【ユーフォ3期感想】第12話「さいごのソリスト」が描く青春の価値

ユーフォ3期
星島てる
アニメ好きの20代。ライターで生活費を稼ぎながら、アニメ聖地の旅に出ている者です。アニメ作品の視聴数は600作品以上。

今回は『響け!ユーフォニアム3(以下、ユーフォ3期)』について語っていく。

『響け!ユーフォニアム』は武田綾乃による小説(宝島社文庫)が原作で、TVアニメ1期が2015年春クール、TVアニメ2期が2016年秋クールに放送され、2024年春クールにTVアニメ3期が放送される。

アニメ制作は京都アニメーションが担当した。

目次

『ユーフォ3期』の評価

※ネタバレ注意!

作画87点
世界観・設定・企画90点
ストーリー92点
演出85点
キャラ92点
音楽88点
※個人的な評価です

作画

誤解を恐れずに言うと、やはり作画の品質は落ちている。前作までキャラクターデザインと総作画監督を担当した池田晶子、京アニで紛れも無いNo.1アニメーターだった木上益治が亡くなったことに加え、シリーズ演出を担当した山田尚子が京アニから離れたことで、技術力が大幅にダウン。

実際、木上益治や山田尚子が参加していたときに加え、意欲的な演出は減少し、エフェクトにかなり頼っていたように思う(逆に言えば、エフェクトで上手に画作りできていた)。

また、演奏シーンの尺も劇的に減少。最終回の演奏シーンも、回想シーンを挿入したり、手元の部分を楽譜で隠したりするなどして、積極的に省力化していた。

一方で、技術力が薄くなったことを踏まえた上で、ストーリーを含めて様々な部分で可能な限り工夫していたのは間違いなく、実際、多くのアニメファンにバレなかった。

世界観・設定・企画

なんだかんだで、このTVアニメ3期が、吹奏楽や部活動の難しさについて最も深掘りできた作品だったかもしれない。そしてそれは、1クール構成にしたことも含めて、映像化したエピソードを極力絞ったことが大きいだろう。これにより、原作小説とアニメが、いい具合に棲み分けできている。今回のTVアニメ3期をきっかけに、原作小説で各キャラのエピソードをもっと読みたいと思った人は、結構いるはずだ。僕も、その1人である。

ストーリー

僕は原作小説を未読なのだけど、どうやら原作小説とはストーリーが大きく異なるらしく、その点で言えば、挑戦的な京アニが帰ってきたということなのかもしれない。

当初は「1クールは少なすぎないか?」と思っていたけど、これまでの『ユーフォ』とは違ったメッセージ性を示すことに成功していて、めちゃくちゃ良かった。

演出

先ほども述べた通り、これまで京アニを引っ張ってきたアニメーターが現場から離れたことで、全体的に演出のやり方が変わった。そして個人的には、TVアニメ1期やTVアニメ2期のような演出の方が好みだった。やはり今回のTVアニメ3期は、少々、エフェクトに頼りすぎている感じがある。

とは言え、これまで蓄積されてきたノウハウは相変わらずで、京アニらしさも存分に感じることができた。特に終盤の畳み掛け方は尋常ではなく、「9年」という京アニ史上最長のシリーズなだけあって、素晴らしい映像体験を味わうことができた。

キャラ

結局のところ、久美子の描き方がレベチだった。1年生のころから、久美子はとても不思議なキャラだったけど、部長になってからの成長っぷりは凄まじく、黒沢ともよの演技も限界突破していた。

そのほかのキャラも最高でして、それぞれのキャラで立ち位置がしっかりしていたの好印象。ややストーリーの上でキャラクターが転がっている感じはあったけど、でも一周回って、それが部活動らしいのかもしれない。要するに「One for All」というやつだ。

音楽

これまでのOPは、Aメロの勢いが強かったけど、今回の『ReCoda』はかなり落ち着いている。

EDの『音色の彼方』は「もうこれでおしまい」って感じが強すぎて、初めて聞いた時はマジで泣きそうになった。これ、今年のアニサマでやるんだよな。ヤバいよな……。

それと自由曲の『一年の詩』は、これはもうヤバい(語彙力なし)。それに、適度に挿入される『響け!ユーフォニアム』も涙腺を刺激される。

『ユーフォ3期』の感想

※ネタバレ注意!

