【トラペジウム感想】アイドルになるまでの「過程」の物語

トラペジウム
星島てる
アニメ好きの20代。ライターで生活費を稼ぎながら、アニメ聖地の旅に出ている者です。アニメ作品の視聴数は600作品以上。

今回は『トラペジウム』について語っていく。

『トラペジウム』は乃木坂46の元メンバー・高山一実による小説が原作で、2024年5月に劇場アニメが公開される。

アニメ制作はCloverWorksが担当した。

目次

『トラペジウム』の評価

※ネタバレ注意!

作画89点
世界観・設定・企画80点
ストーリー80点
演出83点
キャラ82点
音楽82点
※個人的な評価です

作画

とにかく、キャラクターの作り方が良かった。主人公の東ゆうの感情表現が個人的に好きで、ちゃんと予算が投下され、かつ、高いレベルを維持していることが、素人目でもわかる。エフェクトや角度の背景表現に頼らず、純粋な動きで映像表現を追求している点には好感が持てる。

世界観・設定・企画

ジャンルは、アイドルアニメ。ただし、一般的なアイドルアニメとは全く異なる雰囲気に仕上がっている。アイドルを目指すシンデレラストーリーを描きながら、登場人物が狂っていく様子も描いている。原作者がアイドルということで、リアリティも感じられた。

ストーリー

全体的にはテンポ感はいいが、やはり、アイドルになるまでの過程がご都合主義だったのは否めない。ぜひともTVアニメで見たかった。

起承転結の「転」がなかなかに破滅的でグロかったから、どのように着地するかが見ていて気がかりだったけど、かなりうまく結ばれていた。終わり方も綺麗だった。

演出

やはりキャラクターの表情がいい。登場人物の二面性を表情だけで描き切っている。

一般的に、止め絵が使われることの多いシーンでも積極的にキャラクターを動かしていて、相当な予算が投下されていることがわかる。

キャラ

やはり主人公の東ゆうが、とてもいいキャラをしている。アイドルになるためなら手段を選ばない残酷さと、友だちを大事にする優しさの両方を持ち合わせている。言ってしまえば『トラペジウム』という作品は、東ゆうが大切なもの知るまでの物語なのかもしれない。

音楽

主題歌の『なんでもない』は「イマドキだなぁ」という感じのメロディ。でも、作品の現代的な雰囲気にマッチしている。

挿入歌の『なりたいじぶん』もちゃんとしたアイドルソングに仕上がっていて、エモさも感じられる。

EDの『方位自身』は90年代後半から00年代前半に見られる哀愁漂うメロディになっている。でも歌詞は前向き。歌詞がちゃんと表示されていたのも、センスがいい。個人的にはサビがとても大好き。

『トラペジウム』の感想

※ネタバレ注意!

純粋なクオリティの高さ

正直に言うと『トラペジウム』にはあまり期待していなかった。やたらと予告映像を目にしたし(プロモーションにお金をかけてる)、アイドルが作者というブランディングに対しても懐疑的だったのだ。それにアニメ制作はCloverWorksが担当するということで、TRIGGERやシャフトのように、何かで突き抜けることもないだろう。

ということで『トラペジウム』にはあまり期待していなかったのだが、いい意味で裏切られた。純粋にクオリティが高かったのである。

まず第一に、ストーリーがいい。『トラペジウム』はアイドルアニメではあるものの『ラブライブ!』のような派手な感じではなく、繊細な心情描写を売りにしている。アイドルが作者ということで、アイドル関連の描写にはリアリティがあり、いい具合に毒が効いていた。

第二に、企画が素晴らしい。『トラペジウム』をメディアミックスするとなったときに、乃木坂46を起用したテレビドラマではなく、劇場アニメ化を選んだセンスがいい。『ラブライブ!』に慣れたアニメヲタクにとって『トラペジウム』は新感覚で、これはアニメだからこそ得られた結果だと言える。

第三に、とにかく作画のレベルが高い。特別な映像表現があるわけではないが、純粋に、キャラクターがよく動く。「可能な限り止め絵にしない」という意思表示も感じさせられたし、それはつまり、予算がちゃんと投下されているということである、

第四に、キャラクターが良い、具体的には主人公の東ゆうが、これまでのアニメ界にはあまり見られないキャラをしている。実際のところ、小説によく出てきそう陰湿さはあるのだけれど、やはりアニメだからこそ、希少価値を感じさせられるのだと思う。

そう。『トラペジウム』はアニメだから良かったのだ。僕は原作小説を読んでいないけど、おそらく原作小説の方が、毒が効いているのだろう。そして、本作をテレビアニメにすれば、毒の部分がちょうどいい具合に弱まる。

多分、人によっては「東ゆう、ムカつく!」ってなるんだろうけど、所詮はアニメーションという媒体で描かれたファンタジーなのだから別にいいではないか。

これらの功績は、毒の効いたストーリーに自身のアイドル経験を見事にミックスさせた高山一実のクリエイティビティと、アニプレックスに蓄積された技術力・プロモーション力の賜物だと思う。

トラペジウムとは?

ネットで調べるとトラペジウムには以下のような意味になる。

①不等辺四角形
②オリオン大星雲で輝く4つの星

物語のラストで、アイドルになる前の東西南北の4人が、笑顔をキラキラと輝かせる写真に『トラペジウム』という題名がつけられているシーンが描かれた。

『トラペジウム』では色々なことが描かれたのだけど、最後に得られる教訓が『ラブライブ!』と同じなのはとても興味深い。

要するに、こうである。

主人公の東ゆうは、とにかく「アイドルになること」に憧れていた。キラキラと輝き、皆んなを笑顔にするアイドルを信じてきた。その情熱は本物で、たしかに手段を選ばない場面もあるが、実際にメンバーを集めて、アイドルになることができた。

でも実のところ、東ゆうはアイドルになる以前に、アイドルを目指そうと覚悟したその瞬間から、輝いていたのである。個人的に印象に残っているのが、東ゆうが水野サチ(車椅子の女の子)に対して「わたし、アイドルになるよ」とこっそり宣言したシーンだ。この瞬間から、アイドルを目指す女の子として、東ゆうを含め東西南北の4人は、キラキラと輝いていたのである。

これについては『ラブライブ!』でも同じに描かれた(特にサンシャイン)。

ここから学べる教訓は、とてもオーバーに言えば「結果より過程の方が大切」ということだ。たしかに目に見える結果は大事だが、大切にすべきなのは過程なのである。

そして何より、このような物語を、元トップアイドルの高山一実が作り上げたことに、大きな意味がある。

さいごに

『トラペジウム』のような渋い名作があるから、アニメ映画の追いかけが中々やめられないのだ。

映画予告もガンガン流していたし、それなりに館数も多そうだけど、観客の入りを見る限り、興収には苦労しそうだ。多分、プロジェクト単体としては回収できなさそうだけど、20万部を突破している原作小説のマネーを考えれば、まあ及第点の具合に収まるだろう。

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