今回は『物語シリーズ オフ&モンスターシーズン』について語っていく。
前回の『続・終物語』から約6年ぶりの続編ということで、僕も含めて多くのファンが待ち遠しにしていた作品である。
『物語シリーズ』は西尾維新の小説が原作で、今回の『オフ&モンスターシーズン』では、シーズン中の全作品がアニメ化されたわけではなく『愚物語』『撫物語』『業物語』『忍物語』だけがアニメ化された。
ただし、この4つの物語の全てのエピソードがアニメ化されたわけではなく、おそらくは時系列順にアニメ化しているのだと思う。
『物語シリーズ オフ&モンスターシーズン』の評価
※ネタバレ注意!
作画 | 88点 |
世界観・設定・企画 | 88点 |
ストーリー | 90点 |
演出 | 90点 |
キャラ | 90点 |
音楽 | 88点 |
作画
前回までの『続・終物語』から作画のスタイルは大きく変わらないが、コンセプトは大きく変わった。『ぼっち・ざ・ろっく!』のような派手な演出が増えたと思う。
また、『業物語』の『あせろらボナペティ』ではシネスコープにして背景を3DCGにするなど、『傷物語』を彷彿とさせる画作りだった。昨今はアニメ作品(特にアニプレックス作品)の品質が爆上がりしているので、それに合わせて作画のスタイルも変えてきたのだと思う。
世界観・設定・企画
まずプロモーションで成功している。サプライズ感のある新作発表だったので、多くの注目を集めた。それでいて、作品の順番とかどこまでアニメ化するかが不明瞭で、今回も勝手に完結したが『死物語』までやるかどうかを”明言”していないのが上手い。ファンをちゃんと焦らしている。
EDには今を駆け抜けるYOASOBIを起用し、ABEMAでの独占配信で確実に配信収入を得ている。そして原作小説の『モンスターシーズン』が完結するまで、アニメ化の企画を起こさずに、じっくり熟成させたのだと思う。こんな芸当ができるのも『物語シリーズ』が殿堂入りレベルにまで人気があるからで、今後もじっくりとアニメ化が進むのだと思う。
ストーリー
僕は原作小説を(あえて)読んでいないのだけど、どうやら今回の『オフ&モンスターシーズン』は、刊行順とは全く異なる順番になっていて、おそらく”時系列”を優先していると思われる。原作小説では既にモンスターシーズンが完結しているため、ラストの『死物語』か『結物語』にあわせて、ストーリーを編集しているのだと思われる。実際、これまでの物語シリーズに比べてば、幾分かわかりやすかった。
演出
演出がめちゃくちゃ変わっている。先ほども述べた通り、派手な演出が増えていて、まるで『ぼっち・ざ・ろっく!』みたい。それといつもの「001」のやり方も大きく変えていて、かなりわかりやすくなった。
それでもシャフト特有の画面構成や音声加工は相変わらずで、現代版『物語シリーズ』を見ている感じだった。
キャラ
新シーズンになってから新キャラが増えた。一応、ファイナルシーズンでそれぞれのキャラのトラブルは一通り解決しているわけで、今後は新キャラは登場させながら、トラブルを解決していくストーリー構成なのだと思う。
あとはやっぱり千石撫子の描き方が素晴らしい。噂によれば、モンスターシーズンは阿良々木暦と千石撫子のW主人公体制で物語が進むらしいのだけど、なるほどそういうことか。撫子を通して「夢を目指すこと」に対する葛藤が描かれている。
音楽
EDの『Undead』は『物語シリーズ』にとてもマッチしているし、今後もYOASOBIには『物語シリーズ』の楽曲を担当してもらいたいと思う。もちろん、Clarisとかでもいいんだけどね。
OPについては、どうやら放送・配信に間に合わなかったらしい『愚物語』の『icecream°』が相当に強力。冷静に考えてみれば『白金ディスコ』と『オレンジミント』を融合させたみたいな感じだから、そんなの絶対にいい曲に決まっている。
また、『撫物語』の『caramel ribbon cursetard』も相当ヤバくて、中毒性が高い。
こうして見ると今回は『恋愛サーキュレーション』と『白金ディスコ』と『オレンジミント』のリメイクってことになるのか……。
『物語シリーズ オフ&モンスターシーズン』の感想
※ネタバレ注意!