第12話『さいごのソリスト』という圧倒的な神回

名作揃いだとされている2024年春アニメの中でも、個人的に『ユーフォ3期』は別格で、もう完全に感情の入り方が違う。1話視聴するたびに心が動かされたし、超久しぶりに、リアルタイムで「早く見たい!」と思えた作品だった。

その中でも、やっぱり第12話『さいごのソリスト』の感動は忘れられない。

このエピソードでは、ユーフォニアムのソリストのオーディションが実施されるという話で、久美子と真由がユーフォのソロをかけて戦うことになる。

久美子は、正しく在り続けた

まずこの神回の1つめの涙腺刺激ポイントは、久美子がオーディションのルール変更を提案するシーンだ。

それなら1つ、お願いがあります……。音だけで判断できるよう、どちらが吹いているかわからない形にしてください

『響け!ユーフォニアム3』より引用

これ、ちょっとヤバくないだろうか……。

おそらく滝先生本人は、真由の演奏の方がソリストにふさわしいと考えていたのだと思う。でも、それでも久美子の頑張りに同情し、冷静な判断ができなくなっていた。そのため、吹奏楽部の納得を確保するためにオーディションを実施した。または、滝先生ですら「久美子に吹いてほしい」と思っていたのかもしれない。そういえば滝先生は、1年生の頃の久美子の「上手くなりたい!」を知っている数少ない人物なのだ。

それに対して久美子は、北宇治高校吹奏楽部の部長として、あくまでも正しく在り続けた。本当の意味で全国金賞を目指すために、完全に公平なオーディションのルールを提示したのである。

個人的に、僕はこのシーンが一番好きである。というか、このシーンに久美子の成長っぷりが凝縮されているように思う。奏の言うように、悪く言えば自己犠牲なのかもしれないが、ここで正しく在れたことは、これからの久美子にとってかけがえのないものになったのは間違いない。

そう。所詮、この物語は「高校生による部活動」を描いたものなのであって、人生の全てではない。むしろ、高校を卒業してからの方が、人生は圧倒的に長いのだ。

久美子が真由を救った

次の見どころポイントは、オーディション実施前の久美子と真由の会話だろう。

『ユーフォ3期』全体を通して、黒江真由は謎の多い転校生だった。本心が全く掴めない。見方によっては、性格が酷く悪いようにも見える。

でも、やはり実態は違った。真由は、自分の演奏がきっかけで友達が音楽を辞めたことにトラウマを感じていたのだ。だから真由は、毎度のように久美子に「ソロ、譲ろうか?」と確認せざるを得なかったのである。

思えば、これはTVアニメ1期の当初の久美子が抱えていたトラウマと全く同じである。中学生のとき、久美子は低学年にもかかわらずメンバーに選ばれたことで、上級生に酷いことを言われていた。

んで、その久美子を救ったのが中川夏希だった。あのマックのシーンも、めちゃくちゃ感動的だったよな……。逆に言えば、夏希がいなかったら、今ごろ久美子は真由と同じ捻くれ方をしていたのかもしれない。

ということで、実はなんだかんだで、真由を救うことができたのは、同じ体験をしていた久美子だけだったのである。そして正直に、久美子は真由から距離を取っていたことを謝罪した。これは、本当に難しい問題である。言語化するのが難しい人間関係だ。おそらく嫉妬でもないし、怒りでもない。なんだかよくわからない感情が久美子を支配し、それが真由の不安を煽っていた。

でもここで久美子は、あすか先輩に言われた通り、言いたいことを言って、真由を救うことに成功する。これで文句なく、オーディションで戦うことができる。

オーディションの”音”について

次の見どころは、オーディションだ。

今回、視聴者にも誰が吹いているかがわからないようになっていて、視聴者も含めて、オーディションに参加するような感覚が得られた。そして1番も2番も、明らかに演奏が異なる。心の中で「私はこっちが好きだ!」と答えを出せるぐらいに、違いが大きい。

