【無彩限のファントム・ワールド感想】めちゃ面白いマイナー作品

無彩限のファントム・ワールド

今回は『無彩限のファントム・ワールド』について語っていく。

『無彩限ファントム・ワールド』はKAエスマ文庫で刊行されていた小説が原作だ。そして2016年冬クールにTVアニメ1期が放送される。

アニメ制作は京都アニメーションが担当した。

目次

『無彩限のファントム・ワールド』の評価

※ネタバレ注意!

作画88点
世界観・設定80点
ストーリー85点
演出84点
キャラ83点
音楽78点
※個人的な評価です

作画

京アニの作画の良さは説明不要な気もするが、『無彩限のファントム・ワールド』に関しては、かなりエロい描写が印象的だった。基本的に京アニは、このようなエロを感じさせるシーンを直接的に描くことが少ないからだ。第1話のリンボーダンスの胸揺れは思わず笑ってしまった。

世界観・設定

これまで妖怪や幽霊と思われてきた不可視な生命体・ファントムが目に見えるという世界観。量子力学が設定にふんだんに盛り込まれている。また、ファントムに対抗できる能力を少年少女が有するようにもなっている。

これらの世界観の下りは『とある科学の超電磁砲』の能力者の考え方に近い。頭の中で思い描いた能力を現実世界に羽いさせるAIM拡散力場みたいな感じ。

ストーリー

基本的に1話完結型のエピソードで、非常にコミカルで見ていて楽しかった。原作小説は『境界の彼方』みたいにシリアスっぽいけど、そういった要素は可能な限り排除されているのがよくわかる。個人的には、やっぱり『無彩限のファントム・ワールド』みたいにコミカルで、たまに感動エピソードを挿入してくるぐらいがちょうどいい。

演出

演出のクオリティは相変わらず非常に高い。京アニにはコミカルシーンのノウハウが凝縮されていて、絶妙な間も巧みに作り出せている。

また、『無彩限のファントム・ワールド』では、時々、意欲的な演出も見られた。第4話『構造家族』の童話風の描写や、第7話『シュレディンガーの猫屋敷』の視覚的な演出はとても印象に残った。第11話『ちびっ子春彦くん』に関しては、なんだか『AIR』を想起させるものだった。

キャラ

主人公の一条晴彦は、典型的な主人公という感じがするけれど、非常によく作られている。一応『無彩限のファントム・ワールド』はハーレム系の作品に位置すると思うが、主人公にいらつくことがほとんどない。なんだかんだですごい能力を持っていたわけだけど、無駄に主人公最強してない感じも好感が持てる。

メインヒロインの川神舞はとにかくエロい。エロすぎる。和泉玲奈も中々。水無瀬小糸はかなりツンの強いツンデレという感じ。また、ファントムのルルがいるおかげで、恋愛要素よりもコメディ要素の方が強く感じられる。

そして何といっても熊枕久瑠美がヤバい。久野美咲ヤバい。

音楽

「男性ファンに媚びる」がテーマになっているらしい『無彩限のファントム・ワールド』だが、OPは男性シンガーのSCREEN Modeが担当。OPの『SCREEN Mode』は非常にカッコいい楽曲なのだが、そのカッコいい楽曲に音ハメで可愛らしい映像(熊枕久瑠美)を差し込むのがすごい。

EDは田所あずさの『純真Always』で、2010年代以降の京アニって感じの無難な楽曲。でも、こちらも音ハメで映像を差し込んできていて、ここの中毒性が素晴らしい。

劇伴は全体的に電子音楽の要素が強く、個人的にかなり好き。

『無彩限のファントム・ワールド』の感想

※ネタバレ注意!

めちゃおもしろいけどビジネス的には……

多分、京アニ作品の中でも『無彩限のファントム・ワールド』はかなりマイナーな作品だ。『ムントシリーズ』や『甘城ブリリアントパーク』と同等またはそれ以下の知名度だと思う。それか「知ってはいるけど見てはない」という人もかなり多そうだ。

まず大前提として『無彩限のファントム・ワールド』はめちゃくちゃ面白い作品だったし、クオリティも非常に高かった。これは”個人的に”といった曖昧な表現ではなく、普通に、そこら辺のアニメと”比較”しても、明らかに面白い。京アニにしては珍しく、エロスをふんだんに盛り込んだ作品になっていて、男性の性欲を適度に煽っているのも、それはそれで良い。

『無彩限のファントム・ワールド』は明らかに面白かった。個人的には、それなりの人気がある『境界の彼方』よりも面白かった(悲しい物語よりもコミカルな方が好きだから)。

でも『無彩限のファントム・ワールド』はビジネス的にあまり上手くいかなかった印象を受ける。KAエスマ文庫作品は基本的に続編を制作するのだが、その中で『無彩限のファントム・ワールド』は唯一、続編が制作されなかった作品である。もちろん、放送前の段階から続編を制作しない意向を固めていたのかもしれない。が、これは明らかに、ビジネス的に旨みがなさそうだから損切りしたという見方でいいと思う。
ネット上で公開されている円盤売り上げは、1巻あたり約2,000枚。配信やグッズを考慮しても、ちょっと微妙だ。京アニであれば、他のKAエスマ文庫作品をドロップした方が、まだ期待値は高いと言える。

