【キノの旅第1作感想】客観的な姿勢を貫くキノ

キノの旅第1作

今回は『キノの旅 -the Beautiful World-(以下、キノの旅第1作)』について語っていく。

『キノの旅』は時雨沢恵一のライトノベル(電撃文庫)が原作で、2020年6月時点でのシリーズ累計発行部数は820万部を突破している。

そして2003年春クールで『キノの旅第1作』がアニメ化される。アニメ制作はA.C.G.Tが担当している。

目次

『キノの旅第1作』の評価

※ネタバレ注意!

作画70点
世界観・設定・企画80点
ストーリー80点
演出79点
キャラ78点
音楽76点
※個人的な評価です

作画

2003年制作ということもあり、流石に色褪せてる感は否めない。キャラクターの動きがめちゃくちゃに良いというわけではなかった。

一方で、白飛び・黒つぶれさせていたり、アナログテレビ風のフィルターがかけられていたりしていて、それが一周回って味を生み出している。多分、これは意図的なものだろう。

世界観・設定・企画

『キノの旅』の最大の魅力は、キノが訪れる特徴的な国々だ。それぞれの国に風刺的な設定が組み込まれていて、そこに作者のメッセージ性を感じる。そして、この特徴的な国々を幻想的に描くための工夫が、しっかり施されていた。それも、可能な限り低予算で。

2006年に『涼宮ハルヒの憂鬱』が登場するまで、ライトノベルのアニメ化企画でお金を集めるのは非常に難しかったと思う。その中で『キノの旅』は、相当に上手く作品を作れたのではないかと思う。

ストーリー

原作小説と同様に、基本的には連続短編の1話完結。だが、キノのバックグラウンドなどが少しずつ明らかになっているので、そういう意味では一応、ストーリーは少しずつ進んでいる。

起承転結がしっかりしていることに加え、一見すると単純なように見えて、意外に先の展開が読めないのがおもしろい。全エピソードがおもしろかったけれど、個人的には『本の国』が印象的だったかなぁ。

演出

『キノの旅』は、あえて白飛び・黒つぶしさせたり、逆光を用いたり、ネガティブな印象を与えるSE・劇伴を挿入したりと、幻想的な演出が多かった。これにより『キノの旅』特有の”美しくもあり残酷でもある世界”を演出できていることに加えて、低予算での制作を実現しているように思う。実際、僕は『キノの旅第1作』の演出の虜になった。

一般的な映像作品では御法度な演出ばかりだったけれど、それでも『キノの旅』はアニメーション作品として十分に成立していた。

キャラ

メインキャラであるキノとエルメスは、どちらも声優経験がほとんどない俳優を起用。素人目で見ても演技があまり上手くないのがわかる。でも、それが一周回って良い味を出していて、むしろ「この声じゃないとキノじゃない!」と思うまでになった。

音楽

OPは下川みくにの『all the way』で、下川みくにらしい爽やかなナンバーに仕上がっている。アコースティックギターの音が印象的で、ドライブに流したくなる。

ED『the Beautiful World』はキノ役の前田愛が歌唱を担当。民謡的な音楽になっている。

『キノの旅第1作』の評価

※ネタバレ注意!

中身があるようで、意外にそうでもない

『キノの旅第1作』は、ライトノベル作品ではあるものの、寓話的な要素が強い。そのため、メッセージ性や風刺が感じられる作品に仕上がっている。なんだかんだで、日本の深夜アニメ作品で、風刺色の強い作品はそこまで多くない。ということで『キノの旅第1作』は、現代でも十分に個性的なポジションにつけているように思う。

さて、その肝心のメッセージ性なのだが、僕は個人的に「意外にそうでもないかも……」という印象を抱いた。『キノの旅第1作』が提示するメッセージは、たしかに他の作品にはない視点を持っているけれど、視聴者の人生を変えるようなエネルギーは感じられない。つまるところ、作者の個性や強い意志が感じられないのだ。

でもこれは多分、あえてそうしているのだと思う。あくまでも、新しい視点とか気づきを提供するのが『キノの旅』の役目であって、視聴者の人生を変えようとまでは思っていないのだろう。

また、Wikipediaによると『キノの旅』は「読者層は小学生から高校生まで」とのこと。そう考えると、これぐらいの風刺がちょうどいいのかもしれない。実際、このバランス感覚が根強いファンを生み出しているわけだし。

旅人は、人々の日常を客観的に見ることができる

『キノの旅』の最大の魅力は、キノが訪れる国々の舞台設定だ。それぞれの国には、非常に興味深い(または奇妙な)ルールがあるが、その国に住む人々にとって、その奇妙なルールはごく普通のことだから、別になんとも思わない。一方で、旅人のキノは、その国々の不思議なルールを、客観的に見ることができる。

この性質上、キノは感情の起伏が少ないキャラに仕上がっている。押井守作品の大半でキャラの表情が死んでいるのと同じように、『キノの旅』でも、国々の舞台設定を強調するために、キノの感情が薄くなっている。キノ本人も「同じ国に滞在していいのは3日間まで」とルールを決めており、その国に未練を残さないように努めている。こうすることでキノは、より客観的な視点で、美しく残酷な世界を俯瞰することができている。

こうして客観的な視点を保てるようになると、人々にとって日常的なことでも、多くの気づきが得られるようになる。

僕自身、日本を旅していたことがあって、その中でも印象的だったのが八重山諸島のアイランドホッピングだ。石垣島を拠点に、西表島や与那国島にホッピングするのである。それで、西表島や与那国島に行ってみると、スーツを着ている人はまずいないことに気づく。電車もないので、通勤ラッシュなど存在しない。島の人々は、時間に追われることなく、自分の時間を生きている。与那国島に関しては、普通に道路上に馬がいる。これが南の島に住む人々の、ごく普通の日常なのだ。南の島の人々にとって、このようなゆっくりとした生活は当たり前なのだろうけど、都会育ちの旅人からすれば、それはそれなりのカルチャーショックになる。

逆に、南の島の人々が東京の通勤ラッシュとかコンクリートジャングルを見たら、頭がクラクラするだろう。このように、人々にとって当たり前だと思っている日常は、外から見ると実にとんでもないことだったりする。そして、この客観的な視点を常にキープできるのが旅人の魅力であり、だからキノは旅をし続けるのだと思う。これについては、激しく共感できる。

さいごに

『キノの旅』は続編アニメがいくつか展開されているので、それも視聴していこうと思う。

また、原作ライトノベルも根強い人気を発揮していて、2024年現在も、少しずつではあるが新刊が刊行されている。ということで『キノの旅』に関しては、原作ライトノベルも読んでいこうと思う。

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