【大雪海のカイナ感想】水資源の奪い合いが現代の国際問題を想起させる

大雪海のカイナ
星島てる
アニメ好きの20代。ライターで生活費を稼ぎながら、アニメ聖地の旅に出ている者です。アニメ作品の視聴数は600作品以上。

今回は『大雪海のカイナ』について語っていく。

『大雪海のカイナ』は3DCGアニメ制作会社のポリゴン・ピクチュアズの40周年記念で制作されたオリジナルアニメだ。2023年冬クールにフジテレビの深夜枠「+Ultra」で放送された。

アニメ制作はもちろんポリゴン・ピクチュアズが担当している。

目次

『大雪海のカイナ』の評価

※ネタバレ注意!

作画80点
世界観・設定83点
ストーリー79点
演出75点
キャラ70点
音楽78点
※個人的な評価です

作画

日本では珍しいフル3DCGのアニメーション。3DCGの技術自体は、何かが特筆しているわけでもなく、セルルックというわけでもない。最初は、メインヒロインのリリハのキャラデザが微妙に感じられたけど、中盤から慣れてきた。比較的視聴しやすい3DCGだったと思う。

世界観・設定

『大雪海のカイナ』の最大の特徴が、この独特な世界観にある。戦争問題、水源問題などの自然問題を彷彿とさせるメッセージ性の強い世界観だった。天幕は多分オゾン層がモチーフだと思う。文字や近未来的な技術が過去に登場していたことを考えると『大雪海のカイナ』の世界は、きっと僕たちが住む世界の遠い未来のお話なのだろう。

ストーリー

想像以上に引き込まれた。海外のアニメ作品にあるような「正義が勝つ」「争いをしない」のストレートな作品だったように思える。現代アニメに比べるとやや冗長的だったけれど、逆に言えば、尺をたっぷり使えたということでもある。普通に面白かった。

一方で、世界観を活かしきれてない感は否めないと思う。

演出

3DCGだからこそできるカメラワークを用いた演出がたくさんあった。手描きアニメに比べて圧倒的にカメラワークが自由なのが3DCGの最大の魅力である。『大雪海のカイナ』はモデリングやアニメーションが強いわけではなかったが、流石にカメラワークは色々なことをやっていた。

キャラ

『大雪海のカイナ』のタイトルにある”カイナ”が弱い。どちらかというとリリハとかアメロテとかの方が印象的だった。ただ、これはもしかしたら意図的なもので、カイナは、アトランドとバルギアによる戦争の観察者的な立ち位置だったのかもしれない。

音楽

OPではヨルシカ、EDではGreeeenを豪華に起用。OPの『テレパス』は非常に落ち着いたメロディーで『大雪海のカイナ』の世界観とマッチしている。一方でEDの『ジュブナイル』はシンセサイザーを使った壮大なメロディーでGreeenらしさを感じる。そういえばGreeenの曲は久しぶりに聴いたな。

『大雪海のカイナ』の感想

※ネタバレ注意!

国際問題を想起させる世界観

『大雪海のカイナ』の感想を語る上で、流石に世界観については言及しないといけないだろう。

『大雪海のカイナ』は、現代社会でも話題になっている国際問題を想起させる世界観だった。天幕に穴が空く現象はオゾン層破壊問題に直結していると思うし、水資源の奪い合いとか、世界が氷河期に突入している点とか、水位が少しずつ上がっているのとか、どれも非常に考えさせられる設定だ。

特に、水資源の奪い合いに関しては、日本人には馴染みがないかもしれない。なぜなら日本は水資源が豊富だから。しかし海外では「水道水が飲めない」のは当たり前で、それどころか「シャワーで髪を洗うとめちゃくちゃゴワつく」のも当たり前。コンビニでミネラルウォーターを買うと500mlで300円とかになることもある。直近だと、日本国内で水源がある土地を外国人が買い漁っているケースがあるらしい。それだけ、水は非常に貴重なものなのだ。

『大雪海のカイナ』に限らず、ポリゴン・ピクチュアズの作品は海外を視野に入れた作品が多く、実際、海外からの評価は非常に高い。きっと本作の世界観のメッセージ性も受け入れられるだろう。

王の素質

『大雪海のカイナ』では、小国アトランドと機動要塞バルギアの戦争が描かれた。戦争シーンのストーリー展開についてはちょっと微妙だけれど、やはり、メッセージは感じさせられる。

『大雪海のカイナ』で印象的なキャラといえばハンダーギル(通称、提督)だ。あのハスキーな声質が超印象的。ちなみに『大雪海のカイナ』は事前に声を録るプレスコで制作されている。

プレスコ制作ということもあってか『大雪海のカイナ』で起用されている声優は、声質が特徴的な人が多い印象。

さて、そんなハンダーギルは、古代兵器「建設者」の力に溺れ、なりふり構わず破壊活動を続けていった。オリノガの「力に溺れる」というセリフが印象的だが、これはシェイクスピアの『マクベス』などの悲劇に通ずる部分がある。アニメで言えば『コードギアス』のルルーシュがいい例かも。力に溺れた者は、破滅的な結末を迎えるのである。

一方、リリハはハンダーギルではなく、あくまでもオリノガの人々のことを考えていた。この戦争を終結させるのに重要なことは、ハンダーギルやバルギアを倒すことではなく、水不足の根本的な解決と、バルギアの人々にメッセージを訴えかけることだ。それを最も深く理解していたのがリリハとカイナで、それに少し期待していたのが、バルギアの士官であるアメロテだったのかもしれない。

王の素質は、こういったところにあるのかも。力で無理やり変えたり、敵のリーダーを直接倒したりするのではなく、集団に問いかける。ロシアウクライナ戦争で例えるなら、プーチンやロシア軍を倒すのではなく、ロシアの人々に戦争の意義を問う。たしかに歴史を遡ってみれば、大国は、外圧に負けるのではなく、内側からの圧力で屈するものだ。事実、アメリカはそうなりかけている。

リリハとハンダーギルの違いは、ターゲットにあった。これは僕たちの社会でも使える立派な知恵のように思える。

さいごに

『大雪海のカイナ』は続編映画『大雪海のカイナ ほしのげんじゃ』の公開が決まっている。ストーリー的には大軌道樹を目指す流れだろうか。早速視聴したいと思う。

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