【海がきこえる感想】スタジオジブリが手がける等身大の恋愛アニメ

海がきこえる
星島てる
アニメ好きの20代。ライターで生活費を稼ぎながら、アニメ聖地の旅に出ている者です。アニメ作品の視聴数は600作品以上。

今回は『海がきこえる』について語っていく。

『海がきこえる』は氷室冴子の小説が原作。これが1993年に、日本テレビ開局40周年の記念番組として、90分間の長編アニメで放送される。

アニメ制作はスタジオジブリ、監督は望月智充が担当した。

目次

『海が聞こえる』の評価

※ネタバレ注意!

作画90点
世界観・設定85点
ストーリー85点
演出85点
キャラ88点
音楽90点
※個人的な評価です

作画

スタジオジブリの初めての恋愛モノ。ということで、これまでのジブリ作品とは異なり、動物はほとんど登場しないし、アクションシーンもほとんどないのだけれど、その代わりにリアリティのある繊細な描写が目立つ。

カメラワークもほとんどなく、本当にシンプルな作画で、純粋な技術力と基本的な構図だけで攻めている感じが良き。

世界観・設定

青年の淡い青春を描くために、色彩に工夫が見られる。一般的に、東京よりも高知の方が爽やかに描かれていて、思えば、全体的に寒色が強い気がした。

ストーリー

ストーリーはちょっとドロドロした高校生の恋愛モノ、という感じ。どこか昭和の匂いがする一方で、あだち作品みたいな爽やかさもある。73分ということで、ジブリ作品の中でもスッキリ収まっていることもあり、普通に最後まで飽きることなく物語を楽しめた。

演出

Wikipedia曰く、監督の望月智充は、基本的にはフィックスで画面を撮影しておいて、最後の最後でカメラワークを使う演出が得意らしく、たしかに『海がきこえる』でも同じような演出が用いられていた。実際、僕はかなり感動した。

それと、杜崎拓が里伽子を思い返すシーンの演出もめちゃくちゃエモかったなぁ。

キャラ

キャラは結構いいんじゃないかなぁと思う。適度にカッコいいし、適度にかわいらしい。たしかにヒロインは少しワガママなのだけれど、それも含めて、キャラの設定はしっかりしていると思う。個人的には主人公の杜崎にかなり共感できた。

音楽

近年、日本のサブカルチャーが源泉になっているLo-Fiが世界的に注目を集めており、その際によく『海がきこえる』や『耳をすませば』の映像が用いられる。そして『海がきこえる』の劇伴こそが、日本発のLo-Fiにかなり近いんじゃないかなと思っている。『海がきこえる』の劇伴は、ヒップホップ要素はほとんどないけれど、アンビエントミュージックとしては非常に優れていると感じる。

ちなみに個人的には『海がきこえる』がめちゃくちゃ好き。

『海がきこえる』の感想

※ネタバレ注意!

圧倒的に隠れた名作

『海がきこえる』は、スタジオジブリの長編アニメーション作品の中で、最も認知度の低い作品だと思われる。それもそのはずで『海がきこえる』は、宮崎駿でも高畑勲でもなく外部のアニメーターが監督を務め、そのうえ、劇場で公開されていないからだ。

実際、僕も『海がきこえる』は、恥ずかしながらつい最近まで知らなかった。VPNと使い、ドイツのNetflixでジブリ作品を調べた際にふと出てきたので、そのときに初めて存在を知った。

それで調べてみたら『海がきこえる』は、ジブリでは非常に珍しい恋愛モノという話ではないか。僕は『耳をすませば』がジブリ作品の中でもかなり好きだったから「これは絶対おもしろい!」と思って『海がきこえる』を視聴したら、案の定、めちゃくちゃおもしろかった。

多分、高畑勲監督の『ホーホケキョ となりの山田くん』よりも『海がきこえる』は隠れていると思う。でも『海がきこえる』のストーリーは、極めて大衆的で、特に高校生や20代前半の青年だったら、まず間違いなく好きになれるんじゃないかなぁと思う。

高校生の”閉じられた世界”

『海がきこえる』のテーマってなんだろうなぁ、と思ったけれど、多分この答えは終盤にヒントがある気がする。要は「あの頃は世界が狭かったんだ」ということである。

『海がきこえる』は、大学に進学したばかりの主人公・杜崎拓による高校時代の回想シーンが、物語のベースになっている。それでまあ、高校時代に色々なことがあったわけなのだけれど、皆んなが高校を卒業して初めての夏休みに、同窓会が高知で開催されることに。そこでみんなが口揃えて「あの頃は……」と言って、あれだけドロドロだった出来事が、全部チャラになったのである。

『海がきこえる』の冒頭で、杜崎拓と松野豊の出会いが描かれた。この2人は中学生のころ、一方的な修学旅行中止に反発した際に出会ったそうで、なんというか、この時点で「学校という”閉じられた世界”に対する反発」が描かれているように思う。中学生・高校生にとっての世界とは、学校生活のことであり、学校生活でなんかイライラすると、その途端に世界が終わったように感じられる。でも、実際に”閉じられた世界(学校)”の外に出てみると、あれだけ考え込んでいた悩みがちっぽけだったことに気づき、それを楽しく懐かしむようになるのである。杜崎と松野があっさり仲直りしたように。あれだけギスギスしていた里伽子と清水明子が、あっけからんとトークを楽しんだように。

高校を卒業して、それぞれの進路を選ぶようになってから「あの頃はバカだったなぁ」と懐かしむ若者。ちょうど、23歳の僕も、その年代に位置する。だから『海がきこえる』にとても感動してしまった。

たしかに、これは宮崎駿にも高畑勲にも作れない作品だと思う。令和の現在でも通じるであろうこの恋愛作品を、僕はガンガン布教しようと思う。

さいごに

ジブリの若手アニメーターが中心となって制作した『海がきこえる』に対して、宮崎駿がアンチテーゼとして制作したのが『耳をすませば』だと言われている。でもやっぱり僕は個人的には『海がきこえる』の方が好きかもしれないと思った。

それと『海がきこえる』は、おそらく今後も、世間で注目されることがないのではないかと思う。なぜなら作中で、未成年者がガンガンお酒を飲むしタバコも吸うからである。ということで、金曜ロードショーで放送されることが絶対にない。そのうえ、ジブリ作品は日本国内で動画配信に対応していないから『海がきこえる』はさらにレアな作品になりつつある。

個人的に『海がきこえる』はHD画質での視聴を強く推奨するので、VPNを使って海外のNetflixにアクセスするか、Blu-rayをレンタルするしかないように思える。

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