『メイクアガール』感想:安田現象がロマンと愛と狂気を3DCGで描く

メイクアガール
星島てる
アニメ好きの20代。ライターで生活費を稼ぎながら、アニメ聖地の旅に出ている者です。アニメ作品の視聴数は600作品以上。

2025年1月31日、3DCGアニメクリエイターの安田現象が監督を務める『メイクアガール』を109シネマズで鑑賞した。

安田現象は縦型ショートアニメを中心に3DCGアニメを制作していたクリエイターで、2020年にYouTubeで公開した『メイクラブ』が話題になったことで、徐々にSNSで注目を集めるように。現在はSNS総フォロワー数は600万人を超えている。

そんな安田現象が『メイクラブ』を元に制作した長編アニメーション映画が『メイクアガール』だ。本作も3DCGで制作されている。

目次

『メイクアガール』の評価

※ネタバレ注意!

作画85点
世界観・設定・企画80点
ストーリー82点
演出82点
キャラ80点
音楽80点
※個人的な評価です

作画

ここ数年は、セルルック3DCGの進化に驚く日々が続いているが、本作もなかなかすごかった。インタビュー記事によれば、BlenderとAffter Effectで作られているらしいが、仕上がりはほとんど手描きアニメである。このクオリティの作画が少人数で制作されているのであれば、あともう少しで、手描きアニメがセルルック3DCGに完全代替される未来に到達しそうだ。

世界観・設定・企画

天才科学者が彼女を作るために、人造人間を作ってしまうという割とありがちなSF設定。この衝撃の設定に対して、特に驚きもなく、コメディ調で物語が進んでいくのが、本作の最大の特徴と言えるかも。

ストーリー

アニメ映画というよりは、ライトノベル的なストーリー構成だった。起承転結がしっかりしていて、特に終盤は衝撃的な展開を迎える。割と予想できる展開ではあるが、ここまでメリハリを付けられてしまうと、かなり感情が揺さぶられる。それと、ストーリーのテンポ感もちょうど良かった。

演出

3DCGだからこそできる映像表現が多い一方で、手書きアニメと遜色ない画もあり、ここのバランスは絶妙だった。見せ場になるシーンも躍動感が凄まじく、アニメ映画に相応しい品質に仕上がったと感じる。

キャラ

キャラクターデザインは割とベーシックだが、0号だけ綾波レイみたいな雰囲気を感じる。0号以外のキャラクターをあえて平凡な見た目にすることで、0号の特異性を強調しているのではないだろうか?

また、豪華声優を惜しげもなく投下しているのも、なんだかんだでポイント。演技力が高いので、作品の品質がグッと高まった。

音楽

劇伴は全体的にメリハリがあった。終始、穏やかな日常系のBGMが流れると思いきや、途中で不協和音が入り、ぐちゃぐちゃになる。主題歌のEveの『花星』は、『メイクアガール』の世界観にマッチしていたように思う。

『メイクアガール』の感想

※ネタバレ注意!

何かを目指す者は、普通の人生を送れない

結局、これに尽きるんじゃないだろうかなぁと。

正直言って、この『メイクアガール』という作品は、批判多めの賛否両論になるストーリーだと思う。ハッピーエンドとは言えないし、ストーリーの作りも甘い部分が感じられてしまうからだ。それは、私たちが吉田玲子さんや花田十輝さんなどのプロの脚本家によるアニメ映画に見慣れてしまっている部分もある。

一方で、『メイクアガール』が作中で時々醸し出す気持ち悪さみたいなものについては、多分、監督の計算だと思う。『メイクアガール』の主人公・水溜明は、生粋の研究オタクであり、高校生にしてロボットを作ったり人造人間を作ったり自分の身体をサイボーグにしたりなど、もうこの時点で普通ではない。そんな超SF設定を普通にスルーする一般人2人(大林邦人と幸村茜)もどうかと思うが、そんなことよりも、もはやマッドサイエンティストである水溜親子がぶっち切りで異常である。

そう、水溜親子はマッドサイエンティストなのだ。『メイドインアビス』のボンドルドと同じマッドサイエンティストである。そう考えれば、彼女を作るためだけに人造人間を作ったり、自分が復活するために子供を利用(?)したりするのも当然と言えるかもしれない。

唯一マトモだったかもしれない0号ちゃんも、必死になって明に対する愛を証明しようと試みはしたが、結局稲葉に乗っ取られてしまった。

と、まあ『メイクアガール』はおおよそハッピーエンドとは言えない終わり方を遂げたわけだが、全ては海中絵里の「何かを目指す者は、普通の人生を送れない」というセリフに尽きるかもしれない。このセリフに対して0号ちゃんは「両立できるはずです!」と言ったわけだが、ひとまず今回の映画では0号ちゃんの負けだったわけだ。

ストーリーよりも映像表現重視

『メイクアガール』の脚本の評価は、2027年に公開されると思われる続編(または新作)によって決定づけられると思うが、どちらにせよ、本作はストーリーよりも映像表現に重きを置いていたのは間違いない。実際に映像表現は、おもしろかった。BlenderとAfter Effectを駆使し、手描きアニメに負けない品質で、挑戦的なカメラワークで撮影することができていたと思う。

カット割りがやや微妙ではあるが、それもそのはず。1ショットが魅力的すぎるからだ。一般的なアニメは、基本的にFIXで、カメラワークをやるにしてもパンかチルトだけである。しかし『メイクアガール』は、”3DCGにしかできない表現”を多く取り込むために、複雑なカメラワークを入れたり、登場人物の動きにフォーカスした長尺のショットが多めだった。これを一般的なアニメのカット割りで対応するのは難しい。

それにこの文章を書いていて思ったが、セルルック3DCGで重要なのは、あえて3DCGらしさを切り捨てることなのかもしれない。つまり、”3DCGにしかできない表現”を押さえて、終始、手描きアニメと同じようなカット割を意識する。でも、視聴者にバレないように”3DCGにしかできない表現”を取り入れる。これが比較的上手くいっていたのが『ガールズバンドクライ』かもしれない。

安田現象監督はショートアニメ出身のクリエイターで、本格的な絵コンテは『メイクアガール』が初めてだと思う。おそらく2027年に新作または続編が公開されると思うので、そちらを期待したい。

それにしても、3DCGはBlenderで十分なんだなぁ。

さいごに

こういう作品を見ると「3DCGを作りたい!」と思う。実は一度だけBlenderを使ってチュートリアル動画を一通りやってみたことがあるのだけど、プロフェッショナルな3DCGを取り扱うには、それなりの機材が必要になることから、断念した経緯がある。

現状として、BlenderとPencil+があればセルルック3DCGが作れて、Pencil+はたしか10万円以下で購入できるので、セルルック3DCGのハードルはかなり小さくなっている。

本作はBlenderとAfter Effectを用いて制作されているため、諸々込みで50万円ぐらいあれば、3DCGに必要な機材は揃うと思う。ぜひチャレンジしてみてはいかがだろうか?

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