では、なぜビジネス的に上手くいかなったのだろうか。成功の理由を探るのは難しいが、失敗の理由を探るのは比較的簡単である。

まず『無彩限のファントム・ワールド』は、中毒性のある要素が他の京アニ作品に比べて少ない。『涼宮ハルヒの憂鬱』や『けいおん!』は説明不要。『氷菓』だったら”えるたそ”の存在は大きかったし、『中二病でも恋がしたい!』もかなり強烈な作品だった。『Free!』は当時の時点で(というか現時点でも)、あれだけの肉体美を高クオリティの作画で表現した作品は存在しなかった。『境界の彼方』も、あの悲観的な世界観や感傷に浸れる演出から中毒性を感じる。
一方の『無彩限のファントム・ワールド』は、たしかに中毒性のある要素はあるけれど、他の京アニ作品に比べると、かなり弱かったと感じる。キャラも悪くはないけど、”中毒性のあるキャラ”だったかと言われると、Yesと断言できない。

また、ターゲットもよくわからなかった。他の作品に比べてエロティシズムを強めているのはわかるが、かといって男性ファンを全力で囲い込もうとしている感じもしない。もし本当に男性ファンを囲い込むのであれば、少なくともOPは女性アーティストを起用した方がいい。SCREEN modeは、かなり女性ファン向けのアーティストだ。
世界観は中々いいところをついていたけれど、SFファンをターゲティングしている感じも見受けられなかった。様々な要素を絶妙にミックスさせている作品ではあったけれど、そのために、ターゲティングが曖昧になってしまった感じは否めない。京アニ制作だから何とかなったというのが実態ではないだろうか。

一方で、そもそもビジネス的な成功を収める気が無かったという可能性もある。『無彩限のファントム・ワールド』が放送された2016年というのは、KAエスマ文庫作品の実験期間である見方もできる。一体どのような作品が売れるのか。また、どれくらいまで内容を攻めていいのか。様々な課題を探るフェーズであった可能性も十分考えられるだろう。

目に見えないものを形にできるファントム

『無彩限のファントム・ワールド』におけるファントムは、様々な理由で出現する。真面目な理由から思わず笑ってしまう理由(猫におしっこをかけられたり)まで、本当に様々だ。だが特に、やはり人間の気持ちから生まれるファントムが最も印象に残る。

例えば第4話『構造家族』。和泉玲奈の「温かい家族への憧れ」が形になったエピソードだ。

例えば第6話『久瑠美とぬいぐるみ王国』。熊枕久瑠美の逃避的な世界が具現化したエピソードだ。

例えばルル。ルルは一条春彦の「誰かと一緒にいたい」という気持ちが具現化したことによって誕生したファントムだ。

憧れ、不安、悲しみ、喜び。人間には様々な感情があるけれど、それを具現化できる唯一の方法がファントムであり、それが『無彩限のファントム・ワールド』という作品の根幹となっている。

ここまででピンときた人がいるかもしれないが、これは京アニの原点的作品である『ムントシリーズ』が伝えたかったことだ。目に見えないものを信じたいから、人々は目に見えないものを形にしたい。このメッセージが京都アニメーションの根幹であり、まさに京アニイズムといったところではないだろうか。”愛している”という目に見えない感情をどうにかして”手紙”という形にしようとしたのが『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』なのだとしたら、その役割をファントムが担っているのが『無彩限のファントム・ワールド』ということになるだろう。

特に一条晴彦の能力が全てを物語っている。彼は、スケッチブックを使ってファントムを封印・召喚する能力を持っているが、これはつまり、彼が頭の中で描いたものを全て形にできるということだ。そのうえ、晴彦はとても本が好きで、「残念知識」と呼ばれるぐらいに博識なのだけれど、これが能力に生かされている。「なんどここをもっと深掘りしないんだろう」と思ってしまうぐらい素晴らしい設定だった。

それにしても、エロい!

ここまで真面目な感想だったけれど、やっぱり『無彩限のファントム・ワールド』はエロい。特に第1話『ファントムの時代』のリンボーダンスにおける川神舞の乳揺れには強い感動を覚えた。あれは新感覚だった。本作の最大の見せ場だった。京アニがエロに本気を出したらとんでもないことになると思わされた。万が一、京アニの経営が危うくなっても「最終兵器としてエロを出せば何とかなる」というTIPSを得られたのが、『無彩限のファントム・ワールド』の数少ない収穫だろう。

また、第何話か忘れたけど、和泉玲奈が一条晴彦の指を咥えて、そこから糸を引くシーンもヤバい。あれはマジでヤバすぎる。とてもじゃないが京アニらしくない。笑 けど、最高だった!

さいごに

『無彩限のファントム・ワールド』はまさに隠れた名作だが、内容的にめちゃくちゃ面白いし、なんだかんだで大衆向けなので、全然人に勧められる作品だと思った。

続編を制作することはないと思うけど、もし万が一続編が決まったら……。そのときは絶対に見る。

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