【雲の向こう、約束の場所感想】所詮は青春の1ページにしかすぎない

雲の向こう、約束の場所
星島てる
アニメ好きの20代。ライターで生活費を稼ぎながら、アニメ聖地の旅に出ている者です。アニメ作品の視聴数は600作品以上。

今回は『雲の向こう、約束の場所』について語っていく。

『雲の向こう、約束の場所』は、新海誠監督の初めての長編アニメーション作品で、2004年に公開された。アニメ制作はコミックス・ウェーブが担当している。

目次

『雲の向こう、約束の場所』の評価

※ネタバレ注意!

作画93点
世界観・設定88点
ストーリー80点
演出80点
キャラ70点
音楽78点
※個人的な評価です

作画

2004年制作とは思えないほどの作画のクオリティ。やはり背景のクオリティが高い。とはいえ、今後制作される作品ほど背景に凝っているわけではなく、人的リソースもそこまで多く投入していないようだった。

世界観・設定

SF要素が非常に強い世界観。物理学や量子力学、メカニカルな用語がたくさん登場する。また、超王道のボーイミーツガールで、『エヴァンゲリオン』を彷彿とさせるものがあった。

ストーリー

初期の新海誠作品で見られる文学的なストーリーだった。そしてかなり意味深な内容だけれど、完全なハッピーエンドを描かないというのが新海誠の描き方だ。これもまた、文学的らしい。ただし、『雲の向こう、約束の場所』は、時系列の最後の部分(大人になった浩紀が一人で津軽を訪れるシーン)を冒頭に持っていっているので、恋愛面におけるバッドエンド感は薄れている。

演出

背景の美しさを引き立てるための演出が多い。特に、浩紀が飛行機でユニオンの塔を目指すシーンは美しかった。『天空の城のラピュタ』みたいな感じ。

キャラ

なんというか2000年代前半でよく見られる典型的なキャラデザ。そして良くも悪くも、普通の少年と普通の少女だった。

音楽

『雲の向こう、約束の場所』といったらバイオリン。バイオリンで演奏された楽曲がとても良かったのだけれど、あれは原曲があるのだろうか。

また、全体的にクラシック調の落ち着いた楽曲が多かった。

『雲の向こう、約束の場所』の感想

※ネタバレ注意!

とても落ち着いた作品

『雲の向こう、約束の場所』は、良くも悪くも落ち着いた作品だ。登場人物たちが感情を表に出すことが少ない。特に終盤の落ち着き具合は凄まじい。

それは『雲の向こう、約束の場所』が文学的だからだと思う。『雲の向こう、約束の場所』の冒頭で、登場人物たちの心情描写がセリフとして表現される部分が、まさに文学的。通常のアニメ作品だと、登場人物の心情描写がセリフで表現されることはほとんどない。

そして全体的に落ち着いていて達観しているからこそ、視聴者としてはかなり考えさせられる。「こいつは今、どんなことを考えているのだろう?」みたいな。特に冒頭で、大人になった浩紀が一人で津軽に訪れるシーン。ここで浩紀は何を思っていたのだろうか。

それでいてSF要素が強い作品なので、好き嫌いがかなり分かれる気がする。

青春なんて、こんなもん

『雲の向こう、約束の場所』は、よくよく考えてみると凄いストーリーだ。

まず、日本の北海道は”ユニオン”と呼ばれる国家群に占領されている。そして北海道には”ユニオンの塔”と呼ばれる塔があり、後にこれが平行宇宙を観測できることが明らかになる。ただしユニオンの塔はおそらく正常に作動しておらず、ヒロインの沢渡佐由理がその受け皿になっているというのだ。だから沢渡佐由理は約3年間眠り続け、それはつまり、平行宇宙に囚われたままということになる。

そこで主人公の藤沢浩紀は、沢渡佐由理を助けるために、飛行機を作ってユニオンの塔に行くことに。ここで「世界を救うか、沢渡佐由理を救うか」というボーイミーツガールのセカイ系における王道の選択が迫られた。
それで結局、作戦は無事に成功し、沢渡も世界も救うことができたわけだ。

……という壮大なストーリーが、大人になってから何事もなかったかのようになっているのである!

大人になった浩紀は、どこか達観した表情で、一人津軽に訪れるのだけれど、あまりにも達観しすぎていた。「世界か女の子かどちらかを選べ」という究極的な選択を迫られ、自分の命を懸けてまで、女の子を助けることができたのに、ただの青春の1ページとして扱われているのである。あの壮大なストーリーが、ただの青春の1ページである。

これが『雲の向こう、約束の場所』の最大の特徴だと思う。あれだけ壮大なストーリーが、ただの青春として扱われる。だったら僕みたいな一般人が過ごしてきたそれなりに刺激的な青春というのも、そんなに大したことないんじゃないか、と思えてくる。

そしてこれは、ネガティブな考えというわけでもない。「青春や過去なんてそんなに大したものじゃないんだから、前向きに未来を見ようよ!」というメッセージを感じる。そう考えると『秒速5センチメートル』にも同じようなメッセージが込められているような気がするなぁ。

さいごに

2022年に『すずめの戸締まり』が上映されたということもあり、新海誠作品の過去作を視聴するようにしている。新海誠は注目に値するアニメーターの一人だから、基本的には全作品視聴していく予定だ。『ほしのこえ』も『彼女と彼女の猫』も視聴する。とにかく新海誠作品が動画見放題サービスに出回っているうちに、視聴していこうと思う。

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