今回は『イリヤの空、UFOの夏』について語っていく。
『イリヤの空、UFOの夏』は電撃文庫で刊行されていたライトノベルが原作だ。そして2005年に全6巻のOVAが発売される。アニメ制作は東映アニメーションが担当した。
『イリヤの空、UFOの夏』の評価
※ネタバレ注意!
作画 | 70点 |
世界観・設定 | 80点 |
ストーリー | 70点 |
演出 | 70点 |
キャラ | 70点 |
音楽 | 79点 |
作画
2005年に公開されたアニメであることを考慮すると、まずまずのクオリティという感じだ。キャラデザが壊れることもあまりなかった。
世界観・設定
ガッツリ”セカイ系”の”ボーイミーツガール”のストーリー。「少女が世界のために1人で戦っている」という設定があるのだが、その様子の一切を見せないのが、学園系のセカイ系として面白いなぁと思う。
ストーリー
どう考えても尺が足りていない。最初は、この飛ばし飛ばしの感じも演出なのかと思っていたけれど、普通に考えて、小説4巻分のストーリーをOVA6巻にまとめるのは無理がある。
でも、それでもそれなりに面白くなっているので、それだけ全体的なストーリーの流れがよくできていたということだろう。
演出
第3話『十八時四十七分三十二秒』と第5話『最後の道』の演出が良かった。多分、尺が足りてないから、こんな飛ばし飛ばしの展開になっているのだけれど、それがかえって、不思議な世界観を演出している。これは制作陣が意図的にやっているのか、それとも僕が勝手に解釈しているだけなのだろうか。
キャラ
イリヤと浅羽のボーイミーツガール作品だけれど、浅羽妹、水前寺、晶穂など、魅力的なキャラが何人かいた。イリヤと浅羽の様子だけ見ていると鬱になりそうだけれど、先ほど挙げたような明るいキャラがいるから、なんとかバランスが保てている感じがする。
音楽
OPの『Forever Blue』とEDの『ひまわり』は、どちらもかなり良い曲だった。ノスタルジックな夏を感じさせる。
『イリヤの空、UFOの夏』の感想
※ネタバレ注意!
原作は絶対に面白い
なぜ僕が『イリヤの空、UFOの夏』を視聴したのか。まず第一に、僕がこの記事を執筆している現在、夏だということが挙げられる。数年前、蒸し暑い夏に『AIR』を視聴して素晴らしい体験を得た僕は、ちゃんとタイミングを図って視聴することの大切さを学んだ。それでたまたま『イリヤの空、UFOの夏』のタイトルを見かけたので「じゃあそろそろこれ見るか」という風になったわけである。
『イリヤの空、UFOの夏』は、原作小説の人気が非常に高い作品だ。「ライトノベル史上、最も優れた作品は?」という問いがあったとしたら、まず候補に挙がってくる作品だろう。『イリヤの空、UFOの夏』は2000年代前半の作品だが、当時は『新世紀エヴァンゲリオン』により”セカイ系”が全盛期だったので、”セカイ系”の名作が生まれ続けた時代だった。新海誠の『ほしのこえ』とか。あとは『涼宮ハルヒの憂鬱』も立派な”セカイ系”である。
さて、肝心のアニメの話だけれど、やはりどう考えても尺が足りていなかった。ただでさえ、”セカイ系”は世界観や背景の説明が必要不可欠なのに、原作小説4巻分をOVA6巻(つまりTVアニメシリーズの約半分の尺)でやろうとしているのだから無理がある。ちなみに、原作小説1巻あたりにTVアニメ3話から4話分を割り振るのが一般的だ。
でも、それでもそれ相応の余韻を与えてくるのだから、原作小説は絶対面白いに違いない。ロスがとんでもないことになりそうだけどね。
やはり”夏”がいい理由
「ひと夏の物語」というのは、聞き慣れたフレーズである。「ひと春の物語」や「ひと冬の物語」はないけれど「一夏の物語」だけは、世の中に多数存在している。はたして夏には、いったい何があるのだろうか。
僕が思うに、夏という季節は、少年少女にとって非日常的な季節なのである。なぜなら夏休みがあるから。普段は学校に登校している学生たちも、夏休みになると約1ヶ月間、学校という名の日常から半強制的に離れることができる。
そして『イリヤの空、UFOの夏』で描かれたのは”UFOの夏”であり、少なくとも浅羽と水前寺はUFOの夏を追いかけていたと言えるだろう。また、夏を描いているにもかかわらず、主な日時は夏休みが終わったあと、残暑が続く9月となっており、これが夏の終わりを意識させている。
イリヤとの別れは、直接、夏の終わりを象徴していると言っても過言ではない。
ここまで”セカイ系”と”ボーイミーツガール”と”夏”をミックスさせた作品が数多く制作されているのは、終わりを強く意識せざるを得ない夏という季節と、”セカイ系”特有の別れの相性が抜群だからだろう。
ハッピーエンド? バッドエンド?
とはいえ、やはりイリヤが死んでしまったのは悲しい(死んだという解釈で合ってるよね?)。『イリヤの空、UFOの夏』がハッピーエンドだったのか、それともバッドエンドだったのかは、解釈が難しいところである。それにOVAは尺があまりにもギリギリだったので、この解釈の決着については原作小説を読んでからにするとしよう。
“セカイ系”かつ”ボーイミーツガール”の作品におけるテーマとは「大事な人か?それとも世界か?」というものである。本作で言えば「イリヤの命か?それとも世界の平和か?」という選択だ。
ここで大事なのは、浅羽はイリヤの命を選んでいたということである(少なくともアニメを見る限りは)。
かかってこい! 僕が説得すると思ってたんなら、お生憎様だ!
イリヤには出撃なんかさせないからな!イリヤは、絶対に死なせない! イリヤが生きるためなら人類でも何でも滅べばいいんだ!
……イリヤ。僕は、イリヤのことが好きだ。
『イリヤの空、UFOの夏』より引用
ということで、浅羽は世界の存続よりもイリヤの命をちゃんと選んだ。そしてイリヤに告白する。で、イリヤはどうしたのか。シンプルにイリヤは、浅羽に生きていてほしかった。だからイリヤは、世界を守るために、ひいては浅羽を守るために出撃することに決めたのである。
結局、大人たちが仕組んだ「子犬作戦」の計画通りになったわけだ。理屈で見れば、大人の勝利ということになる。だが、どうだろうか。少なくとも感情的な部分では、少年少女は最後まで戦い抜き、そして勝利することができたのではないかと僕は思う。
先ほど引用した浅羽のセリフに対して、榎本がニヤリと笑うのが印象的だ。子犬作戦を立案した榎本は中々エグい大人だ。一方で、いくつかのセリフから、少年少女の熱さを理解している数少ない大人のようにも思える。そして子犬作戦は、イリヤの最後の夏を彩るために用意したんじゃないかなぁとも思う。
だから、僕はハッピーエンドだと思っている。たしかにイリヤに恋愛的に好きになってしまったファンからすれば、イリヤが死んでしまうのはショッキングだが、でも、少なくともイリヤと浅羽にとっては、ハッピーエンドということになるんじゃないだろうか。
さいごに
僕が原作ラノベを手にすることはあまりない。なぜならラノベの場合、アニメを視聴するよりも時間がかかるからだ。だからラノベに関しては、手を出すのがかなり慎重になる。それでいくと『イリヤの空、UFOの夏』は、間違いなく読むだろうなと思う。タイミングとしては残暑がいいけど、2023年の残暑はちょっと忙しいので、来年以降の残暑にしようか。
原作ラノベを読み次第、またブログに投稿してみようと思う。