今回は『サマータイムレンダ』について語っていく。
『サマータイムレンダ』は『少年ジャンプ+』で配信されていた漫画が原作だ。2017年から2021年まで連載された後、2022年春クールから2クールにかけてTVアニメが放送される。アニメ制作はOLMが担当した。
『サマータイムレンダ』の評価
※ネタバレ注意!
作画 | 85点 |
世界観・設定 | 80点 |
ストーリー | 85点 |
演出 | 85点 |
キャラ | 80点 |
音楽 | 70点 |
作画
元々の原作漫画の画力も中々だったと思うけれど、それに作画もしっかりついてきた感じがする。ホラー的な要素があることに加え、キャラクターの距離感がとても重要な作品なので、構成が作り込まれている印象を受けた。
戦闘シーンも十分すぎるくらいに迫力がある。近年は全体的に作画のクオリティが高まっているけれど、それにしっかりついてきたと言えるだろう。
世界観・設定
タイムリープ系の作品は世の中に数多く存在するが、ジャンプ系の作品となると少々珍しいかもしれない。なぜなら連載漫画の制作方式とタイムリープ系の作品は相性が悪いと考えられるからだ。でも実際にこうして作品として出してみると、やはり面白い。
また、世界観の作り方も良い感じで、クレヨン風の線を用いているのが現代的だなぁと思う。
ストーリー
タイムリープ系作品の名作に比べると、ストーリーの練度は低い。けれどもジャンプの編集力もあって、続きが非常に気になる展開を制作できている。また、シナリオもエンタメとして十分に面白い。
演出
戦闘シーンではカメラワークを活用した演出が用いられていた。また『サマータイムレンダ』はホラー系の要素もあり、それも演出でしっかり補えていたと思う。絶望感みたいなものも、しっかり感じることができた。
キャラ
やはり全体を通して関西弁を貫いているのが最大の魅力だと言えるだろう。潮も澪も、独自の魅力を醸し出せていると思う。個人的には南雲先生が良かったな。
音楽
音楽はぼちぼち。今の若者にウケそうな大衆的な楽曲が無難に用いられていた。劇伴も、印象には残らない。
『サマータイムレンダ』の感想
※ネタバレ注意!
エンタメとしては非常に面白い
『サマータイムレンダ』はタイムリープ系の作品だ。「タイムリープ系の作品にはハズレがない」と言われるぐらい、タイムリープ系作品の大半は面白いのだが『サマータイムレンダ』も例外ではない。
しかも『サマータイムレンダ』は、ジャンプ作品である。ジャンプの強力な編集力がシナリオの練度を高めていて、続きがどんどん気になる構成になっている。また、キャラクターも非常に魅力的で、舞台設定も面白い。だからエンタメとしては、非常に面白い作品になっている。
よくよく振り返ってみると、ジャンプ作品×タイムリープはほとんど存在しなかった。なぜなら制作体制の相性が悪いと考えられるからだ。一般的に週刊連載というのは、短期的な目線での読者獲得が最優先になってしまう。だから長期的な視点でのストーリー構築が必要なタイムリープ作品とは相性が悪いのだ。
でも『サマータイムレンダ』は非常に上手くやっている。序盤での掴みも完璧で、中盤での怒涛の展開も上手くやれている。終盤はスマートとは言えないけれど、青春作品としては満足のいく終わり方だった。
そして何と言っても『ジャンプ+』の存在がでかい。紙媒体の週刊少年ジャンプに比べると、連載の自由度が比較的高いため、プレッシャーに縛られることなく作品を制作できていたと思う。また、アプリの設計的に、過去話に誘導しやすいデザインになっているため、短期的な利益をある程度無視できるのも大きい。
やはり大衆向け作品であるため、作品としての深みは感じられなかったけれど、エンタメ作品としてめちゃくちゃ面白かったのは間違いない。少なくとも『東京リベンジャーズ』よりは、論理的かつパワフルなストーリーだったと思う。
キーワードは俯瞰
先ほども述べた通り『サマータイムレンダ』から深みを感じることはほとんどなかった。でもそれは『まどマギ』とか『四畳半神話大系』といった作品が異常に優れているというだけで『サマータイムレンダ』が悪いというわけではない。そもそも『サマータイムレンダ』はエンタメに特化しているわけだし。
ただ、もし『サマータイムレンダ』から教訓を得ようと思うのであれば、やはり”俯瞰”がキーワードになるだろう。
そもそもタイムリープとは、基本的に高次元の現象である。三次元世界の上の領域に足を踏み出せるからこそ、タイムリープは可能となる。そのためには客観的な視点(俯瞰)が必要不可欠だ。
『サマータイムレンダ』という作品は、タイムリープ作品でありながら、サバイバル作品でもある。いつ命を奪われていもおかしくない状況で、どれだけ正しい判断ができるか。それが『サマータイムレンダ』の肝だったように思われる。
実際、僕たちが住む現代社会も、サバイバル社会になりつつある。自分の生活の全てを日本に任せてられる状況ではない。自分の身は自分で守る。これが現代社会のキーワードになっている。
その中で必要な能力が、やはり俯瞰なのだ。今、自分が置かれている状況を俯瞰することで、心を冷静にすることができ、結果的に長期的な視点で行動することができる。
SNSやギャンブルやタバコや酒や高糖質食品など、世の中には短期的な利益へと誘導するものが数多くある。だから感情的に行動するだけでは、ただの養分にされてしまうわけなのである。それこそ『サマータイムレンダ』の影のように。
網代慎平と南方ひづるを目指せ!
『サマータイムレンダ』において、俯瞰を巧みに活用したキャラクターはほとんどいない。多くのキャラクターは、俯瞰を巧みに活用できるキャラの指示を受けて行動したに過ぎない。という見方をすることもできる。
では、俯瞰を巧みに活用したキャラクターとは一体誰か。それは網代慎平と南方ひづるだ。
慎平は普段から俯瞰する癖があり、それに加えてタイムリープの能力も有している。一方のひづるも、俯瞰を巧みに活用できている印象が強い。網代慎平の突拍子も無い話に対して、すぐ理解することができていた。
……ここで気づく人がいると思うけれど、この2人には、ある共通点がある。それは、島から長い間離れていることだ。慎平は2年間、そしてひづるは14年間も島から離れている。だから必然的に、島を外から見ることが可能なのである。
また、2人とも本にたくさん触れているのも共通点だと言える。本を読むという行為は、2次元の世界を3次元の世界から俯瞰していることだと言える。だから普段から、俯瞰する習慣を身につけている可能性が高い。
この「島から出ること」と「本を読む」という行為は、誰にでもできることである。特に「島から出ること」すなわち「日本から出ること」は、非常に重要なことなのではないだろうか。
作者がこれを意識しているかどうかは知らないが、少なくとも『サマータイムレンダ』という作品の中では「一度島から出た人間の方が俯瞰が得意」という事実が存在している。
網代慎平も南方ひづるも、作中に登場する数多くのキャラクターの中では、サバイバル能力が高いキャラだったと言える。それには様々な要因があるが、”俯瞰できること”が鍵になっていたのは間違いない。慎平とひづるを目指すのであれば、まずは本を読むことから始め、そして島から出るのがいいのかもしれない。
さいごに
『サマータイムレンダ』の舞台となった島は、和歌山県和歌山市の友ヶ島だ。関西に赴く予定があるので、ぜひとも訪れたいと思う。→訪れました!