今回は『思い出のマーニー』について語っていく。
『思い出のマーニー』はジョーン・G・ロビンソンによる児童文学作品が原作で、これが2014年7月に長編アニメーション映画化された。
アニメ制作はスタジオジブリ、監督は米林宏昌が担当した。
『思い出のマーニー』の評価
※ネタバレ注意!
作画 | 92点 |
世界観・設定 | 85点 |
ストーリー | 85点 |
演出 | 86点 |
キャラ | 84点 |
音楽 | 85点 |
作画
スタジオジブリっぽいというよりは、今となってスタジオポノックっぽいという感じだろうか。以前のジブリ作品に比べて、ヒキの印象が強く、また、より直接的な表現になってきている気がある。
世界観・設定
児童文学の名著が原作ということで、子ども向けの世界観ではあるのだけれど、それをアニメーションに落とし込むのがめちゃくちゃ難しそうだった。でも、非常に素晴らしい仕上がりになったと思う。今後続いていくスタジオポノックに繋がる世界観だった。
ストーリー
想像以上に「マーニーと出会う前」の尺が長かった。色々な意図があるだろうけど、アンナの複雑な家庭状況を子どもたちに説明するには、これぐらいの尺が必要だったという判断なのではないかと思う。子ども向けではあるんだけど、やろうとしてることが結構複雑だから、それに苦戦した感じがあるけど、でも仕上がりはめちゃくちゃ良かった。
演出
宮崎駿とか高畑勲ほどの強烈な演出は皆無で、ジブリ作品で共通している「視聴者を煽りすぎない」というルールをギリギリで守っている感じ。本当はもっと視聴者を煽れたと思うけど、それをやっちゃうとただの深夜アニメになっちゃうから安っぽくなってしまう。そういう意味では『思い出のマーニー』の演出は、程よいバランスだったのではないかと思う。
キャラ
男性キャラがあまり登場しないのが『思い出のマーニー』の特徴かも。通常、ジブリ作品であればメインキャラで男性キャラが登場するのだけれど、今回は基本的に女の子がメインだ。でもまあたしかに『思い出のマーニー』のストーリーで、男性キャラが活躍するのは考えづらい。
音楽
クラシカルな音楽が多い印象。遊び心は控えめで、視聴者を煽りすぎることもない。この辺はジブリらしい。
また、主題歌の『Fine On The Outside』もかなり落ち着きのある楽曲だった。
『思い出のマーニー』の感想
※ネタバレ注意!
世界を変える気など更々ない
『思い出のマーニー』から”世界を変えるほどのパワー”は全く感じられなかった。せいぜい”1人の人生観を変えるぐらいのパワー”程度で、それ以上の、社会を変えるようなエネルギー量ではなかった。
これは別に悪いことではない。実際、米林宏昌監督も、公式サイトで以下のように述べている。
僕は宮崎さんのように、この映画一本で世界を変えようなんて思ってはいません。
『思い出のマーニー』の公式サイトより引用
ただ、『風立ちぬ』『かぐや姫の物語』の両巨匠の後に、
もう一度、子どものためのスタジオジブリ作品を作りたい。
この映画を観に来てくれる「杏奈」や「マーニー」の横に座り、
そっと寄りそうような映画を、僕は作りたいと思っています。
そう。『思い出のマーニー』は『風立ちぬ』や『かぐや姫の物語』という超大作のあとに誕生したアニメ映画なのである。そして『風立ちぬ』や『かぐや姫の物語』は、とてもじゃないが”子ども向け”とは言えなかったし、それどころか”大衆向け”でもなかった気がする。その一方で『思い出のマーニー』は「もう一度、子どものためのスタジオジブリ作品を作りたい」という想いから制作された作品だ。
そしてこの想いは、2014年12月にスタジオジブリが制作部門を解体し、米林宏昌のためのアニメ制作会社・スタジオポノックが設立されて以降も継承されている。
実際のところ『思い出のマーニー』は、悩める子どもたちに寄り添うような作品に仕上がっているように感じられる。
深夜アニメチック
全体を通して僕が感じたのは「深夜アニメチックだなぁ」というものだった。
『思い出のマーニー』は、これまでのジブリ作品に比べても、深夜アニメ的要素が多い。例えば、百合。百合は、言ってしまえば女性の同性愛のことだが『思い出のマーニー』は百合映画だと言われても弁解の余地がないぐらいに、女性同士の愛情が描かれる。これは、実際は百合というより家族愛の延長だったわけだが、だとしても、視聴者の目には百合映画のように映ってしまうだろう。
また、主人公の拗らせっぷりも深夜アニメチックだなぁと思う。『天空の城ラピュタ』のパズーや『もののけ姫』のアシタカとサンのような真心は、アンナから一切感じられない。いや、一周回って正直者なのかもしれないが、だとしても拗らせっぷりが酷い。そしてこれは、2000年代後半以降に登場した深夜アニメの主人公で、よく見受けられた設定だと思う。
そして何よりも『思い出のマーニー』は、従来の深夜アニメに比べて、演出面で視聴者をかなり煽っていたように思う。特にアンナがマーニーの正体を知ったときのシーンの演出は、某泣きアニメほどではないにしても、視聴者の涙を誘うようなエモい演出になっていた。これは、悪いことではないのだけれども、だとしても「深夜アニメチック」であることは否めない。
でもこれは難しいことである。2010年代にもなってしまうと、アニメ好きの子どもの大半が深夜アニメを嗜んでいるわけで、そういった子どもたちの感情を動かすには、どうしても深夜アニメ寄りの演出に傾ける必要がある。深夜アニメチックな演出とジブリらしい演出。このバランス感が絶妙にコントロールされていたのが『思い出のマーニー』だったと思うし、これがスタジオポノックで継承されているように思う。
さいごに
『思い出のマーニー』を制作した米林宏昌監督は、スタジオポノックで『メアリと魔女の花』というアニメ映画を2017年に公開している。これも、ぜひとも視聴してほしいと思う。