲゲの鬼太郎 第6シリーズ』の劇場版作品で、2023年11月に上映された。アニメ制作は東映アニメーションが担当している。

それにしても超久しぶりに『ゲゲゲの鬼太郎』を見た……。

目次

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の評価

※ネタバレ注意!

作画90点
世界観・設定85点
ストーリー85点
演出85点
キャラ83点
音楽80点
※個人的な評価です

作画

最近の東映アニメーションは、とにかく全体的にクオリティが高い。2000年代までは全然だったけれど、2010年代の深夜アニメの台頭もあり、東映アニメーションに良いプレッシャーが与えられたのだと思う。

そして今回の『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は、ここ最近よく見られる「線の太いキャラデザ」で、手描きアニメの雰囲気を演出しつつ、背景やエフェクトでCGを組み込んで、画のクオリティを全体的に底上げしている。

また、ゲゲ郎(鬼太郎の父)の戦闘シーンは非常に気合が入っていて、これも「線」にかなりこだわっていたように思える。非常に見応えがあった。

世界観・設定

久しぶりに、というか初めてちゃんと『ゲゲゲの鬼太郎』を視聴したのだけれど、これほどまでにメッセージ性が強いとは思わなかった。Wikipediaで調べたところ、『ゲゲゲの鬼太郎 第6シリーズ』は原作漫画と同様に風刺色が強い作品になっているそうで、SNSやスマホが普及した21世紀の現代社会を舞台に「目に見えないもの」や人間の愚かさを描いているようだ。このメッセージ性は、個人的にかなり好きである。

しかしだからとは言え、メッセージ性が強すぎると言うわけでもなく、『ゲゲゲの鬼太郎』をベースにエンタメ作品として丁寧に作り上げられている。

ストーリー

僕は『ゲゲゲの鬼太郎 第6シリーズ』を未視聴だけれど、それなりに『ゲゲゲの鬼太郎』を知っているのであれば、TVアニメ未視聴でも楽しめるストーリーになっていた。

鬼太郎誕生の謎が描かれているのだけれど、それと同時に、人間の愚かさについても描かれていて、しかも完全なハッピーエンドとは言えないものだった。

全体的に、ストーリーに飽きることはほとんどなかった。基本的に「謎を解いていく」タイプのストーリーなので、伏線回収もあっておもしろかった。幽霊族とNと第二次世界大戦の繋げ方がめちゃくちゃ上手い。

演出

地味にホラー要素もあって、画面構成を用いた演出にはかなりこだわりがあったように思える。また、戦闘シーンも素晴らしかった。近年流行りの”エフェクト頼り”ではないのも好感が持てる。

映画館上映ということもあって、ヒキの画面構成が多く用いられているのもポイント。水木が村に訪れるシーンや幽霊族の血を吸いつづる桜が登場するシーンは、中々に圧巻だった。

キャラ

『ゲゲゲの鬼太郎』とはいえ、やはり現代アニメ風のキャラクターデザインになっていて、女の子がかなり可愛くなっている。猫娘はもちろんのこと、本作のメインヒロインとも言える龍賀沙代も非常に可愛らしい。

一方で、シンプルなキャラデザながら、個性は抜群。すぐに見分けがついたので見やすかった。龍賀家だけでそれなりのキャラが登場したと思うけど、それでもわかりやすかった。

音楽

音楽はぼちぼち。下手にタイアップを打っていないのはちょっと好感が持てる。

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の感想

※ネタバレ注意!

風刺色が相当に強い

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は、僕が思っていた以上に、風刺色が強かった。

僕が『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』から受け取ったメッセージで最も印象的だったのが、”人間の愚かさ”である。そして第二次世界大戦という大災害があったあとも、お金持ちや上官は裕福な生活を送っているという点が、現代社会に通ずる部分がある。現在(2023年12月)、日本社会は物価高と円安に陥っていて、というかそれ以上に、相対的な不況に陥っているのが問題となっている。もはや日本は先進国とは呼べない状況だ。中流階級がどんどん貧しくなって、二極化が急速なスピードで進んでいる。

だがその一方で、日本社会の既得権益者層は、それなりに裕福な生活を送っているようだ。なぜなら、金融緩和でばら撒かれるお金の大半が、富裕層に落ちていくためである。要するに、今の日本は穴が空いた桶のようなもので、そこから溢れる湯水を既得権益者層が美味しくいただき、桶の中に取り残された大衆が苦しい思いをしているという状況なのだ。

そしてそれは、今から約70年前の日本でも同じことが言えるっぽいのである。このように『ゲゲゲの鬼太郎』という作品を通して、第二次世界大戦のリアルを今の子どもたちに伝えようとしている点で、本作は社会的意義があると個人的に感じる。

子どもたちへのメッセージ

本作は一応「PG12」に指定されている。だが今の子どもたちは『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』などの刺激的な作品に慣れているので、おそらく『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の刺激もへっちゃらだろう。ということで本作は、大人のアニメファンだけでなく”子どもたち”もターゲットになっていると思う。

その中で『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』では、ゲゲ郎が鬼太郎に幽霊族の想いを託すシーンや、ゲゲ郎と長田時弥のやり取りを通して、”後世への引き継ぎ”が意識されていたと思う。その点は『君たちはどう生きるか』と近い部分を感じる。『君たちはどう生きるか』でも、第二次世界大戦を背景に、”後世への引き継ぎ”が強く意識されていた。

一方で皮肉なことに、龍賀でも”後世への引き継ぎ”が描かれている。ただしこちらは極めて非道なものというか、人間の悪を象徴するかのようなものだ。沙代が龍賀時貞に〇〇されたり、時貞が孫を乗っ取ったりするなど、”後世への引き継ぎ”を侮辱するかのような立ち振る舞いが描かれた。これは鬼太郎一家と龍賀家で対比させていると見ていいかもしれない。

さいごに

僕は『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』を映画館で鑑賞したのだけれど、想像以上に女性客が多くてびっくりした。僕の劇場は、8割が女性客だったかな。

まあたしかに『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』のストーリーは、どちらかと言えば女性人気が出そうなものではあった。”子ども”や”家族愛”を取り扱ってはいたし。

このように、映画館で鑑賞するという行為は、一種のマーケティング分析みたいなこともできるから楽しい。「あ、この映画はこんな人が見るのか」みたいな。これが、動画配信サイトや試写会にはない魅力である。僕はいつまでも、一般客と一緒に映画を見ていきたいと思う。

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