今回は『下ネタという概念が存在しない世界(以下、下セカ)』について語っていく。
『下セカ』は赤城大空によるライトノベル(ガガガ文庫)が原作で、2015年夏クールにTVアニメが放送された。
アニメ制作はJ.C.STAFFが担当している。
『下セカ』の評価
※ネタバレ注意!
作画 | 70点 |
世界観・設定・企画 | 75点 |
ストーリー | 78点 |
演出 | 78点 |
キャラ | 76点 |
音楽 | 79点 |
作画
限られた予算の中で、抜くとこは抜いて、やるとこはやってる印象を受けた(意味深)。日常シーンや会話シーンでは抜いて、エッチなシーンだけ妙に動く。この全力でふざけた感じが、僕はとても好きだ。
世界観・設定・企画
「下ネタが国によって弾圧されている」というふざけた設定だが、意外にもいろいろなことを考えさせられる。ガガガ文庫の大賞作品は、ほぼ確実にメディアミックス化されることが決定しており、『下セカ』もその流れに則っている。予算規模は「中の中」ぐらいだと思うけど、リソースの割り振りが適切だったと思う。
ストーリー
僕は、下ネタが大好きというか普通に笑っちゃう人なので、ストーリーには好印象を抱いている。シリアスなパートはゼロで、ギャグに全振りしている印象だ。
演出
抜くところは抜いているので、見せ場となるエッチなシーンでリソースを投下していることに成功している。また、会話のテンポ感もよく、放送禁止用語がズバズバと流れるだけで笑ってしまう。
キャラ
『下セカ』は、キャラクターが中々独特。主人公の奥間狸吉は、特に深掘りされている印象はなし。一方で、ヒロインの華城綾女のブレのなさはそこそこ魅力的。裏ヒロインのアンナ・錦ノ宮は、性知識が皆無であることがどれだけ恐ろしいかを教えてくれる。鬼頭鼓修理は、名前とキャラデザが完全にネタ。そして何よりも、アニメオリジナルキャラのびんかんちゃんが最高だ!(CV.小倉唯)
音楽
製作委員会にキングレコードがガッツリ参加していることもあり、OPとEDはどちらもキングレコード楽曲。OP『B地区戦隊SOX』は戦隊モノの主題歌にありそうなメロディーになっている。ED『Inner Urge』も中々にグロい。
『下セカ』の感想
※ネタバレ注意!
遊びは真面目を内包する
久しぶりに、全力でおふざけしたアニメを見た気がする。とにかく『下セカ』は、ふざけている。美少女に下ネタを連発させ、性知識が欠落した美少女にエッチなことをさせる。「下ネタが禁止されている」という世界観も中々におもしろく、その結果、少年少女がエロい絵を見るだけで興奮するのも馬鹿らしいし、エロい絵や昆虫の交尾動画を生徒に公開しようとするSOXの活動も、とにかくアホだ。
さて、僕はヨハン・ホイジンガの『ホモ・ルーデンス』に大きな影響を受けている。ホイジンガは「文化の発展には遊びが必要」として、いくつかの条件をもって「遊び」を定義した。その中で、非常に興味深い洞察がある。それは「遊びは真面目を内包する」というものだ。
ホイジンガいわく、一般的に多くの人々は「遊びと真面目を対立関係に置く」らしい。たしかに、子どもが遊んでいる様子を見た大人が「真面目にしなさい!」と躾けるシーンをよく見かける。
でも例えば、スポーツというのは遊びの延長線にあるものだけど、スポーツを真剣に遊んでいる人は極めて真面目である。日本語の「遊ぶ」は英語で「play」だが、それこそ「play baseball」や「play the piano」は遊びである一方で、突き詰めれば極めて真面目になる。
ホイジンガが定義する「遊び」には儀式・祭式・戦争・競技・裁判などが含まれていて、たしかにこれらの催しは、一定のルールによって実施される「遊び」であり、もちろん極めて真面目なものである。
真面目は遊びに対立するものではなく、内包されるものである。つまり、真面目より遊びの方が高次的な概念なのである。
話を『下セカ』に戻そう。
『下セカ』では「風紀を守るために」という名目で、おふざけがすぎた「下ネタ」が徹底的に排除された世界が描かれる。しかし、下ネタが排除され、エロ本やAVが出回らなくなったことで、少年少女の性知識が欠落する事態に陥ってしまった。また、本作ではあまり描かれなかったけれど、そもそも「性」は、芸術や音楽などで極めて重要な要素だと言える。人間の文化の根底を担う「性」を排除することは、極めて馬鹿らしい。
そして「風紀を守るため」に下ネタを排除するという考え方は、それこそ「真面目が遊びを追い出す」という現象そのものである。
「遊びが真面目を内包する」という考え方が正しいのであれば、我々が住む現代社会のように、下ネタという概念は存在しなくてはならない。なぜなら「下ネタ」という遊びは、真面目に突き詰めれば性知識の向上や文明の発展に繋がるからだ。実際、下ネタが芸能に及ぼした影響は極めて大きい。
メタ的に見ると、制作陣も『下セカ』を作るにあたって、全力でふざけたと思うけど、実際は極めて真面目な現場だったと思う。全力でふざけた作品を真面目に作る。『下セカ』の制作現場も、きっと「遊びが真面目を内包する」の状態だったに違いない。
まとめ
これだけ放送禁止用語を連発していた『下セカ』だが「原作ラノベはどんな感じなのだろう」と気になる自分がいる。実際にラノベを読むかどうかは一旦置いておいても、たしかに『下セカ』はよくできている作品で、ガガガ大賞を受賞するのにふさわしい作品だった。
アニメ化のやり方も潔くて、好感が持てる。いい視聴体験だった。