ちなみに僕は、心の中で2番に手を挙げた。シンプルに、2番の方がいいと思っていた。

さて、蓋を開けてみると、1番が真由で2番が久美子だった。そして、最後の高坂麗奈の1票で、1番の真由がソリストに選ばれたのだ。実際に1番と2番のどちらが正解だったかと言われれば、やはり1番だったのではないかと思う。たしかに久美子の演奏の方が目立っていたが、トランペットを引き立たせるという意味では真由の演奏の方が適していた。

高校の吹奏楽コンクールにおいて、最も重要なのは「編成全体としての演奏」である。単体の音が優れているかどうかより、編成全体としての演奏や、その表現で審査されることがほとんどだ。その点で言えば、やっぱり真由の演奏の方が優れていたのかもしれない。

ここが、原作改変の最大の要因となる。原作ではオーディションが実施されないし、ソリストは久美子が選ばれるのだが、今回のTVアニメは真由が選ばれることになった。久美子と麗奈の掛け合いは、実現しなかった。

当然、この結果は非常に驚くべきことだが、それと同じくらいに重要なことがある。それは、オーディションにおける”正しさ”だ。

今回のオーディションのシーンを見る限り、久美子に近しい人物は、久美子と真由の演奏を区別できていたように思える。そして奏、緑輝、秀一が久美子に手を挙げ、葉月と麗奈が真由に手を挙げた。おそらく奏、緑輝、秀一は、純粋に久美子の吹いて欲しかったのだと思う。特に奏に関しては、トランペットのオーディションのときの吉川優子みたいな立ち位置だと思われる。

一方の葉月と麗奈は、バイアスとかは関係なしに、純粋に良いと思った方を選んだ。正しく在り続けたのだ。麗奈は一旦あとで解説するとして、葉月が正しく在り続けたのは、とても印象的だった。葉月は、1年生の頃からオーディションに苦しんできたキャラだ。そして中学生の頃までは、競技スポーツの経験もあった。だから、勝ち負けに対して公平であるべきだと考えたのだろう。

もちろん、これは奏、緑輝、秀一が間違っていたと言いたいわけではない。おそらくこの3人は、久美子でも全国金賞を取れると確信していたのだと思う。

視聴者の代弁者、久石奏

オーディションが終わり、麗奈を探していた久美子だったが、そこに久石奏が現れる。

まさか奏がこれほどまでの久美子信者になるとは、初登場時には思っても見なかったが、それにしても奏の久美子に対する”愛”は、TVアニメ3期全体を通して凄まじいものがあった。

ということで久石奏は、香織先輩のときの優子のように、久美子に泣きながら抱きつく。

これはもう完全に、視聴者の代弁者だろう。「久美子に吹いてほしい」という気持ちは、『響け!ユーフォニアム』が好きな人なら全員が思っていたことだろう。その気持ちの行き場としての役割を、久石奏が請け負ったのだ。

誤解を恐れずに言うと、このシーンがちょっと「ストーリーの上にキャラクターが転がっている」感じが否めなかった。「奏=視聴者の代弁者」というのが露骨に出過ぎていたのではないかと思う。でも、こうでもしないと「ガチで久美子に拭いて欲しかった」ファンに対して、何もアプローチできなくなる可能性があるので、これはしょうがないと思う。

