【キノの旅病気の国感想】まるで鳥籠のようなドーム型管理国家

キノの旅病気の国
星島てる
アニメ好きの20代。ライターで生活費を稼ぎながら、アニメ聖地の旅に出ている者です。アニメ作品の視聴数は600作品以上。

今回は『キノの旅 病気の国 -For You-(以下、キノの旅 病気の国)』について語っていく。

『キノの旅』は時雨沢恵一によるライトノベル(電撃文庫)が原作で、2003年春クールにTVアニメ第1作が放送。2005年には劇場版第1作となる『キノの旅 何かをするために』が公開された。

そして2007年に『キノの旅 病気の国』が劇場公開される。アニメ制作はシャフトが担当した。

目次

『キノの旅 病気の国』の評価

※ネタバレ注意!

作画73点
世界観・設定・企画70点
ストーリー73点
演出70点
キャラ75点
音楽74点
※個人的な評価です

作画

アニメ制作会社がシャフトに変更されたということで、作画の雰囲気が大きく変わった。 特に大きな違いとなったのが背景だ。3DCGを多用しており、 これまでにない作画表現が生まれている。

ただし、中途半端な3DCGだったので、現代人の僕からすると、少々薄っぺらい作画になったのは否めない。テレビアニメの頃の幻想的な雰囲気のある作画の方が、個人的には好きだった。

世界観・設定・企画

科学が発展した病気の国が舞台となっている。この国では、原因不明の病が流行しており、その病の特効薬を作るために人間をモルモットにしているようだった。そして全体としては、かなり切ない。

ストーリー

相変わらずシナリオの起承転結の使い方が秀逸だった。 予測できそうでできないラインを攻めてくる感じだ。今回の『病気の国』も、なんとなく結末が見えそうで、意外に見えてこない。適度に伏線を散りばめているから、色々な展開を作れるのだと思う。

先ほども述べた通り、全体としては切ないストーリーになっている。でも、これが『キノの旅』なのだ。

演出

『キノの旅 病気の国』は、演出が微妙だったように感じられる。 いや、2007年当時であれば上出来だったのかもしれない。 しかし、現代人の目線で見ると、3DCGの使い方が安っぽく見えるので「なんだかなぁ」という気持ちにさせられる。

シャフトが制作を担当するということで、てっきりシャフトらしい演出を多用するのかと思っていたけれど、そういうわけではなかったから、ちょっと残念だった。

キャラ

アニメ制作会社が変更したことに伴い、キャラクターデザインも大きく変更されている。個人的にはどっちも好きなんだけど、強いて言うならテレビアニメ版の方が好きかなぁ。

音楽

作画の雰囲気を大きく変更されているものの、劇伴は前回までのとほぼ同じやつを利用しているようだ。なんだかんだで『キノの旅』の劇伴は、中々良かったん。

また、主題歌の『Bird』は、作詞・作曲・歌を下川みくにが担当している。これも中々にいい曲だった。

『キノの旅 病気の国』の感想

※ネタバレ注意!

正直、パッとしない

というのが、最初に抱いた感想である。

これまでの『キノの旅』は、とてもいい意味で古臭かった。Lo-Fiな感じがあった。

でも今回の『キノの旅 病気の国』は、評判のいいシャフトがアニメ制作を担当し、3DCGを用いた表現が多用された。これは、2007年当時であれば、それなりに新しかったのかもしれない。しかし2020年代の現代人目線だと、この3DCGがどうも安っぽく感じてしまう。

ストーリーも、風刺色が特別強いわけではなかったので、刺激がちょっと物足りなかった。たしかに『病気の国』の真相は、それなりに驚かされたし、シナリオもよかった。でも、やはり映像とストーリーがパッとしないのである。

「シャフトが制作を担当する」ということで、TVアニメの幻想的な演出がもっと強化されると思っていたが、逆に、極めて普通の演出になってしまった感じが否めない。

TVアニメの中の1話として、このエピソードが挿入されているならまだわかるし、むしろ傑作だと思うが、これは劇場版なんだよなぁ。

空を見ることができない鳥籠

人は誰でも空を行く鳥を見るとさ、旅に出たくなるそうだ

『キノの旅』より引用

結局は、これに尽きるのだろうか。

イナーシャの住む「病気の国」では、徹底的な清潔空間を保つために、空がドームで覆われている。そのため、イナーシャは”空を行く鳥”を見たことがないそうだ。

この状況こそが「病気の国」を強烈に風刺していると言える。管理社会の行く末は、鳥籠に限りなく近いのだ。

僕は、独自の考察を強烈に発展させて、病気の国における「難病」は、外の世界にある”ファクターX”によって解決するのではないかと考えた。その「難病」が病気の国にしかない以上、風土病である可能性が極めて高いと思う。だから政府が取るべき政策は、ドームを用いた完全管理ではなく、むしろ、外の空気と文化を取り込むことにあったのではないかと思う。

「無菌状態があまり良くない」というのは、すでに科学で証明されている。例えば、腸に内在する菌のうち、善玉菌が2、悪玉菌が1、日和見菌が7の比率なのだそうだ。たしかに悪玉菌は消えてもらったほうがいいのだが、それと同時に善玉菌まで消してしまうと、腸内環境が悪化してしまうらしい。

「病気の国」では徹底的な清潔空間が保たれているようだが、それは無菌状態ということなのだろうか。大気や地中に存在する良質な菌も隔離してしまっているのだろうか。もしかしたら、良質な菌を隔離してしまったがために、一向に病気が治らないという見方もできる。

『キノの旅』はレトリックな表現を得意とする作品だから、多分、このような科学的な設定みたいなものは、あまり重要視されていない。というか『キノの旅』に登場するエピソードの大半で言えることだが、もし国民全員が、キノのような客観的な視点を持ち合わせていたら、大抵の問題は解決するんじゃないかなぁと思う。『キノの旅』に登場する不思議な国々の多くは、外の世界をまるで知らない。だからこそ独自の文化が醸成されるのだろうけど。

さいごに

『キノの旅』は2017年にリメイク版が放送されているらしく、制作陣もキャストも全入れ替えらしい。もう既にキノとエルメスの独特な声に慣れてしまっている僕としては、リメイク版に少々不安があるのだけれど、ちゃんと最後まで視聴しておこうと思う。

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