今回は『菜なれ花なれ』について分析しようと思う。
『菜なれ花なれ』はP.A.WORKSとDMM.comの共同制作によるオリジナルアニメ作品で、2024年夏クールに放送された。
監督は『BanG Dream!』シリーズで監督経験がある柿本広大が担当。アニメ制作はP.A.WORKSが担当した。
『菜なれ花なれ』の評価
※ネタバレ注意!
作画 | 79点 |
世界観・設定・企画 | 70点 |
ストーリー | 72点 |
演出 | 72点 |
キャラ | 78点 |
音楽 | 80点 |
作画
P.A.WORKSらしい作画と背景だが、色彩設計がこれまでと大きく異なる。全体的に非常にカラフルで、シーンごとに線の色を変えている。また、全体通して色が明るいので、セルルック3DCGとの親和性が高くなっている。実際、オープニングの 3DCGパートと手書きパートのコンポジットは素晴らしかった。
世界観・設定・企画
チアリーディングと応援がテーマ。ここ数年でとてもP.A.WORKSらしい作品に仕上がっていると思う。また、個人的には『ラブライブ!』の雰囲気も感じ取れた。
それと注目すべきは、DMMが制作に参加していること。最近はDMMとP.A.WORKSが手を組んでいることが多いが、本作のようにP.A.WORKSらしさを重視してくれるのであれば、DMMにはどんどん制作に参加してほしいと思う。
ストーリー
正直、尺は足りなかった。PoMPoMsとチアリーディング部の2つのパートを描き切るのであれば、2クールは欲しかったのではないだろうか。PoMPoMsで6人キャラがいて、チアリーディング部の方に主要人物が5人いることを考えると、やはり1クールでは深掘りしきれない。
一方で見方を変えれば「テンポ感がいい」ということにもなる。実際、前半から中盤にかけてはちょうどいいテンポ感だし、終盤も若干駆け足気味くらいで、まあこんなものではないかと思う。
演出
演出は、マイルドにした『ラブライブ!』みたいな感じ。ギャグのノリとか『ラブライブ!』に近いところを感じる。また、デフォルメ的な演出もいくつか見受けられた。P.A.WORKSと言えば、『凪のあすから』や『色づく世界の明日から』のような繊細な描写のイメージがあったので、デフォルメ的な演出は少し意外。また、パルクールを描いていることもあり、背景との連携も印象的だった。
キャラ
PoMPoMsに所属するメンバーは、多様性がある。主人公のかなたは典型的な主人公キャラだが、そのほかにはパルクールが好きな涼葉、カポエイラとDTMができるブラジル人とのハーフの杏那、常にヨガのポーズを取る穏花に、新体操が得意な詩音、そして車椅子の恵深だ。これは意図的に多様性を持たせていることで、人と人との壁を強調しているのだと思う。
音楽
なんとゆずの北川悠二が主題歌のプロデュースを担当。OPの『Cheer for you!』は中々いい曲で、特にAメロの中毒性が高い。たしかにゆずっぽい明るい曲だった。ED『With』は悪くないし、作品にマッチしているいい曲だけど、まあやっぱりインパクトには欠ける。
『菜なれ花なれ』の感想
※ネタバレ注意!
応援し合える世界を目指して
本作のテーマは、言わずもがな「応援」である。
中学校から10年間運動部に所属していた僕からすれば、応援というものは、極めて近い存在だった。応援されることもあったし、応援することもあった。応援が生み出すエネルギーは、凄まじいものがある。そういう場面を、僕は何度も目にした。
一方でネット社会を見渡せば、「応援できる人」というのは、想像以上に少ないのかもしれない。有名人や芸能人に対しては誹謗中傷の嵐。何か夢を追いかけようとしている人に対しては、小馬鹿にするようなクソリプを送る。
僕が10年間運動部に所属してきた中で、お決まりのセリフがある。「応援できないやつは、応援されない」というものである。人のために行動できない者が、人から応援されるわけがない。
さて、本作のストーリーを振り返っていくと、やはり愛江田毬のアンチコメントが印象に残る。愛江田毬のやったことは許されない反面、女子高生にとっては非常に辛い局面であることもわかるから、「半分しょうがない」というのが正直なところだと思う。その中で、とても印象に残っているのは「応援で返せ!」という部長(伊沢 野苺)の言葉。この「応援で返せ!」という言葉は、つまるところ「人の為になれ!」ということでもある。
おそらくいつの時代でも、利己的に生きてしまう人はあまりにも多く、また、それを自覚しながら、どのようにすれば真の意味で利他的になれるかを悩む人もいる。その中で、もっとも簡単に取り組める利他的な行動は「応援」なのかもしれない。応援は、他人の為になるのはもちろんのこと、思っていたよりも楽しかったりするから。
もし2クールあれば……
『菜なれ花なれ』を見ていて、現代はどうも忙しいなぁと思った。本作はイップスがテーマになっていたのだけど、実際にイップスを治療するには半年から1年以上かかることは珍しくなく、場合によっては一生治らないこともある。それが『菜なれ花なれ』の場合、数ヶ月で解決する。もっと言えば、視聴者の感覚で言えば3ヶ月(1クール分)で治ってしまうことになる。
『菜なれ花なれ』が放送されているタイミングで、『ONE PIECE』の原作漫画で”とある神回”があった。『ONE PIECE』未読勢のために内容は伏せるが、原作の時間軸で言えば22年ぶり、現実世界でも18年ぶりの伏線回収的なエピソードだった。全ONE PIECEファンが待ち望んでいたエピソードだっただけに、凄まじい感動があったのは間違いない。
また、『CLANNAD』でも主人公の岡崎朋也が、本当の意味で愛を知るまでに、作品の時間軸で5年以上経過している。4クール放送ということもあり、視聴者目線でも、随分と時間をかけた感覚になっている。
もし『菜なれ花なれ』でも2クールぐらいの尺があれば、もっといろいろなことができたと思うし、かなたがパフォーマンスを見せるシーンで、もっと素晴らしい感動を描くことができたと思う。もちろん、P.A.WORKSが感動ポルノ的な演出を好まないのは理解しているが、それを抜きにしても、感情が大きく動くシーンにはなったのではないだろうか。
別にこれは本作を批判しているわけでなく、業界全体の風潮として、1クール放送が基本になっているのが、1人のファンとして解せない。アニメビジネス的に言えば1クール放送の方がやりやすいのはわかる。でも、良質な作品を作り出すには、やっぱりそれなりの尺が必要になると思うし、それが「アニメだからできること」のように思う。
さいごに
久しぶりにP.A.WORKSらしいオリジナルアニメを見れた気がする。多分、商業的にはヒットしていないのだけど、一定の良質なファンを獲得することには成功したのではないだろうか。
『菜なれ花なれ』が放送されたクールでは、ほかにも『天穂のサクナヒメ』と『真夜中ぱんチ』が放送されていて、P.A.WORKSのコンテンツ展開力に驚かされた時期だった。でもやっぱり、この中だと『菜なれ花なれ』が一番PAらしい作品だったと思う。そして、本作がDMM.comとの共同制作で作られたことを考えれば、これからもP.A.WORKS×DMM.comには期待していいのかもしれない。