久美子と麗奈の特別

エンディングのクレジットが表示され、特別エンディングの突入が確定する。久美子は、いつもの展望台に行き、麗奈のところに辿り着く。そこで、麗奈は泣いていた。

「ごめんなさい」を連呼する麗奈に対して、久美子は言った。

私も吹き終えてどこかわかってた。音大じゃないって思い始めてからの迷い。それが、わずかでも音に出た。麗奈はきっと聴き分けるって。そして、一番を選ぶ。

だって、麗奈は特別だから。きっと曲げない。麗奈は最後まで貫いたんだよ。私はそれが何より嬉しい。それを誇らしいって思う自分に胸を張りたい。

『響け!ユーフォニアム3』より引用

「特別」というのは『響け!ユーフォニアム』に対して1つのテーマになっている。

吹奏楽部という極めて大人数な部活動は、どうしても「空気」を重視しがちになるが、その中でも「特別」を貫けるかどうかが、TVアニメ1期の最大のテーマだったと僕は考える。TVアニメ1期では、高坂麗奈と田中あすかがぶっち切りで「特別」だったわけだが、麗奈はそれを最後まで貫いたのだ。一方の久美子は、少なくとも「演奏」にだけ着眼すれば、特別な人間ではなかった。だから、オーディションに落ちた。

TVアニメ1期から描かれた「特別」が、まさかここで回収されるとは思っても見なかった。もちろん、久美子は特別な人間だ。部長としての立ち振る舞いは素晴らしい。でも「音楽の才能」という意味では「特別」になれなかった。これほどのしっぺ返しがあるだろうか。

香織先輩と麗奈、希美とみぞれ、そして久美子と真由。やっぱりスポーツ系の作品を描く以上、才能の残酷さを描くことは避けられないか。

しかし、麗奈は最後まで特別だと信じ、それを誇らしいと思う久美子は、やはり美しいと思う。久しぶりに美しいアニメを見ることができた。

青春の価値とは?

僕は正直、TVアニメ3期を不安視していた。面白くなりそうなのは間違い無いけど、TVアニメ1期やTVアニメ2期を超えられるのかどうかという不安があったのだ。それぐらい「久美子とあすか先輩の関係性」は凄かった。

これはあくまでも推測だけど、もし原作通りにやってしまったら、TVアニメ3期は、2期で描かれた「久美子とあすか先輩の関係性」を越えられなかったかもしれない。でも今回はアニメオリジナルを取り入れて、久美子がオーディションで落ちることで、必ずしも「努力が自分の望み通りに報われないこと」を描くことに成功した。

僕は中学から大学までの10年間で競技スポーツに取り組んでいたから、よくわかる。僕は、この10年間の選手生活があったからこそ、今の自分があると思っているから、後悔はほとんどない。でも、努力が自分の望む形で報われたかと言われれば、それは「No」になる。僕は全国大会出場を目標にしていたけど、あと少しのところで目標を達成できなかった。

今回の久美子に関しては、建前は「全国金賞」だったけど、やっぱり「麗奈と一緒にソリストをやって全国金賞」が一番の目標だったはずである。でも、それは達成できなかった。しかし、久美子は最後の最後まで正しくあり続けることができた。その経験は間違いなく、その後の人生(教師生活)に活きてくるだろう。

そう考えれば、青春の価値がわかるようになるのは、高校生のときではなく、もっともっと先であることがわかる。『ユーフォ3期』と同時期に『ルックバック』が公開されたけど、あとになって振り返ったときに、そこでようやく青春の価値がわかるのだ。

この文章を書いていて、僕はTVアニメ1期の滝先生と久美子のエピソードを思い出した。

父と同じ仕事に就きたいなんて思ったこともなかったのですが、でも選んだのは、この仕事でした。

結局、好きなことって、そういうものなのかもしれません。

『響け!ユーフォニアム』より引用

久美子も滝先生と同じように、紆余曲折して、なんだかんだで「吹奏楽部の顧問」という道を選んでしまったわけである。結局、好きなことってそういうものなのだ。

さいごに

多分、劇場版はやるだろう。この『響け!ユーフォニアム』という作品は、映画館の音響で真価を発揮する。これまでもTVアニメ1期と2期は、劇場総集編を公開していたことから、今回のTVアニメ3期も総集編で公開する可能性が高い。

それに加えて『響け!ユーフォニアム』は、やろうと思えばスピンオフ展開で作品を続けられる。通常の京アニであれば、すぐさま次のIPにいくところだが、放火殺人事件をきっかけに自社IPを展開しづらくなったこと、まだ次回作のスケジュールを公開していないこと、アニメーターの技術力が相対的に低下していることを考えると、もう少し『響け!ユーフォニアム』で繋ぐ可能性は高い。

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