『マケイン』感想:A-1 Picturesはヒットの法則を掴んだ?

負けヒロインが多すぎる!
星島てる
アニメ好きの20代。ライターで生活費を稼ぎながら、アニメ聖地の旅に出ている者です。アニメ作品の視聴数は600作品以上。

『負けヒロインが多すぎる!(マケイン)』を鑑賞した。

僕はガガガ文庫作品が好きなので、よく巻末の広告で『マケイン』の存在を認識してはいた。そして案の定、アニメ化されるわけだが、A-1 Picturesがアニメ制作を担当するのにはちょっと驚いた。そして想像の10倍くらい高いクオリティで制作され、見事に今期の話題を掻っ攫ってしまった。

目次

『マケイン』の評価

※ネタバレ注意!

作画90点
世界観・設定・企画88点
ストーリー88点
演出90点
キャラ90点
音楽85点
※個人的な評価です

作画

アニメ制作はA-1 Picturesが担当。僕のイメージでは、A-1 Picturesはいつも70点から80点をコンスタントに出してくるイメージだったが、今回の『マケイン』に関しては、めちゃくちゃクオリティが高い。キャラクターはよく動くのだけれど、それが不自然な印象を与えることがなかった。カメラワークも実写的なものが多く、全体的に作画カロリーが高め。ずっと飽きなかった。個人的には京アニの『氷菓』に近い雰囲気を感じた。

世界観・設定・企画

多分、ガガガ文庫で初めてアニプレックスが製作を担当している。『リコリコ』のキャラクター原案を務めたいみぎむるの繋がりもあったのか、おそらくはアニプレックス側からの提案だと思う。そして、これが見事にマッチした。実際、この盛り上がり方は『リコリコ』と同じ雰囲気を感じる。

ストーリー

おそらく今回の全12話で原作小説3巻分で、最終話だけアニメオリジナルエピソード。なので、アニメオリジナルで1話使っている分、相場より尺は若干短い。それでも、ストーリーに違和感はなかったし、結局はキャラクターや作画が勝負なのだと思う。

演出

実写的なカメラワークを用いながらも、漫画的な表現もある。演出と絵コンテのセンスを感じさせるもので、これはこれまでのA-1 Pictures作品にはなかったものだ。『リコリコ』もそうだったけど、A-1 Pictruresは”何か”を掴んだのか?

それとキャラクターの声の演技も抜群に良く、声質自体は比較的低い。これがJKのリアルな雰囲気を醸し出すことに成功している。

キャラ

『マケイン』は、とにかくキャラがいい。ビジュアルが最高だし、実写的な動きも漫画的な動きもできるオールラウンド型のキャラデザだ。声優の演技もいいが、これはどちらかと言えば、リアルなトーンに対して微調整した絵コンテ・演出・作画の尽力が大きいだろう。

音楽

OPは『つよがるガール!』で、これがちょっと前世代の音楽って感じなのがいい。EDはJ-POPの名曲のカバーになっていて、やっぱり八奈見の『LOVE2000』がめちゃくちゃエモかった。

『マケイン』の感想

※ネタバレ注意!

A-1 Picturesが”何か”を確立しつつある

今回の『マケイン』を見て確信した。A-1 Picturesが”何か”を確立しつつある。

これまで世間一般的にA-1 Picturesは「神アニメ制作会社」と言われることは多かった。でも多分、それなりにアニメを知っている人であれば、A-1 Picturesが強いのは作画ではなく、アニプレックスのプロモーションであり、実際の映像そのものは京アニやシャフトやufotableに遠く及ばないことを理解していたと思う。たしかにA-1は、全体的にクオリティは高いが、突き抜けるものはなかった。

しかし『リコリコ』と『マケイン』に関しては違う。技術力と演出のセンスによって裏付けされる”何か”があって、それがヒットを叩き出しているように思えるのだ。その要因はいくつかある。実写的な表現と漫画的な表現のミックス、いい塩梅の声優の演技、主題歌、絶妙にバランスの取れたストーリーなどだ。

僕が思うに、『マケイン』に関しては、どこか京アニらしさを感じた。実写的なカメラワークとカラーグレーディングに関しては『氷菓』に通ずるものを感じたし、声優の演技は『ユーフォ』っぽかった。そして実写的な表現と漫画的な表現のミックスは『けいおん!』を感じさせられる。

京アニが2000年代後半に『涼宮ハルヒの憂鬱』などで「萌えアニメの作画の在り方」を確立してから、動画工房を始め、さまざまなアニメスタジオが京アニのやり方を取り入れていった。そしてようやくA-1 Picturesが、京アニのやり方を自分たちのものにしてしまった感じがする。

今回の『マケイン』のヒットは『リコリコ』に続くものだと思う。ということは、このヒットは再現性のあるものであり、これから『マケイン』のような作品が続いていく可能性がある。

キャラクターのバランス感覚が絶妙

今回の『マケイン』のヒットの要因は、まず間違いなく「負けヒロイン」をフォーカスしている点にある。

やはりオタクというのは自分の劣等感をアニメにぶつけるもので、オタクはラブコメで疑似恋愛を楽しんでいるのだ。それで、たしかにラブコメは気持ちのいい疑似恋愛を僕たちに与えてくれるのだけど、終盤になるにつれて主人公とヒロインが付き合うようになり、作品が完結する頃には「あー、俺彼女いねーじゃん」っていう気分になる。

一方で『マケイン』の場合、ヒロインが失恋するところからスタートするので、どこか安心感がある。「あ、この子達は僕と同じだ」みたいな感じで、共感につながることもある。

それでいて肝心のキャラクターたちは、個性は爆発しているけれど、芯になる部分がまだブレブレで、個性と不安定さのバランス加減が絶妙なのである。だから、見ている側からしても悪い気分にならない。全体的に、気持ちいいのである。

また、『俺ガイル』や『弱キャラ友崎くん』がそうだけど、ガガガ文庫のラブコメ作品は自己啓発要素が結構大きい。一方で『マケイン』は、たしかに自己啓発要素はあるのだけど、それよりもコメディな雰囲気の方が印象に残るから、ナチュラルに作品を楽しむことができる。

八奈見杏菜なんかは、負けヒロインにふさわしい感じのだめっぽさがあるのだけど、それでも1人の人間として、色々と考えていて、そのバランス感覚が大変素晴らしい。これは映像も同じ。リアルを感じさせる実写的な動きと、バカっぽさ満点の漫画的な動き。このバランス感覚が、僕たちオタクを気持ちよくしてくれるのである。

さいごに

普通に売り上げとかを考えたら『マケイン』は続編をやると思う。だから、それを待ってもいいのだけど、原作小説を読むのもアリだ。

僕の友人の弟いわく、やはりアニメよりも原作小説の方がおもしろいらしい。時間があったら読んでみようかな……。

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