今回は『ゆるゆり なちゅやちゅみ!』について語っていく。
『ゆるゆり』はなもりによる漫画(コミック百合姫)が原作で、2011年夏クールにTVアニメ1期、2012年夏クールにTVアニメ2期が放送された。
そして2014年11月にOVA『ゆるゆり なちゅやちゅみ!』が上映され、新規カットが追加されたディレクターズ・カット版が2015年に発売される。
アニメ制作会社は、前作の動画工房から代わってTYOアニメーションズが担当している。
『ゆるゆり なちゅやちゅみ!』の評価
※ネタバレ注意!
作画 | 78点 |
世界観・設定 | 75点 |
ストーリー | 70点 |
演出 | 69点 |
キャラ | 79点 |
音楽 | 75点 |
作画
アニメ制作会社が動画工房からTYOアニメーションズに変更され、メインスタッフも総入れ替えになったことから、作画の印象はかなり変わった。具体的には、キャラクターデザインがより綺麗めになった。そして作画の動きは、いい意味で言えばかなり落ち着くようになり、悪い意味で言うと極めて”普通”になってしまった。動画工房のときは、映像だけでもある程度楽しむことができたが『ゆるゆり なちゅやちゅみ!』で”映像を楽しむ”という概念はない。
世界観・設定
全体的に、ギャグ要素がかなり削ぎ落とされ、百合や日常系の要素にフォーカスしている印象がある。色々と意図があるだろうが、明らかにブラック要素を削ぎ落としているのはわかる。
また、キャラクターデザインが綺麗めになったことに伴い、背景も以前より写実的になって、全体的に光沢を出すようになった。一方で、漫画らしさやデフォルメ感はかなり失われた。
ストーリー
ギャグ要素が削ぎ落とされたことに伴い、ストーリーもかなり落ち着いている。ギャグ要素も抑えめだ。その代わりに百合シーンが強調されているように思う。また、シナリオが薄くなってしまった感じも否めない。
演出
演出は、明らかにクオリティが落ちたように思う。ギャグに寄せるにせよ、日常系に寄せるにせよ、時間芸術が必要なのは言うまでもないが、『ゆるゆり なちゅやちゅみ!』からは時間芸術が失われていた。実際、声優のセリフのテンポ感に変化が見られず、ストーリーが淡々と展開されてしまった。これがもし、テンポ感にメリハリがあれば、ギャグと百合の強弱をもっとつけれたと思う。
キャラ
ブラックな要素が削ぎ落とされたことで、それぞれのキャラクターの”良い部分”だけが表面上に出た感じがする。「これが良いんだよ!」と言う人もいるだろうけれど、キャラ設定の作り込みという点では「なんだかなぁ」という感じである。
ちなみに、キャラデザは悪くないし、より大衆的になった感じがある。
音楽
OP『ゆるゆりんりんりんりんりん』とED『アフタースクールデイズ』は、楽曲自体はぼちぼちなのだけれど、映像の動きが微妙だった。
『ゆるゆり なちゅやちゅみ!』の感想
※ネタバレ注意!
好き嫌いあるだろうが、”質”は間違いなく落ちた
『ゆるゆり なちゅやちゅみ!』からアニメ制作会社が動画工房からTYOアニメーションズに変更されて、それに伴い作風が大きく変化した。変化して点はいくつかあるが、総じて言えば、動画工房版が”日常系百合アニメの皮をかぶったギャグアニメ”だったのに対して、TYOアニメーションズ版は”ド直球の日常系百合アニメ”という感じになっている。
これについては、好き嫌いがあるだろう。ブラックなギャグと勢いが好きだった人は動画工房版が好きなのだろうし、キャラクターのゆるい日常や百合展開が好きだった人はTYOアニメーションズ版が好きだと思う。
ただし、アニメーションの質に関して言えば、ほぼ間違いなく、動画工房版から低下したと断言できる。というのも今回の『ゆるゆり なちゅやちゅみ!』では、時間芸術による演出が失われていたからだ。
おそらく今回の『ゆるゆり なちゅやちゅみ!』では、動画工房版の反省など、色々な理由があって、ギャグ要素を削ぎ落とす企画意図があったのだと考えられる。それに伴い、キャラクターデザインや背景は光沢を持たせて少し写実的なものに変更し、音楽も落ち着きのあるスローテンポな楽曲が用いられた。そしてもちろんストーリーも落ち着きのあるものに変更されている。演出も、動画工房版のような過激なものではなく、かなりシンプルなものに変更された。個人的にこの変更はあまり好きじゃ無いのだけれど、冷静に客観的に見たときに「アニメーションの質の良し悪しを左右する変更ではない」というのはわかる。「百合要素やゆるい日常要素を追求していこう」という企画意図で制作されているためだ。
問題は、演出のクオリティが明らかに低下したことである。先ほども述べた通り、時間芸術が失われた。別にギャグ要素を削ぎ落として日常要素を強調するにしても、時間芸術をサボって良い理由にはならない。
それに加えて、これは僕の理解の中での話だが、時間芸術を取り入れたからといって、予算に大きく影響することはあまりないと思う。むしろ時間芸術を活用すれば、作画カロリーを落としながら効果的な演出を盛り込むことが可能なわけで、言ってしまえば、監督及び演出の腕がたしかで、かつ制作工程の上流から下流までシームレスにコミュニケーションが取れれば、予算をある程度維持したまま、演出のクオリティを高めることができるはずだ。実際、動画工房版の『ゆるゆり』でもそのような演出は見られたし『のんのんびより』などの日常系アニメは、作画カロリーを落としながら、効果的な演出を組み込むことに成功している。
それでまあ、TYOアニメーションズが制作した『ゆるゆり なちゅやちゅみ!』では、キャラクターのセリフのテンポ感が最初から最後まで一定だった。悪い意味で。その結果、ブラックジョークの有無とか関係なしに、ギャグのテンポ感のキレが落ちた。それと個人的に気になったのは、ギャグ展開を見せた後に、再び通常パートに戻るまでが”変にシームレス”だったこと。これで、作品への没入感が失われてしまった(個人的)。
アニメ監督の作家性って、やっぱり重要じゃない?
