【文スト5期感想】世界から戦争を消し去る方法

文豪ストレイドッグス

今回は『文豪ストレイドッグス 第5シーズン(以下、文スト5期)』について語っていく。

『文スト』は朝霧カフカと春河35による漫画(集英社)が原作だ。2016年春クールにTVアニメ1期が放送され、2023年夏クールにはTVアニメ5期が放送された。アニメ制作はボンズが担当している。

目次

『文スト5期』の評価

※ネタバレ注意!

作画80点
世界観・設定80点
ストーリー83点
演出82点
キャラ82点
音楽80点
※個人的な評価です

作画

安定のボンズ。『文スト4期』から大きな進化があったわけではないが、戦闘シーンがド安定している。特に福地と福沢の戦闘シーンは、それなりに複雑だったと思うけど、全くブレることがなかった。

世界観・設定

『文スト5期』では規模が一気に広がり、まるでセカイ系(福沢と福地の)を彷彿とさせる世界観だった。また、群像劇の範囲も一気に広がり、武装探偵社と猟犬が戦う場所と、太宰治とフョードルが頭脳戦を繰り広げる監獄は、まさに地球の裏側。中々に知的だった。

ストーリー

『文スト4期』は”天人五衰のボスの正体を解き明かす”というミステリー的なストーリーだったが、『文スト5期』もとても知的なストーリーだった。太宰とフョードルの頭脳戦、武装探偵社と猟犬の駆け引き、そして福地の真の目的など、伏線を提示して、それをしっかり回収する素晴らしいストーリーとシナリオだった。

演出

ラストの福地と福沢の演出が素晴らしいと思う。ボンズの演出は、感動ポルノ的なものではなく、適度なバランスがキープされているので、バトル系アニメの面子を保っている。

キャラ

『文スト4期』から新キャラが登場したわけではないが、猟犬のメンバーや、シグマ、宮沢賢治、幸田文が深掘りされた。今振り返ってみると、キャラの深掘りのやり方が少女漫画チックかも。ちなみに個人的には大倉燁子が好みでございます!

音楽

劇伴は比較的抑えめ。OPの『鉄の檻』は最高にぶち上がる。アニサマ2023でGRANRODEOが早速披露してくれたけど、狂乱した。EDの『軌跡』はラックライフらしいイントロから始めるので、相変わらずEDにふさわしい感じになっている。『軌跡』を流しとけば締まりが良くなるもんなぁ。

『文スト5期』の感想

※ネタバレ注意!

「世界平和」の呪い

『文スト5期』のメインテーマは、やはり福地と福沢の関係性だ。

Wikipediaに載っている史実を見ていくと、福地と福沢の直接的な関係性はあまりないようだが、どちらも誕生している時期が江戸時代末の天保に誕生している点で共通していて、2人とも若い頃に明治維新を体験している。

そして『文スト5期』では、まあ簡単に言ってしまえば、福地が実は良いやつだったことが判明した。やり方が少々強引ではあるものの「世界平和」を実現させようとしていたのは間違いなかった。そして福地が「戦争を消し去る方法」として採用したのが、国家主権を無くしてしまうというものだった。
福地の考えとしては、戦争が起こる原因は、主権の有無にあるそうだ。都道府県が藩と呼ばれていた時代では、藩と藩がぶつかり合う戦国時代だった。しかし現代では、県と県が戦うことはない。この2つの時代の違いは我らと彼らだ。戦国時代では、それぞれの藩で主権が異なっていたため、お互いの藩のことを”彼ら”と判別していた。一方で現代は、都道府県が主権を握っているわけではない。主権を持っているのは”日本”という国で、そこに属しているのが都道府県である。だから都道府県は”我ら”であり、県同士で争うことはない。これをグローバル規模に考えていくと、それぞれの国の主権を無くし、人類軍を作り上げてしまえば、その配下にある国が争うことはない。これが、福地の考え方だった。

しかし、福沢が言うように、これまでの歴史を見る限り、独裁国は必ず滅びる運命にある。中から腐っていくのだ。

そこで福地は、福沢を人類軍の総帥に仕立て上げることで、腐敗を阻止しようとした。そしてそのお膳立てとして、福地は福沢に斬られることを望んでいたのだ。

福沢、ワシを斬れ!
お前が人類軍の総帥となるのだ。ほかに探偵社を救う道はない。
ワシの命か、探偵社の命か! 選べ。

『文豪ストレイドッグス』より引用

そして、EDが挿入される演出が入り、回想シーンに入る。

福地:なあ、福沢。なんでも一つ願いを叶えると言われたら、何を願う?
福沢:そうだな。俺は親しき人を守る強さを願う。……お前は?
福地:俺は、世界平和を願う!

