性格が悪い後輩ほど、タチが悪いものはない

劇場版ユーフォ
星島てる
アニメ好きの20代。ライターで生活費を稼ぎながら、アニメ聖地の旅に出ている者です。アニメ作品の視聴数は600作品以上。

今回は『劇場版 響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜(以下、劇場版ユーフォ)』について語っていく。

『響け!ユーフォニアム』は武田綾乃による小説(宝島社文庫)が原作。2015年春クールにTVアニメ1期、2016年にTVアニメ2期が放送された。

そして久美子2年生編ということで、まずは『リズと青い鳥』が2018年4月に公開。そして2019年4月に『劇場版ユーフォ』が公開された。

アニメ制作は京都アニメーションが担当している。

目次

『劇場版ユーフォ』の評価

※ネタバレ注意!

作画89点
世界観・設定85点
ストーリー83点
演出83点
キャラ88点
音楽86点
※個人的な評価です

作画

作画は相変わらずの京アニクオリティ。TVアニメが放送されたのが2015年で、そして『劇場版ユーフォ』が2019年。2018年に凄まじい作画力を見せた『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』に比べると、ちょっと見劣りする作画だったと言えるかもしれない。

ただし、やはりこだわりは感じる。金管楽器の反射の具合もしっかり仕上がっているし、何よりも劇場版に適した画面構成になっていた。具体的には、ヒキがもっとヒキになっていた。映画館で見たかったなぁ。

世界観・設定

久美子2年生編ということで、ちょっとクセのある新入生が入ってきたことで、また新しい世界観に書き換えられた感じではある。でも、複雑な心情描写は相変わらず強く、普通に面白かった。

ストーリー

『劇場版ユーフォ』の最大の問題点はストーリー。もちろん、普通にめちゃくちゃ良かった。けれども、やっぱり尺が足りていないので、TVアニメと比べてしまうと、ちょっと物足りなかった。

演出

『劇場版ユーフォ』で新しく登場した演出として、スマートフォン型のアスペクト比が挙げられる。これは、大画面の映画館だと、より印象に残る演出だと言えるだろう。

一方で、やはりストーリーの尺が足りていない分、クライマックスが弱かった。というか、はたしてどこがクライマックスなのかわからなかった。多分、1年生の久石奏のところがクライマックスなのだろうけど、やはりTVアニメに比べると演出が弱かったのではないかと感じる。

キャラ

新1年生が曲者揃い。特に久石奏は中々強烈だ。ある意味、ユーフォニアム奏者っぽいかもしれないキャラだった。

少し残念なのは、3年生が深掘りされなかった点。多分、3年生は『リズと青い鳥』でやり切ったことになっていると思うけれど、それでも夏紀と優子のやり取りはもっと見たかったなぁと思う。

音楽

冒頭の新入生歓迎で『これが私の生きる道』が演奏されていて、とても驚いた。今の”いい感じ”の北宇治高校吹奏楽部を端的に表した素晴らしいチョイスだと思う。2期で全国大会が決まった後(OPがモノクロからカラーになる)に『君は天然色』を挿入するなど、かなり意味ありげのチョイスだ。

『劇場版ユーフォ』の感想

※ネタバレ注意!

もっと尺があれば……

『劇場版ユーフォ』は素晴らしい出来だと思うが、やはりTVアニメに比べると……という感じである。

それもそうで、久美子1年生編はTVアニメ2クール分でやっているのに対し、今回の久美子2年生編は実質的に映画2本分でしかやれていない。しかも片方の『リズと青い鳥』は、もはや完全にスピンオフなので、実質的には映画1本で2年生編を全てやっていることになる。

ちなみに原作小説だと、1年生編は小説3巻分で、2年生編は小説2巻分でやっているらしい。これを考えても、2年生編を描くのに最低でもTVアニメ1クール分は欲しかった。

特に、やはり3年生が深掘りされなかったのはちょっと残念だ。みぞれと希美は『リズと青い鳥』で十分すぎるくらいに深掘りされたけれど、僕は、人気キャラである夏紀と優子のやり取りをもっと見たかった。原作小説ではちゃんと描かれているらしいので、やっぱり「なぜ映画1本でやることにしたのか?」という疑問が残ってしまう。

『リズと青い鳥』のインタビュー記事でも「石原さんが『波乱の第二楽章』で映画を1本作る、というお話からスタートしていたので、そもそも2本というプランはなかったんです」ということになっている。

考えられる理由としては、純粋にリソース不足という点が挙げられる。たしかに『ユーフォ』は非常に人気のあるシリーズだが、当時の京アニ(火災事件前)は『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』『Free!』『ツルネ』『小林さんちのメイドラゴン』などの制作ラインがあった。特に、京アニがIPを持っている『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』と『Free!』は、おそらく『ユーフォ』よりも優先度が高かっただろう。

これを考えると、2年生編が映画1本で終わるのは、まあしょうがないかもしれない。『リズと青い鳥』という傑作が生まれたので僕は満足しているし、3年生のやりとりが見たいのであれば、原作小説を読めばいいだけだろう。そして何よりも、3年生編はTVアニメでやることが決まっているので、なんなら最高である。

『響け!ユーフォニアム』の原点回帰

TVアニメ1期のメインヒロインは高坂麗奈、2期のメインヒロインは田中あすか先輩。それでいくと『劇場版ユーフォ』のメインヒロインは久石奏ということになるだろう。こいつが、また癖が強いのである。

一見すると真面目そうに見える奏だが、じっさいは中々タチが悪い。ぶっちゃけ「性格が良い」とは言い難い性格の持ち主だと思う。かなり捻くれている。

そしてなんと、オーディションで手を抜くという問題行為をやってしまった。これには思わず夏紀もガチギレ。思えば、ここまでガチギレする夏紀は、アニメでは初めてかもしれない。

しかし実は、奏も久美子と同じようなトラウマを抱えていたのだ。その中で「久美子と夏紀が絶対に奏を守る」を言われた時の奏は、これまでにないほどの安堵に包まれたことだろう。

それもこれも、やはり奏がユーフォニアムに真摯に打ち込み続けたからだと言える。そもそも『響け!ユーフォニアム』という作品は、ユーフォニアム奏者がフォーカスされた作品だ。ユーフォニアムは、他の楽器に比べるとやはり地味。だからこそ、ユーフォニアム奏者というのは、本当に心の底からユーフォニアムが好きである可能性が高い。

それは奏も例外ではない。そして久美子は、そこに気づくことができていた。やはり『響け!ユーフォニアム』の原点は、ここにあると感じる。

さいごに

ひとまず『ユーフォ』の鑑賞は、これで終わり。次回作の『アンサンブルコンテスト』を心待ちにしたい。→公開されました!

そして、とりあえず原作小説を読むことが決定した。僕は生粋のアニメ派なので、原作にまで手を出すのは本当にレアケース。とにかく「この複雑な人間関係を描く原作小説を読んでみたい!」というのが最大の理由だ。

……当分は『ユーフォ』にハマっていきそうである。

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