僕は原作をまだ読めていないのだけれど、動画工房版の『ゆるゆり』は、動画工房及び太田雅彦監督の作家性がかなり出ていると思う。というのも、ギャグがかなり過激だったからだ。正直、結構ブラックで、人によっては「ちょっとこれは……」と思ってしまうものだった。ちょっと寒いギャグがあったのも事実だけれど、一方で『ゆるゆり』特有の奇妙な空気感を演出できたのもたしかに、ほかにはないアニメーション作品に仕上がったのではないかと思う。
一方のTYOアニメーションズ制作の『ゆるゆり なちゅやちゅみ!』は、アニメーション側の作家性は皆無に等しい。良くも悪くも「原作通り」ということなのかもしれない。そもそもTYOアニメーションズというアニメ制作会社にブランド性がないというのもあるけれど、正直言って『ゆるゆり なちゅやちゅみ!』は、ただの日常系百合アニメである。
そうなってくると「ゆる〜い百合展開が見れるんだからそれでいいだろ!」というファンがいるんだろうけれど、「それだったら『ごちうさ』や『きんモザ』とかで十分じゃん!」と、僕は思ってしまうのである。ややブラックなギャグに可愛らしいキャラとゆる〜い百合展開をミックスさせたアニメーション作品は、そうそう多くない。それも、高クオリティな作画で制作されているとなれば、いよいよ動画工房版『ゆるゆり』ぐらいになる。つまり動画工房版『ゆるゆり』には、紛れもなく”個性”があったのだ。
よく「アニメーションは原作通りが良い!」という意見を耳にするけれど、それだったら別に原作を読めばいいわけで、やはりアニメーション側の作家性は、存分に発揮させた方がいいのではないかと思う。それが監督による作家性なのか、アニメ制作会社による作家性なのかは、状況次第だと思うけれど、アニメーションにはアニメーションにしかできないことがあるのだから、それを十分に活用しなければアニメーションにした意味がない。漫画には漫画にしかできないことがあり、小説には小説にしかできないことがある。それを尊重した上で、アニメーションにしかできないことをアニメーションにするのが求められていると思うし、そういった作品を僕は見たいのだ!
あかりの出番が増えたのが唯一の好材料
ここまで読んでもらえればわかると思うけれど、僕はTYOアニメーションズ制作の『ゆるゆり なちゅやちゅみ!』があまり好きではない。
もちろん先ほども述べた通り、冷静に客観的に見ても、TYOアニメーションズ版は動画工房版より、作品の質として劣る。これについては、異論は認めない。
その一方で、個人的かつ主観的に見た時の好き嫌いでも、僕は『ゆるゆり なちゅやちゅみ!』があまり好きではない。理由はいくつかあるけれど、やはり僕は動画工房版の演出が好きだった。これぞ「アニメーションだからできること!」だと思った。
また個人的に『ゆるゆり』の企画意図の変更もあまり好きじゃないんだけれど、客観的に見たときに、百合要素や日常要素にフォーカスしたのは悪くない選択だと思う。でもそれは、これは僕の推測に過ぎないけれど「TYOアニメーションズでは動画工房が作り出すギャグ演出を再現できない」から、企画意図が変更されたのではないかと睨んでいる。言ってしまえば、百合要素や日常要素という作画カロリー及び演出のセンスが求められない領域に”逃げた”ということだ。
まあこれはあくまでも推測に過ぎないし、TYOアニメーションズが悪いというより”動画工房が驚異的だった”というだけだと思うから、まあしょうがないと思う。
個人的には、百合要素と日常要素にフォーカスし、ブラックなコメディを排除したことから、あかりの”影薄い設定”が実質的に削除され、活躍する機会が増えたことが嬉しい。「あの影薄い設定があったから、あかりは良かったんだ!」という考えもあるんだけど、それを差し引いても、”良い子”としてのあかりの出番が増えたのは、素直に嬉しい。
一方で、歳納京子に落ち着きが見られるようになったのは、ちょっと残念なんだけどね。やっぱりもっと破天荒な京子が見たいなぁ。
さいごに
個人的にTYOアニメーションズ版は見応えに欠けるのだけれど、それでも『ゆるゆり』が好きなことに変わりはないので、最後まで付いていこうと思う。ということで『ゆるゆり』の次回作もガンガン視聴しようと思う。