『文豪ストレイドッグス』より引用

親しき人を守る強さを願う福沢は、福地を斬ることなどできるわけがなかった。当然、福地もそれを理解していた。だから、部下である燁子に自らを斬らせた。

結局、このあとは描かれていないけれど、福沢がワンオーダーを破壊しなかったことから、福地の「世界平和」の呪いが福沢にかけられたと見ていい。福沢は親しき人(武装探偵社)を守るために、そして福地の願いを叶えるために、人類軍の総帥を引き受けるのではないかと思う。

この場面は『文スト』の中でも屈指のエピソードで、多分、個人的に一番好きだと思う。

福地のやり方で戦争は消えるのか?

さて。福地は見事なまでに計画を遂行したことになった。完璧である。しかし、はたして本当に福地のやり方で戦争は消えるのか?

たしかに、福地の考え方は正しい気がする。彼らではなく我らになれば、基本的に戦争は起こらない。もちろん、些細なトラブルや喧嘩はあるだろうが、人の命を奪い合う戦争が起こることはない気がする。もし、世界を統一する力がありながら、良心を抱く人が存在するのであれば、世界平和は本当に実現するかもしれない。だからある意味、これから描かれていく『文スト』は、一種の思考実験みたいなものになると思う。

現実世界で見ていくと、本来、国連はこのような目的で設立されたものだったはずだ。しかし現状はアメリカの操り人形で、かつ実質的な権力を保有しているわけじゃない。国連のような組織は、協働的ではなく、ある意味、独裁的な流れで設立されなければならないだろう。それも、国家に所属していない全く新しい存在が。

実のところ、現在、テクノロジーの進化に伴って、このような革命が起こり得る土台ができあがろうとしている。ブロックチェーンだ。ブロックチェーンを活用して、法律や通貨を生み出すことができれば、国家の存在目的の大部分が失われることになる。だから、国家に所属していない全く新しい存在が登場する可能性は極めて高く、というか既に存在している。資産の大部分を仮想通貨で保有し、国籍も曖昧になっている存在が。

もし、地球上に存在する全ての人々が、このような存在になったら、本当に戦争は無くなるんじゃないだろうか。これが僕の考える”世界平和”のシナリオだ。ただし「食糧が確保されている」という大前提をクリアし続ける必要があるけど。

フョードルがここで終わると思えない

福地と福沢による猟犬VS武装探偵社がA面だとしたら、太宰VSフョードルがB面だ。

こちらの戦いも実に知的で、ある意味、現実離れしていた戦いだった。勝負の命運を決めたのは、他人を信じる力。基本的に、フョードルは全てをコントロールしていたのに対し、太宰は武装探偵社の振る舞いに賭けていた。「彼らがブランをなんとか支配下におくだろう」と。この太宰の「人を信じる力」は実に難しいが、しかし本当に優れた人を見つけ出し、その人を完全に信頼することができたら、とてつもないパワーが生まれることは間違いない。

僕は最近『週4時間だけ働く』という本を読んでいて、その中でアウトソーシングのくだりがあった。もしアウトソーシングを活用できれば、世界中のどこでもビジネスを展開できるというのだ。これは、たしかに正しい。太宰は地球の裏側の監獄に位置していたが、心拍数で坂口安吾とやりとりするだけで、あとは武装探偵社に完全にアウトソーシングした。この”完全にアウトソーシング”というのが、成功の要因だ。

さて、これでフョードルは死亡したわけだが、ここで終わる存在だと思えないのは僕だけだろうか。実際、異能が明らかになっていない。「触れたらヤバイ!」というのがわかっているだけだ。

さいごに

ということでいち早く続きを視聴したいのだけれど、なんと、アニメが原作を追いついてしまったらしい。原作の刊行ペースを見るに、最低でも2年は待たなければならなそうだ。

それかワンチャンで、アニメオリジナルの劇場版とかOVAを挟むかも。

一方で、ボンズの制作ラインが空いたのは朗報だと言えるかもしれない。『文スト』の空白期間の中で、何か新しいプロジェクトを進める可能性も無くはないだろう。

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