『なでこドロー』の衝撃
思えば僕が始めて『物語シリーズ』を見たとき、最初に一番好きになったのは千石撫子だったのだが、次第に回が進むにつれ、撫子のメンヘラ気質が明らかになり、僕も千石撫子がそんなに好きではなくなった。が、『恋物語』で貝木泥舟が撫子の夢を明らかにし、そこから少しずつ撫子のポジションが変化していく。それまでウジウジしていた撫子は、初恋という名の失恋を乗り越え、夢に向かって一人黙々と努力しようとしている。そんな様子を描いたのが『撫物語』だった。
人は一人で勝手に助かるだけさ(忍野メメ)
『物語シリーズ』より引用
僕は最近、ようやく『嫌われる勇気』を読んで、アドラー心理学を少しだけ知ったのだけど、『物語シリーズ』はアドラー的な思想を感じさせられる。フロイトの原因論のように過去に縛られるのではなく、アドラーの目的論のように未来に生きていく考え方。今回の『撫物語』で言えば、撫子が過去にケジメをつけることで、前を向いて生きていくという考え方だ。
特に撫子と”おと撫子”のシーンは、物語シリーズが好きな人であれば、とても感動するエピソードだったと思う。阿良々木暦に対する初恋をキッパリ切り捨てて、これから千石撫子は夢追う女の子として、たくましく成長していくのだと思う。
ちなみに2012年に放送されていた『偽物語』にて、既に作中でこんなやり取りが描かれていた。
八九寺「勇気と最後につければ大抵の言葉はポジティブに置換できますよ!」
阿良々木「そんなバカな。日本語はそんな単純な構造にはなっていないはずだ!」
『物語シリーズ』より引用
ここから「恋人に嘘をつく勇気!」「仲間を裏切る勇気!」「怠惰に暮らす勇気!」「負けを認める勇気!」と続いていくわけだが、こうして見ると『嫌われる勇気』がなんだかチープなものに感じられる。笑
阿良々木暦が大人になるまでの物語
『忍物語』では阿良々木暦が主人公として描かれるのだが、これまでの阿良々木暦とは随分と行動パターンが異なる。高校生の頃は、大切な人を守るために、自分を犠牲にしてでも助けようとするわけだが、今回は終始受動的。基本的には臥煙さんの指示を聞いて、暗号を解くのも同級生の食飼命日子に任せっきり。貼交帰依に対しても、基本的に何かをするわけではなかった。
というのも阿良々木暦は、既に高校時代に相当の無茶をしてきて、それで何人かのヒロインを助けることはできたのだけど、自分を傷つけすぎていた。その反省が阿良々木暦にはあった。
『物語シリーズ』に登場する”大人”には、一切の迷いがない。そして特に忍野メメに関しては「人は一人で勝手に助かるだけさ」と自分が直接的に人を助けることはしない。きっと阿良々木暦もそういう助け方をやりたいのだと思うが、まだその実力がないし、どのような大人になるべきか迷っている節が見受けられる。
でもそれが大学生らしいとも言えるし、きっとモンスターシーズンでは、阿良々木暦が大人になるまでの物語が描かれるのだと思う。
さいごに
まだ続編が発表されないが、おそらく『物語シリーズ』は最後までアニメ化するのだと思う。現在、原作小説ではファミリーシーズンなんてものが開始していて、多分、ここでは「家族」について本格的に描かれるのだろう。
それにしてもまずはモンスターシーズンの『死物語』までアニメ化してほしいところで、でも今後はもう少し早いペースでアニメ化が進んでいくことが予想される。ということで続編を楽しみにしたい!
それと原作小説の方も少しずつ読み進めようと思う。