今回は『宇宙パトロールルル子』について語っていく。
『宇宙パトロールルル子』はTRIGGER制作のアニメオリジナル作品で、2016年春クールに放送された。1話あたり10分のショートアニメになっている。
アニメ制作はTRIGGERが担当した。
『宇宙パトロールルル子』の評価
※ネタバレ注意!
作画 | 88点 |
世界観・設定・企画 | 85点 |
ストーリー | 83点 |
演出 | 88点 |
キャラ | 84点 |
音楽 | 82点 |
作画
現存するTV放送のショートアニメの中だったら、まず間違いなくトップレベルの作画だと思う。今石洋介らしいケレン味溢れる作画になっていて、好き嫌いもあると思うが、僕は超絶大好き。3DCGには絶対にできない「線」を用いた映像表現だった。また、作画班だけでなく、映像編集の技術もフルに活用されていた印象がある。これぞケレン味だ。
世界観・設定・企画
世界観は、まあめちゃくちゃぶっ飛んでる。これまでの今石洋介作品の中でも、かなりイカれてるだろう。でも、どこかメッセージ性も感じさせられるのが不思議だ。そしてとにかく熱い。
それに『宇宙パトロールルル子』のように映像表現に凝ったショートアニメ企画が実現したのもすごいと思う。
ストーリー
ストーリーはかなり駆け足だけど、映像がおもしろいから全然見ていられる。本来であれば30分枠のアニメでやるべきストーリーを10分弱でやってるから、それが一周回って滑稽に見える。
演出
大石洋介らしい演出なんだけど、ほかの大石洋介作品とは違って、もう完全に大石洋介の演出に振り切っているのがおもしろい。『天元突破グレンラガン』とか『キルラキル』は、多少は大石洋介色を落としていたように思う。でも『宇宙パトロールルル子』は、もう完全に好き勝手やってる感じがしておもしろい。
キャラ
ヒロインのルル子は『キルラキル』の満艦飾マコを彷彿とさせるけれど、ルル子は変形できちゃうので、動きがもっと人外的になっている。声優も中々に豪華で、なんだかんだで新谷真弓の声がグッとくる。
音楽
まず劇伴がめちゃくちゃカッコいい。劇伴を徹底的にカッコよくしても、映像が全然負けないから、なおさらパワーのある音楽を作れるんだと思う。
OP『CRYまっくすド平日』は青春パンクで『宇宙パトロールルル子』にベストマッチしている。映像もおもしろい。また、エピソードによってちょっとずつサウンドがアレンジされていたのも印象的。だから全然飽きない。
ED『Pipo Password』はエレクトロニカで、そう言えば『キルラキル』のEDもエレクトロニカだったなぁと思う。ルル子の初恋をイメージしたのだろう。
『宇宙パトロールルル子』の感想
※ネタバレ注意!
普通って何だ?
『宇宙パトロールルル子』のテーマは「普通」だと思う。
地球上で最も普通じゃない街・荻窪に住むルル子は、とにかく普通になりたがっていた。しかし第1話から、ルル子は宇宙パトロールになってしまい、とてもじゃないが普通じゃない生活を送ることになってしまう。
物語が進むにつれて、ルル子は色々な出来事に巻き込まれながら「普通」について考えていくようになる。そしてルル子が死んで、地獄に落とされてしまったとき「普通」という名の呪いから解放されることになる。
一般的に「普通」は客観的に見られることが多い。例えば「大学を卒業したら就職するのが普通」とか「30歳ぐらいに結婚しておくのが普通」みたいな感じだ。しかし、このような「客観的な普通」に縛られてしまうと、自分の人生が劇的に狭くなってしまう恐れがある。実際、ルル子がそうだった。普通に生きようとしていたルル子だったが、そもそも荻窪という街が普通じゃない価値観だし、周囲の登場人物も普通じゃかなったから、結果的にルル子は「客観的な普通」を手に入れることができないうえに、なんと死んでしまった。
でも一方のルル子も、僕から見れば全然普通じゃない。隕石で転校してきたノヴァくんのことを好きになってるのも普通じゃないし、宇宙パトロールになっても割とポジティブでいられるのも全然普通じゃない。というかそもそも『宇宙パトロールルル子』という作品自体が普通じゃない。
一方で「主観的な普通」であれば、たしかにルル子は普通だ。そもそも普通とは本来であれば「主観的な普通」なのではないか。日本人が抱く普通とアメリカ人が抱く普通が全く異なるのと同じで、普通とは、それぞれの人で異なる。
例えば僕が住む世界では”人が目の前で死ぬ”というのは全く普通じゃないんだけど、医療・看護業界、戦地、ヤクザの世界だったら”人が目の前で死ぬ”というのは、ありふれたものであるから、それは普通だ。
そう考えると、”普通”が極めてどうでもいいことに気づく。TRIGGERが作る作品はたしかに”普通”ではないが「3DCGにはできない表現が手描きアニメの魅力」という視点に立場、TRIGGERが作る映像表現は極めて”普通”だと言える。
その人にとって普通なんだったら、それでいいじゃないか!
