今回は『キノの旅 -the Beautiful World- the Animated Series(以下、キノの旅第2作)』について語っていく。
『キノの旅』は時雨沢恵一の原作ライトノベル(電撃文庫)が原作だ。2003年春クールにTVアニメ第1作が放送。それから14年後の2017年秋クールに、リメイク作品となるTVアニメ第2作が放送された。アニメ制作はLercheが担当している。
『キノの旅第2作』の感想
※ネタバレ注意!
作画 | 70点 |
世界観・設定・企画 | 70点 |
ストーリー | 70点 |
演出 | 70点 |
キャラ | 70点 |
音楽 | 75点 |
作画
2017年制作ということで、さすがに第1作よりは現代的だった。キャラクターデザインや背景が大きく変更されている。作画のクオリティー自体はそこまで悪くない。充分に視聴できるレベルだ。ただし、ちょっと無難すぎる感じはあった。
世界観・設定・企画
第1作に比べて皮肉要素は抑えられている。キノの表情も豊かに感じられる。企画全体として大衆向けにリメイクされている感じがある。
ストーリー
ストーリーの構成としては、『キノの旅』に欠かせないエピソードに加えて、メッセージ性が第1作と異なる気がする。何と言っても、あの「人は誰でも、空を飛ぶ鳥を見ると旅に出たくなるそうだ」のセリフがほとんど発せられなかったのだ!
シナリオに関しては、正直第一作の方がクオリティが高いと思う。第2作の方が駆け足に感じられた。尺の長さは同じなんだけどね。
演出
演出はとても無難。第1作のような幻想的な雰囲気は感じられない。全体的にはやや直接的だった。特に第11話の演出はホラー要素がたっぷりでとても怖かった。あれはあれでとてもシンプルだった。
キャラ
声優が大幅に変わったけれども、演技にはすぐ慣れた。普通に良かったと思う。一方で、キノの描き方が全然違った。第1作のキノの方が不気味で、第2作のキノの方が女の子らしかった。
音楽
第2作は全体的に爽やかな印象を受けた。OPもEDもやなぎなぎが担当だ。OPの『here and there』で、I’ve出身の中沢伴行が作曲・編曲を担当。打ち込みサウンドが心地いい。EDの『砂糖玉の月』は、作曲をやなぎなぎが担当。『キノの旅第2作』にピッタリな寓話的な楽曲に仕上がった。
『キノの旅第2作』の感想
※ネタバレ注意!
第1作の雰囲気の方が好き
アニメ作品を比較するというのは、多分あまりやっちゃいけないことだと思うんだけど、『キノの旅』の第1作と第2作を比較するだけだったら、特に問題ないだろう。
第1作と第2作では、約14年のスパンがあるので、さすがに仕上がりが違ってきている。率直に言えば、第1作の方がクセがあるのに比べて第2作の方が大衆的だった。
この14年の間で当然のことながら、原作ライトノベル更新されているので、採用されているエピソードも異なっている。キノが旅に出るきっかけになったエピソードは第2作でも採用されているが、それ以外が全然違う。個人的に、エピソードの選び方に関しては第2作の方が好きだ。一方で、キノの内面を深掘りするエピソードに関しては、第1作の方が好きである。
全体として第1作の方が、シナリオが挑戦的だった。まず前提として『キノの旅』は少々複雑な作品だ。直接的なセリフを用いる事が多くない。だから、シナリオを作るのが結構難しいと思う。それで第1作は、寓意を大いに含んだ刺激的なメッセージを散りばめることで、多くを語らずとも、作品として仕上げることに成功している。第2作は良くも悪くも、とりあえずセリフを映像化した感じだ。確かにストーリーはわかりやすいんだけど、一方でメッセージ性が不明瞭だった。特に「優しい国」の描き方が、第1作と第2作でまるで違う。尺の長さはほとんど同じなのに、これだけ仕上がりが違ってくるのはちょっと不思議だ。
ということで全体的には第1作の方が好きである。そして第2作が悪いというわけではないとも思う。第2作も十分に面白かった。予算もちゃんと投下されているし、その予算の中でうまくアニメを作れていたと思う。ただ純粋に、第1作のセンスがずば抜けていたのだ。あのアニメーションの作り方は、現代では絶対できない。それだけ第1作は挑戦的だったということだ。
個人的に印象に残ったエピソード
「コロシアム」や「優しい国」は、第1作でも描かれていた名作エピソードだし、この2つのエピソードに関しては第1作の方が上手に映像化していたと思う。
一方で第2作は、全体的にコミカルなエピソードが多い。その中で僕が印象に残ったのは「迷惑な国」だ。この「迷惑な国」を見ていて、まず僕が想起したのがUL(ウルトラライト)である。ULは登山スタイルの一つで、とにかく可能な限り持ち物を厳選・軽量化することで、自然と深く向き合おうとするカルチャーでもある。僕は日本国内を旅していたことがあるから、ウルトラライトの思想はよくわかる。荷物を少なくすればするほどフットワークが向上することに加え、自然にも優しい。具体的には、荷物が軽くなることで、地面(草)へのダメージを最小限にすることができる。それこそ迷惑な国のような、あからさまな足跡を残さずに済む。そういう意味で「迷惑な国」は、ULの真反対とも言える国家だと言える。
一方で、勝手に「領土」とか言って城壁を立てるのも、これまた確かに「迷惑な国」だと言える。結局はどっちもどっちなんだけど、まあどうせ迷惑をかけずに生きることなんて無理な訳だし、ちゃんと敬意を払いながらも、ガンガン迷惑をかけた方がいいのだと思う。
さいごに
『キノの旅』の世界観は、個人的にとても大好きなので、いつか原作ライトノベルにも手をつけようと思う。
『キノの旅』の原作ラノベは、現在も継続中なので、またまたメディアミックスプロジェクトが発展するかもしれない……。