【おでかけシスター感想】KADOKAWAといったらN高

今回は『青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない(以下、おでかけシスター)』について語っていく。

『青春ブタ野郎シリーズ』は電撃文庫で刊行されているライトノベルが原作だ。2018年秋クールにTVアニメが放送された後、2019年6月に『ゆめみる少女の夢を見ない』が公開。そして2023年6月に『おでかけシスター』が上映された。

アニメ制作はCloverWorksが担当している。

目次

『おでかけシスター』の評価

※ネタバレ注意!

作画68点
世界観・設定70点
ストーリー70点
演出65点
キャラ73点
音楽70点
※個人的な評価です

作画

原作のパワーとキャラクターの魅力に囚われがちな『青ブタ』だが、冷静に作品を視聴していくと、作画のクオリティがそこまで高くないことに気づく。おそらくCloverWorks作品の中だと、クオリティはかなり低い方なのではないだろうか。

そしてこれはアニメーターの技量というよりは、予算やリソース不足の問題が大きいと考えられる。

個人的に引っかかるのは、日付をテロップで表示するシーン。『ゆめみる少女』のときもそうだった。アニメ作品でやっていく以上、可能な限りテロップではなく画で日付を見せた方がいいと思う。

世界観・設定

今回の『おでかけシスター』は思春期症候群がほとんど発生せずに物語が進んでいった。全体的な世界観は前作とほぼ変わらず。シュールで落ち着いた雰囲気が流れている。

ストーリー

ストーリーはまずまず。原作小説1巻分を映画1本で映像化するわけだから、尺は割と確保されている。『ゆめみる少女』と『ランドセルガール』の2本立てにできたのも、前作の『ゆめみる少女』の興収が非常に良かったからだろう。

ちなみに前作は『ゆめみる少女』と『ハツコイ少女』の小説2巻分が映画1本にまとめられていたので、かなり駆け足だった。

演出

個人的に『青ブタ』の演出が響かない。僕としては純粋に「演出のクオリティが低い」と捉えている。絵コンテや演出がかなり分業されているから、表現が悪い意味で手堅い。

日常パートもシリアスパートも、どっちも微妙だったかなぁ……。

キャラ

『青ブタ』の最大の強みはキャラクターにある。そして今回は梓川咲太の妹・梓川花楓がメインだ。典型的な引きこもりキャラなのだけれど、もしかしたらアニメファンの中には、花楓に強く共感する人がいたかもしれない。

音楽

『おでかけシスター』で最も「ヤバい……」と思ったのが音楽。音楽自体は悪くないし、むしろ良いのだが、高音域が完全に音割れしている。一瞬、映画館の音響設定のミスかなと思ったけれど、中音域の音量が普通だったので、純粋に作品の方の音量設定がバグっているのだと思う。これは意図的にやったのか、それともミスなのか……。

『おでかけシスター』の感想

※ネタバレ注意!

映画館クオリティではない

予想していたことだけれど、映画館クオリティではない。

映画館クオリティだと認められる条件としては、純粋にクオリティが高いことに加え、映画館だからこそできる表現が用いられているかどうかが挙げられる。

では映画館だからこそできる表現とは何か。それは、巨大スクリーンだからこそできる画面構成と、大きなスピーカーだからこそできる低音にある。

巨大スクリーンだからこそできる画面構成としては、やはりヒキとヨリの緩急が挙げられるだろう。特にヒキは非常に重要だ。巨大スクリーンで広大な景色を映し出した時の迫力は格別である。

また、映画館にはそれなりのサイズのスピーカーが設置されている。そして低音を出すためには、物理的な問題で、ある程度の大きさのあるドライバーユニットが必要だ。つまり一般向けイヤホンで良質な低音を作り出すのは極めて難しい。だからこそ映画館は、作品に低音を組み込める数少ないチャンスなのである。

ただ残念なことに『おでかけシスター』は、このどちらの表現も用いられていない。ヒキは中途半端。低音は一切ないし、それどころか高音が音割れしている。

そして僕は個人的に『青ブタ』という作品は、かなり過大評価されていると感じる。たしかにストーリーとキャラクターは良いので、原作小説が面白いということはわかる。それにアニメ制作をCloverWorksが担当していることから、バイアスがかかっているのもあるだろう。しかし1つのアニメ作品として見たときに、クオリティが高いかと言われると、全然そうでもないと思う。

基本的に電撃文庫作品は、アニメのクオリティがそこまで高くない。でも実際、アニメとしても普通に利益が出ているから「特にクオリティを上げる必要はない」と製作委員会が判断しているのだろう。今のところ、この作戦は大成功している。

引きこもりとN高

物語について見ていくと、今回は教育の在り方みたいなものがテーマになっていたと思う。ここ最近は『かがみの孤城』のように、子どもたちの多様性を尊重する作品が多く登場している。『おでかけシスター』の花楓の進路決定も、一般的なものとは少し異なるだろう。

そのなかで登場したのが先進的な通信制学校だ。高校といえば全日制が一般的で、通信制や定時制は「ちょっとなぁ……」という扱いをされてきた。しかし現在は教育の在り方を見直す事例が増えており、ポジティブな意味での通信制・定時制が増えてきている。

そしてその代表例がKADOKAWAが設立したN高だ。だからKADOKAWAが出版している『青ブタ』で、先進的な通信制高校であるN高をモチーフにした学校が取り上げられるのは、何かの因果を感じさせる。

とはいえ、このように作品を通じて新しい教育の在り方を伝える戦略は、普通にアリだと思うし、ガンガンやってほしい。特に中高生のアニメヲタクの中には、N高のような通信制学校を求める人が多いだろう。この点に関してはKADOKAWAに大きなチャンスがある。

さいごに

なんだかんだで続編が制作されていく『青ブタ』。電撃文庫は続編を制作しない傾向が強いけれど、さすがに『青ブタ』はコスパが良いと判断したのか、続々と続編制作が決まっている。次回作『ランドセルガール』は2023年冬に公開予定。

作品のクオリティには満足していないけれど、やっぱりストーリーとキャラクターは良いので、次回作も映画館で視聴しようと思う。

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