今回は『数分間のエールを』について語っていく。
『数分間のエールを』は、新進気鋭の映像制作チーム『Hurray!』と数多くのアニメ作品を手がけた脚本家・花田十輝によるアニメ映画だ。
アニメ制作は、Hurray!が担当している。
『数分間のエールを』の評価
※ネタバレ注意!
作画 | 88点 |
世界観・設定・企画 | 80点 |
ストーリー | 80点 |
演出 | 80点 |
キャラ | 80点 |
音楽 | 85点 |
作画
3DCG制作ソフトであるBlenderを駆使しながら、要所でイラストも使ってる感じかな?
本作を視聴して確信したけど、品質に関しては既に3DCGの方が手描きアニメより上をいっていると思う。『数分間のエールを』程度の規模の作品で、これほど完成された映像表現ができるなら、おそらくコストパフォーマンスもいい。
実際に本作は、全体的に高いレベルで画が構築されていて、抜群に雰囲気がいい。手描きアニメでやったら2倍ぐらいの予算が必要だろう。
世界観・設定・企画
コントラストは皆無で、全体的に彩度を薄め、それでいて爽やかな彩色を施している。3DCGなので、全体的に統一感もある。素晴らしい映像体験だった。
僕が利用した映画館では、客の入りも上々で、規模の割にはそれなりの売り上げになりそうな感じがある。
ストーリー
クリエイター志望の若者がターゲットということで、作品作りの楽しさと辛さを60分の中に凝縮させたストーリーだった。起承転結もしっかりしていて、メッセージ性もよかった。適度にリアリティがあるのも、バランス感覚がいい。多分、本作みたいな気持ちを味わったクリエイター志望の人はいっぱいいると思う。
演出
3DCGだからこそできる演出はもちろんのこと、ギャグシーンの演出がおもしろかった。あれはBlender上でやっているのだろう。『ガールズバンドクライ』を含めて、最近の3DCGアニメは「あえて2Dを入れる」というのが流行ってるらしい。
キャラ
なんで客がこんなにいるんだろうと思ったら、主人公は花江夏樹で、その友人が内田雄馬だった。多分、あの場にいた女性の半分以上は声優目当てだろう。
だが、実際に役は完全にハマっていて、ちゃんと感情移入できた。
音楽
挿入歌の『未明』がめちゃくちゃカッコいい。ライブシーンの迫力は『ぼっち・ざ・ろっく!』を超えてたかもって感じ。なんだかんだで、この『未明』は作中で4回ぐらい使われてたから、だから印象に残っているのかもしれない。この戦術はアリだな。
『数分間のエールを』の感想
※ネタバレ注意!
Blenderが手描きアニメを上回ってる
最近視聴した『クラユカバ』もそうなのだけど、もう既にセルルック3DCGは、品質で手描きアニメを上回ってると思う。そこら辺の手描きアニメより、セルルック3DCGアニメの方が、全体的な映像表現が優れていて、かつ個性も出しやすい。しかも、人手もそんなに必要ない。
本作に5億もかけてないと思うから、多分、一般的なアニメ映画と同じくらいの予算でやっていると思う。それでこの品質を出せるなら、これは完全に手描きアニメを上回っている。しかも本作は、基本料無料のBlenderによる制作だ。
Blenderでセルルック3DCGを作ろうと思ったら、本作のように全体的にテクスチャーを統一した方が完成度が高まるのだと思う。これは『クラユカバ』でも同じだった。一方でセルルック3DCGは、どうしてもアートアニメーション寄りになってしまい、原作通りにキャラクターを描くことが難しくなるデメリットがある。実際、この手の作品のほとんどはアニメオリジナルだ。
でも、これも時間の問題だろう。コンピューターの性能が指数関数的に進化し、それに伴いアプリケーションもアップデートを繰り返し、動きやテクスチャーのプラグインが充実するようになれば、誰でも本作と同じくらいの3DCGアニメ作品を作れる可能性がある。
Blenderの進化が楽しみになってきた。
諦めるということについて
近年、YOASOBIやVaundyを始め、若者が音楽シーンを席巻するようになっている。確かにこういった人たちを見ると「私には才能がないのか……」ということになって、あきらめる人が出てくるのだろう。
でも、これは実に無駄なことだと思う。なぜ諦めるのだろうか。別に、勉強しながらや仕事しながらでも、自分の作品作りに没頭する事はできるはずだ。なぜ進学や就職のタイミングでみんな夢を諦めるんだろう。
それは至極単純で、人々の仕事論が時代遅れだからだ。もう兼業が当たり前の時代なのに、まだ「〇〇だけで食っていく」とか考えようとする。これが全ての問題だと思う。
人生は、無限に続く敗者復活戦である。諦めない限り、いつまでもラウンドを重ねることができる。これを僕は『天元突破グレンラガン』から学んだ。正直に言えば、本作にはそういったメッセージ性を込めてほしかった。せっかく素晴らしい品質のアニメーション作品が生まれ、ストーリーもエモーショナルなのに、肝心のメッセージ性やコンテクストが、J-POPやメロドラマと同レベルなのである。
脚本の基本は挫折や壁を描くことなのかもしれないが、世に出ている成功者の多くは、失敗を失敗とは思わないクレイジーさにあるわけで、それを真摯に描いた作品を、僕は見てみたいと思う。
さいごに
Blenderでこれほどのセルルック3DCGを作れるのであれば、もう世の中のアニメの大半はBlenderでいいんじゃないかなと思う。Blenderであれば、より少ない人数での制作が可能だ。それに、コンピュータの進化に伴い、品質も向上していく。
現状として、TVアニメにBlender制作のアニメが降りてくるのは数年後ぐらいだろうから、それまでは劇場アニメを見まくって、Blenderの映像表現を楽しんでいきたい。