【パリピ孔明総集編感想】表現者におけるマーケティングと名義の重要性

パリピ孔明総集編

今回は『映画 パリピ孔明 Road to Summer Sonia(以下、パリピ孔明総集編)』について語っていく。

『パリピ孔明』は原作:四葉タト、漫画:小川亮による漫画が原作で、2022年春クールにTVアニメが放送された。

そして2024年3月に総集編が劇場公開される。アニメ制作はP.A.WORKSが担当した。

目次

『パリピ孔明総集編』の評価

※ネタバレ注意!

作画79点
世界観・設定・企画78点
ストーリー80点
演出76点
キャラ78点
音楽80点
※個人的な評価です

作画

TVアニメでは歌唱シーンで止め絵が多かったのに対し、今回は”総集編”ということで新規カットが追加。ライブシーンでもそれなりにちゃんと動くようになっている。「これをTVアニメでやってくれたらなぁ……」というのが正直なところで、今回のライブシーンも、昨今の高品質アニメに比べると普通な感じがする。

世界観・設定・企画

あらためて視聴してみると「売る」という至極単純なことが、音楽などの”表現の場”でどれだけ難しいかがわかる。要するに、EIKOや七海は”商品”で、諸葛孔明や唐沢が”マーケティング担当”だ。言ってみれば『パリピ孔明』という作品は、諸葛孔明流マーケティングがメインテーマだった。

今回は総集編版だったけれど、TVアニメ放送から1年半経っていることもあって、復習に最適だった。また、音楽アニメなので、劇場公開との相性も抜群。妥当な企画だと思う。

ストーリー

総集編版で、尺は約2時間だったけれど、ちゃんと編集できていたのではないかと思う。多分、初見の人でも全然楽しめる。

演出

ライブシーンの演出は、正直に言うと何とも言えない感じだ。『パリピ孔明』のTVアニメが放送されたあとに『ぼっち・ざ・ろっく!』が出てきていて、その影響で、ファンがライブシーンに求める水準が劇的に上がった気がする。それで『パリピ孔明総集編』のライブシーンは、その水準にギリギリ達していない感じだ。

やっぱりEDMとかクラブミュージックは、観客がみんなで踊るシーンが大事のように思えるけど、それを描こうとすると相当のカロリーが発生するのが悩ましい。「もっとリソースを投下した『パリピ孔明』が見たかった」というのが本音だ。

キャラ

英子とななみんがかわいいのと、おっさんキャラが全員個性的なので、それが良い意味で漫画的だった。ラノベ原作とは、また違うキャラクター性だ。

あと、TVアニメが放送されてから気づいたけど、AZALEAってClarisが元ネタだったりする?

音楽

「もう少し新曲とか出しても良かったのではないか」というのが本音だ。というか、avexの既存曲をガンガン出して欲しかった。avexってことは、TRFとか小室ファミリーの楽曲を出せるわけだから、TRFとか完全に『パリピ孔明』向けだと思うのだけれど……。

『パリピ孔明総集編』の感想

※ネタバレ注意!

表現者におけるマーケティングの重要性

2022年に放送されたTVアニメを視聴したときも、僕はブログで感想を書いていたわけだけれど、あれから1年半経過して、僕もそれなりに成長し、ビジネスにおける基本中の基本を理解できるようになった(一応、僕はフリーランスなので、色々とビジネスの勉強をしている)。

要するに、ビジネスとは3つの構成によって成り立っている。①商品、②マーケティング、③マネジメントだ。

アニメオタク界隈であれば「声優になりたい!」とか「作曲家になりたい!」とか「絵師になりたい!」とか言う人が続出している。それで、大抵の人は、声優の演技や、作曲技術や、画力を高めようとする。『パリピ孔明』におけるEIKOだ。

しかし、それだけでは売れないし、注目もされない。魅力的な商品を作っても、マーケティングやマネジメントがなければ、その商品が見込み客のところに届くことはない。

おそらく「声優になりたい!」とか「絵師になりたい!」と言い、それで挫折する人のほとんどは、自分自身の表現力を高めることには躍起になるけれど、営業やマネジメントについては何も勉強しない。だから、いつまで経っても仕事が手に入れない。

でも、自由業の僕からすれば、これはおかしいと思う。グローバルに視野を広げれば日本語を話せる声優やナレーターはめちゃくちゃに需要があるし、同じく、日本のアニメ的なイラストを求める人も相当にいるからだ。ちょっとした営業力(つまりマーケティング)があれば、それなりに仕事が手に入るはずで、それを継続させるだけのお金と時間の管理(つまりマネジメント)ができれば、いつか必ず成功する。