というのが『宇宙パトロールルル子』のメッセージの1つだと思う。
何度だって立ち上がれる初恋パワー!
『宇宙パトロールルル子』のもう1つのテーマは「初恋」だ。
『宇宙パトロールルル子』は言ってしまえば「普通の女子中学生が主人公のSFドタバタラブコメディ」と言ったところだろう。ルル子が宇宙パトロールに積極的だったのも、というかルル子が超絶ポジティブだったのも、全てはノヴァくんに対する初恋パワーがきっかけだったと言える。
しかし終盤になって、ラスボス枠のブラックホール星人が登場。ブラックホール星人は、ありとあらゆる高価なモノを奪いまくった末に、むしろ無価値なモノが欲しくなり「後先考えない無知な中学生の浅はかな初恋」が”宇宙でもっとも無価値である”とし、ルル子の中にあった「ときめきジュエル」を奪ってしまうのだ。
まあたしかに「中学生の初恋に価値はない」という言い分はわからなくはない。中学生の恋愛が成就する可能性は小さいし、仮に成就したところで、それが長く続く可能性は限りなく低い。むしろ、傷つくだけ。だからブラックホール星人の言うように「浅はかな初恋」は無価値なのかもしれない。
しかし、これで終わらないのが『宇宙パトロールルル子』である。どうやら『宇宙パトロールルル子』の世界では、正義は絶対に無くならず、正義(というか強い信念)さえあれば、何度だって生き返れるらしい。ということでルル子は、初恋パワーを引っ提げて、再び登場。ブラックホール星人に何度もときめきジュエルを奪われても、それにあわせて何度もときめきジュエルを作り続けたのだ。そしてその想いはノヴァくんにも届き、2人の恋は成就する……。
結果的にノヴァくんは消えてしまったけれど、以上のエピソードを見て、ルル子の初恋エピソードが無価値だったとは思えない。たしかにルル子の初恋は、ノヴァくんがルル子を庇う形で最終的に成就しなかったが、この初恋のおかげでルル子は、”普通”という呪いから解放され、同時に「何度でも立ち上がる力」という最強の力を手に入れることができた。
このエピソードを見て、僕は『天元突破グレンラガン』のシモンの名言を思い出した。
穴を掘るなら天をつく。墓穴掘っても掘り抜けて、突き抜けたなら俺の勝ち!
『天元突破グレンラガン』より引用
何度失敗しようが、成功するまで立ち上がれば、それで勝ち。それは、恋愛でも全く同じなのだ。
さいごに
『宇宙パトロールルル子』はTRIGGERらしさが全開で、個人的にはかなり好きな作品だった。それと『キルラキル』や『リトルウィッチアカデミア』などのTRIGGER作品や、TRIGGERスタッフにゆかりのある作品のパロディ的な演出が持ちられているのも、コアなオタクを刺激することに成功したと思う。
もしかしたら『宇宙パトロールルル子』が『ヤマノススメ』に並ぶショートアニメの最高傑作かもな、と思った次第です。