【夜は短し歩けよ乙女感想】御縁に導かれるままに行動していく

夜は短し歩けよ乙女
星島てる
アニメ好きの20代。ライターで生活費を稼ぎながら、アニメ聖地の旅に出ている者です。アニメ作品の視聴数は600作品以上。

今回は『夜は短し歩けよ乙女』について解説していく。

『夜は短し歩けよ乙女』は『四畳半神話大系』の作者である森見登美彦の小説が原作だ。そして2017年4月に、アニメ映画が上映される。アニメ制作はサイエンスSARUが担当し、監督の湯浅政明を始め、『四畳半神話大系』の制作スタッフが集結した。

目次

『夜は短し歩けよ乙女』の評価

※ネタバレ注意!

作画90点
世界観・設定90点
ストーリー88点
演出85点
キャラ88点
音楽85点
※個人的な評価です

作画

作画は完全に湯浅節が炸裂している。『四畳半神話大系』とほとんど同じような感じ。また、『四畳半神話大系』と比べると、キャラの動きがよりコミカルになっている。

世界観・設定

世界観も最高だった。湯浅政明×森見登美彦が作り出す世界観は、他では類を見ない雰囲気を醸し出している。”京都”という舞台の使い方が抜群に上手い。

ストーリー

ストーリーも全体的にスッキリしている。93分とは思えないほどのボリューミーだ。また、シナリオのクオリティも高く、伏線が綺麗に繋がっていく感じが綺麗だった。

演出

演出も相変わらず個性的だった。特にキャラの動き方が良い。『夜は短し歩けよ乙女』は”酒”がテーマになっていることもあり、とにかくコミカルな動きが描かれる。お酒をグビッと飲むところとか、酔っ払っている様子とか、阿呆みたいな踊りをしている時とか、とにかく動きが面白かった。

キャラ

キャラも個性的。『四畳半神話大系』の主人公は”私”だったけど、『夜は短し歩けよ乙女』は男性主人公の”先輩”と女性主人公の”黒髪の乙女”のW主人公となっている。特に”黒髪の乙女”の個性が強烈で、超が付くほどの酒豪なのだ。

また『四畳半神話大系』にも登場した樋口や羽貫が『夜は短し歩けよ乙女』でも活躍する。

音楽

音楽も様々なジャンルの楽曲が採用されていた。そしてアジカンの主題歌『荒野を歩け』で綺麗に締まっている。

『夜は短し歩けよ乙女』の感想

「こうして出逢ったのも、何かの御縁」

『夜は短し歩けよ乙女』のキャッチコピーは「こうして出逢ったのも、何かの御縁」だ。そして『夜は短し歩けよ乙女』は、このキャッチコピーの通りにストーリーが進んでいく。女主人公の”黒髪の乙女”が大酒豪で、京都の千斗町を御縁に任せて呑み歩いていくのだ。

“黒髪の乙女”は御縁をどんどん繋げていく形で、様々な人に出会い、たくさんの刺激を得る。ときには幻のお酒を呑んだり、ときには阿呆みたいな踊りをしたり、ときには学園祭で演劇に参加したりした。そしてどんな時でも、自分の身の振り方など考えず、必ず相手のために行動していたように思う。それはただ単純に”黒髪の乙女”が好奇心旺盛だっただけなのかもしれないが、とにかく御縁に導かれるままに行動していくのだ。

そしてその裏側で、”先輩”が”黒髪の乙女”を追いかける様子が描かれた。

時間感覚の描き方が変化球

『夜は短し歩けよ乙女』の特徴は、夜を舞台にしていることだ。そして、登場人物によって時間感覚が全く異なる。具体的にどれくらい異なるかは定かではないが、ひとまず若者の方が時間の進みが遅く、年寄りの方が早い

では、これが一体何を表しているのだろうか。監督の湯浅政明はインタビューで以下のように回答している。

(前略)「たくさんの意味があるのですが、単に楽しい時間は早く過ぎるとか、若い時は時間があり、歳をとると時間が少なくなるという意味もあります。それともう一つ。人に時間をあげる人は、人生が豊かになって、時間が長くなるという考え方があって」(中略)「お年寄りの方々のなかに自分から入っていって、自分の時間を与えることができる人は、彼らと仲良くなり、彼らも幸せになる。逆に最初の頃の先輩は、自分の利益のためだけに振るまっているから、時間が進まない」(後略)

湯浅政明監督「夜は短し歩けよ乙女」“一夜”に込めた時間の尊さ

特に印象的なのは後半部分。「人に時間を上げられる人は、人生が豊かになって、時間が長くなる」という部分だ。たしかに『夜は短し歩けよ乙女』のストーリーを振り返ってみると、”黒髪の乙女”は老人の方々に自分から入っていった。それでどんどん楽しくなって、御縁もどんどん広がっていき、また楽しくなっていく。

その一方で”先輩”は、とにかく”黒髪の乙女”と結ばれることしか考えておらず、それはつまり、自分の利益を追求していただけということだ。だから”先輩”だけ一向に時間が進まない。

“先輩”の魅力は何?

じゃあ”先輩”はダメ人間なのかと言われると、そんなことはない。

もう一度、時間感覚について考えてみよう。先ほどは大雑把に「若者は時間の進み方が遅く、年寄りは時間の進み方が早い」と述べた。しかし厳密にいうと“黒髪の乙女”と”先輩”だけ、時間の進み方が異常に遅かった。例えば樋口、羽貫、学園祭事務局長などは、”あの夜”をある程度の期間として認識していた。一方、”黒髪の乙女”と”先輩”は、”あの夜”を長い一夜だと考えていたのだ。それほどまでに”黒髪の乙女”と”先輩”は、何かに夢中になって生きていたのだと考えられる。

ではその”何か”とは何か。

“黒髪の乙女”は先ほど述べた通り、純粋に知的好奇心が強いだけだと考えられる。だがそれが故に、“黒髪の乙女”は「自分は他の人と違う気がする」ということに気づき始めてしまった。

例えば、経営者やスタートアップに勤務している人は、他の人よりもいろんな部分で感覚が狂ってしまい、話が合わなくなることがあるそうだ。これと同じ現象が、”黒髪の乙女”にも発生していたのだと僕は考える。“黒髪の乙女”は、他の人が全くついていけないぐらいに、人生を楽しんでしまっていたのだ。

しかしそれに唯一ついていくことができたのが、”先輩”だった。“先輩”は、あまりにも”黒髪の乙女”に夢中になってしまったが故に、”黒髪の乙女”の時間感覚についていくことができたのだ。あとは、建前なんか取っ払って、自分に素直になるだけだったのである。それで無事に”先輩”は、”黒髪の乙女”をデートに誘うことができたのだ。『夜は短し歩けよ乙女』は、そういう物語だったのである。

さいごに

やはり「湯浅政明×森見登美彦」は最高だ。本当はこのコラボをもっと見たいのだけれど、現状は『四畳半神話大系』と『夜は短し歩けよ乙女』の2作に留まっている。でも今後も、森見登美彦作品のメディアミックスが意欲的な形で進みそうだし、期待してもいいのではないだろうか。

とりあえず、原作小説も読むことにしようか。

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