『パリピ孔明』という作品において重要なのは、マーケティングとマネジメントである。もう既にEIKOという素晴らしい商品は存在しているのだから、あとはそれをどうやって見込み客に届けるかを諸葛孔明が担当する。同じく、AZALEAという商品を多くの人に届ける唐沢も、マーケティング側の人間だ。

表現者におけるマーケティングの重要性が『パリピ孔明総集編』でよくわかる。あとは『パリピ孔明』を見て、声優・絵師志望の人が、マーケティングの重要性に気づけるかどうか、ということなのだろう……。

久遠七海の正しい立ち回り方

『パリピ孔明』のTVアニメが放送された後、僕はブログで以下のような感想を綴った。

『パリピ孔明』では、音楽に対する捉え方がテーマとなっている。「音楽で生きていくためには、自分の音楽を捨てて、売れる音楽を徹底するべきなのか?」みたいな葛藤が語られている。

これは音楽に限らず、クリエイターの方々が常に抱えている葛藤だろう。アニメーターだって作家だってイラストレーターだって、自分の作りたいものを作るべきなのか、売れるものを作るべきなのかの葛藤に、いつも悩まされている。

『てるくんブログ』より引用

んで、この葛藤に対して、僕は明確な答えを出せずにいた。

一応『パリピ孔明』という作品の終わり方を見るに「自分のやりたい音楽をやろうよ!」というメッセージ性があるのだけれど、あのストーリーはやっぱりご都合主義で、現実を見ると”売れる音楽”に力を入れた方がいいように思っていた。

でも、僕はTVアニメが放送されてから1年半でそれなりに成長し、この葛藤に対する明確なアンサーを出すことができた。それは「”自分のやりたい音楽”と”売れる音楽”のどちらもやる!」ということだ。

これまでは、自分のやりたい音楽をやりながら、売れる音楽も作るのは、現実的に難しかった。しかし現在はテクノロジーが発展し、PCだけで作曲できるようになり、ミックスやレコーディングのためにわざわざスタジオに赴く必要も無くなってきている。だから、自分のやりたい音楽をやりながら、売れる音楽もやることが可能になってきた。

その際は、名義を変えることが非常に重要になる。実際、音楽業界では、自分がやっている音楽のジャンルで名義を分けるケースがかなり見受けられる。

それこそアニソンシーンで言えば、大石昌良がいるではないか。大石昌良は、音楽のジャンルに合わせて以下の4つの名義で活動している。

  • オーイシマサヨシ:みなさんご存知アニソン用の名義、黒縁メガネが特徴(通称:おしゃべりクソメガネ)
  • 大石昌良:アコースティック1本での表現に追求するシンガーソングライター
  • Sound Schedule:大石昌良がギターボーカルを務めるバンド
  • OxT:Tom-H@ckとのデジタルロックユニット

誤解を恐れずとても簡単に分けてしまうと「オーイシマサヨシ」と「OxT」が”売れる音楽”用の名義で「大石昌良」と「Sound Schedule」が”やりたい音楽”用の名義だ。

このように名義を分ければ、”売れる音楽”と”やりたい音楽”を干渉させずに音楽活動を実施することができる。超多忙アーティストである大石昌良が4つの名義を使い分けているのだから、まだ何も成していない音楽クリエイターだったら、2つの名義でも十分活躍できるはずである。

ということで、久遠七海だ。久遠七海の正しい立ち回りは、”売れる音楽”として唐沢の言う通りに仮面をつけてAZALEAをやりながら、”やりたい音楽”としては、ロックバンドとしてのアザリア(仮名)や、ベース弾き語りの久遠七海として、同時進行で活動していけばいいのである。そうすれば、収入源を確保しながらも、やりたい音楽ができるようになる。

また、それぞれの名義によるシナジー効果が生まれることがある。例えば大石昌良で言えば、”やりたい音楽”としてのアコースティックギターの表現力があったからこそ、オーイシマサヨシ名義の名曲である『君じゃなきゃダメみたい』が誕生したとも言える。

よくよく考えてみれば、EIKOも、クラブでバイトしながら歌手活動をしていたから、EDMの強い低音にも耐えられるパワフルな歌唱力を手に入れることができたとも解釈できる。

まあつまるところ「”売れる音楽”も”やりたい音楽”も全部やれ!」というのが、あらゆるクリエイターにおける正しい立ち回り方なのだと思うし、それこそAZALEAのように匿名性の高い名義であれば、もっとおもしろい立ち回り方ができそうである。

さいごに

多分、続編が制作されるんじゃないかなぁと僕は考えている。そして同時に、avexとP.A.WORKSがもっと本気を出せば、凄まじい作品になったのではないかなぁとも思う。

もっと強烈なカバーソングやイベントを実施してほしいのが正直なところだ。とりあえず続報に期待したいと思う。

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