2025年1月28日、TOHOシネマズ海老名で『劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク(以下、劇場版プロセカ)』を鑑賞した。
実のところ、金欠だったので見る気はなかったのだが、最近になってU-NEXTのポイントで映画無料券が手に入ることを知り、せっかくなので視聴することにした。そしたらアニメ制作がP.A.WORKSだったので驚いた。結果的に、見て良かったと思う。
『劇場版プロセカ』の評価
※ネタバレ注意!
作画 | 85点 |
世界観・設定・企画 | 80点 |
ストーリー | 80点 |
演出 | 80点 |
キャラ | 80点 |
音楽 | 87点 |
作画
P.A.WORKSがアニメ制作を担当し、サイバーエージェントが予算を確保していることから、全体的なクオリティは高い。エキストラもよく動くし、ライブシーンは3DCGに頼りすぎず、P.A.WORKSの技術力の高さも目立った。
一方でアスペクト比は通常の16:9で、映画ならではの作画はほとんどなかった印象。
世界観・設定・企画
僕はプロセカをほとんど知らないのだけど、それでも十分に楽しめるようにはできていた。
現代社会で夢をあきらめたり、鬱になっていたりする人こそ、歌を届けるべきターゲットなのだが、それがなかなか通じない。そんな初音ミクの葛藤が描かれている。これ自体は比較的面白い着眼点だと思う。
そして本作を見ていて、初音ミクというIPにはもっと大きな可能性があるように感じられた。
ストーリー
ストーリーのテンポ感は若干冗長的に感じられた。前半でプロセカのキャラクターを解説するのに時間をかけていたためだ。それでキャラクターの数も非常に多いので、1本の映画にまとめきれなかった感はある。
SF的な始まり方だったが、理屈ではなく、勢いでラストを描いていたので、個人的には少し冷めてしまった。とは言え、全体としては普通に面白かった。
演出
とにかくよく動く。しかもP.A.WORKSがアニメ制作を担当しているから、動きのリアリティも感じられた。特にライブシーンは圧巻だ。ヌルヌル動かしているわけではなく、可能な限りナチュラルに描かれている。派手さはないが、プロフェッショナルの仕事だ。
一方で、シネスコープで見てみたかったのが本音ではある。
キャラ
本当にたくさんのキャラが登場する。正直、プロセカを知らない人にとってはきつい感じだ。男性客だけでなく、女性客にもしっかりブローチしていて、個人的には女性キャラより男性キャラの方が魅力的に感じられた。
あと、いろいろな初音ミクがいるのだけど、キャラデザの雰囲気が違ったりして、でもどこかP.A.WORKSらしさを感じられた。
音楽
流石に初音ミクの映画だから、音楽はめちゃくちゃ良い。特に挿入歌の「ハローセカイ」がクライマックスで流れたときは鳥肌が立った。音響含めて映画館で聴くべき楽曲だったと思う。
ちなみに個人的には”25時、ナイトコードで。”の『そこに在る、光。』が抜群に好みだった。Aiobahnみたいな雰囲気を感じる。
『劇場版プロセカ』の感想
※ネタバレ注意!
初音ミクの可能性
本作では当たり前のように初音ミクが有名人扱いされている。最初は「大げさな……」と思ったが、しかしよく考えてみれば、日本人の若者で初音ミクを知らない人はいないし、現在のJ-Popを支えている米津玄師やYOASOBIは、初音ミクにルーツがあるアーティストだ。たった1人のバーチャルシンガーが日本の音楽シーンを大きく変えた。この事実は、実はとてもすごいことなんじゃないかと今更ながら思った。
僕はボカロ文化に詳しくなく、初音ミクの楽曲もあまり知らない。そしてプロセカも前知識は全くないのだが、たまたま僕が知っている曲の中に『ハッピーシンセサイザ』がある。この曲は全体的に電子音を強く押し出しているラブソングなのだが、不思議と暖かい雰囲気がある。なぜ初音ミクの楽曲は、ここまで感情を揺さぶられるのだろうか?
前提として初音ミクは、音楽制作の可能性を一気に押し進めた功績がある。これまで音楽やりたかった人は、バンドを組んだりシンガーを目指したりしたと思うが、その一方で歌が下手だったり人前に出るのが苦手だったりする人は、音楽をやる機会がなかった。でも初音ミクであれば、自分の代わりに歌ってくれる。顔出しする必要もない。電子音だからDTMとの相性もいい。
これは完全に偏見だが、もしかしたら家に引きこもりがちの人の中には、心優しい人が多いのかもしれない。やはり人前に出るバンドマンやアイドルは、どこか「俺が!私が!」と積極的になりがちだが、ボカロPは良い意味で控えめで、だから人に優しくできる人が多いのかもしれない。その想いが曲に込められているのだとしたら、初音ミクの楽曲が心優しいものになるのも必然なのかもしれない、
こんなことを考えながら、僕はスクリーンで本作を見ていたわけだが、2週目の平日にかかわらず客先はそれなりに埋まっていて、いかに多くの人が初音ミクに影響を受けているかがよくわかった。今後はもっとボカロ文化を学んでいきたいと思う。
届けるべき人に届かない葛藤
どうやらプロセカの世界では、現実世界をベースにしながらも、音楽を交えたちょっとしたファンタジー要素もあるらしい。それぞれのキャラクターが自分のやりたい音楽にのめり込みながら青春を謳歌しているようだ。
その一方で初音ミクは、もがいていた。音楽を届けるべき人に、音楽が届かない葛藤に。
皆さんは、鬱になったことがあるだろうか。少なくとも僕はない。だが、機嫌が悪くなることはある。そんなとき、僕は人の意見に耳を傾ける気にならず、自分で勝手にストレスを発散して、自己解決している。であれば、自己解決できない状態のとき、つまり鬱になっているときは、どのようにして解決すればいいのだろうか。この状態では、人の意見に耳を傾ける気にならず、そして自分でも解決することができない。当然、音楽も届かない。初音ミクは、この葛藤で苦しんでいた。
一応、本作では割と勢いでこの問題を解決した感があるので、理屈を並べて、この問題の解決策を導き出すことは難しい。いや、強いて言うならば、理屈で考えないことがヒントなのかもしれない。なぜなら音楽は理屈で語れるものではなく、もっとエモーショナルで、感性が重要だからだ。
さいごに
とりあえず、時間があるときにボカロ曲を聴いてみようと思った。そして機会があれば、ボカロを用いたDTMにもチャレンジしたいと思う。
流石にプロセカをプレイする時間は取れそうにないが、曲は追いかけ続けたいなと思う。