【劇場版ウマ娘新時代の扉感想】限界突破した映像表現と狂気

劇場版ウマ娘

今回は『劇場版 ウマ娘 プリディーダービー 新時代の扉(以下、劇場版ウマ娘)』について語っていく。

『ウマ娘』はCygamesによるメディアミックスプロジェクトで、2018年春クールにTVアニメ1期、2021年冬クールにTVアニメ2期が放送され、それと同タイミングでソシャゲのアプリ配信が開始。2023年秋クールにはTVアニメ3期が放送された。

そして2024年5月に『劇場版ウマ娘』が公開される。

アニメ制作は、CygamesPicturesが担当する。

目次

『劇場版ウマ娘』の評価

※ネタバレ注意!

作画92点
世界観・設定・企画85点
ストーリー85点
演出91点
キャラ88点
音楽90点
※個人的な評価です

作画

とにかく、今回の『劇場版ウマ娘』は、作画がとんでもない。競馬で限界突破するシーンに対しては、立川穣作品を彷彿とさせられたし、コメディパートではTVアニメではあまり見られなかった漫画的な表現を多用。また、ウマ娘の狂気を演出する際のカメラワークも凄くて、TVアニメとは比較にならないぐらいのハイレベルなアニメ映画に仕上がっている。

世界観・設定・企画

これまでのウマ娘とは、雰囲気が全く異なる。映画館での上映を想定した画作りになっていて、映像に対する理解が深い企画になっている。それに加えて、ランナーズハイとか、アスリートが抱く狂気がテーマになっていて、終始、飽きることがなかった。

ストーリー

中盤までのストーリー展開が凄まじく、ここで一気に世界観に引き込まれる。一方で、クライマックスに関しては、テイオーやキタサンほどの感動はない。というかあまりにも中盤までのシナリオがえげつなかったから、どうしてもそこと比べてしまう…-。タキオンの復活もちょっと呆気ない感じで、これは尺の問題もある。

演出

今回の『劇場版ウマ娘』の最大の特徴と言っても良いのが演出力だ。映画館での視聴を想定したカメラワークと演出が多用されていて、映像を見ているだけでも充分に楽しめる。しかも劇伴や効果音とのコンビネーションも秀逸だったから、もはや完璧としか言いようがない。TRIGGERを彷彿とさせる漫画的な表現や、シャフトを彷彿とさせる構図も印象的で、アプリで稼いだウマ娘マネーで最高品質の『ウマ娘』を制作したという印象を受ける。

キャラ

主人公はジャングルポケットだけど、どうしてもタキオンの印象が勝る。というかいっそのことタキオンを主人公にしたほうがバリくそ面白くなりそうだが、流石にそれは本来の『ウマ娘』から外しすぎてしまうから、まあ却下だろう。それぐらいタキオンの狂気が凄まじかった。

音楽

主題歌や挿入歌もいいが、個人的には劇伴がとても印象的だった。これだけアニメーション表現を追求できたのも、劇伴との親和性が極めて高かったことが大きい。映画館での視聴を想定した広がりのある劇伴で、しかも低音を効果的に活用している。映画館で視聴しなければもったいないレベルの劇伴だった。

『ウマ娘』の感想

※ネタバレ注意!

TVアニメとは比較にならない映像表現

今回の『劇場版ウマ娘』は、TVアニメとは比較にならないレベルの映像表現だった。予告動画を見ていても「これまでの『ウマ娘』とは違う!」という印象だったが、実際に視聴してみると、もう全然違うのだ。

まず全体として、実写映画並みにコントラストが強くなっている。明暗の差を強くすることで、勝者と敗者をはっきり区別させる狙いがあると思われる。それに加えて、シネマ的なカラーグレーディングが施されているので、アニメを見ているというよりは映画を見ている気分にさせられた。

それにあわせて、カメラワークも実写映画的で、特にタキオンが登場するカットが印象的だった。ローポジションやハイポジションも、これまでの『ウマ娘』には全くない演出だ。とにかく映像作品として『劇場版ウマ娘』は優れている。

そしてそれだけでなく『劇場版ウマ娘』にはアニメ的な表現がいくつも多用されている。とりわけ印象的なのが、コメディパートの漫画的な表現だ。TRIGGER作品を彷彿とさせる漫画的な動きは、手描きアニメーションだからこそできる演出である。同じく、シャフト作品を彷彿とさせるカメラワークも印象的だった。エンディングのクレジットでTRIGGERやシャフトの名前があったことを考えると、これらのシーンは丸々外注したのかもしれない。

ウマ娘が持つ狂気

競走馬を萌えキャラ化した『ウマ娘』という設定そのものがクレイジーだが、今回の『劇場版ウマ娘』では「ウマ娘とは何か?」という哲学的なテーマが取り扱われた。なぜウマ娘はこれほどまでに「走ること」に執着するのか。まるで走るために生まれてきたみたいではないか。

最近、僕は『脳を鍛えるには運動しかない!』という本を読んだばかりで、本書によると、人間は他の動物に比べて、極めて優れた運動能力を保有しているのだという。全力疾走もできれば、長距離走もできる動物は、たしかに人間しか存在しない。そしてさらに、本書によると、人間は運動すればするほど、脳が健全に活発化するようになるのだという。たしかに、それはわかる。僕も、ランニングを習慣にしてから調子がいい。ランナーズハイという現象も、まるで人間は走るために存在しているみたいだ。

多分、それはウマ娘も同じである。

とりわけ今回の『劇場版ウマ娘』は、狂気をテーマにしているように思う。研究者としての狂気を兼ね備えたアグネスを始め、最強に対して異様に執着するジャングルポケットも異常だ。でもよく考えてみれば、アスリートは誰だって異常である。イチローや大谷翔平のように、全てをスポーツに捧げるような人間が、普通であるはずがない。そう考えれば、夢や栄光を掴み取るには、狂気に満ちた異常性が必要なのかもしれない。

ラストも狂ってればよかったのに……

全体として今回の『ウマ娘』はめちゃくちゃおもしろかったが、やっぱり終盤は微妙だと思う。ストーリーと映像表現で、あれだけ狂気を描けていたのに、最後の最後は王道で、しかも呆気なく終わった。そのうえ、ライブシーンも挿入されて、そこでなんか冷めてしまう。

もちろん、そもそも『ウマ娘』は王道のスポ根作品であり、設定上、ライブシーンも絶対に欠かせない。それはわかる。しかしそれでは、あれだけ完璧に狂気を描いた中盤までのパートが、最大限活かせなくなるではないか。

結局のところ、今回のアニメ映画も、ソシャゲとグッズ販売への導入のための作品であり、それ以上でもそれ以下でもないということなのだろう。でも、僕は思うのだけれど、原作ソシャゲとアニメは、別作品として考えていいのではないかと思う。1回だけでもいいから、限界突破した『ウマ娘』を見てみたい。

今回の『劇場版ウマ娘』に関しては、全体として限界突破していたが、軸となるメッセージ性が乏しいが故に、終盤の展開が良くも悪くも”いつも通り”になってしまった。中盤までの作画や演出や劇伴が素晴らしかったから、これを上回るクライマックスを作ろうと思ったら、ド直球の感動パートか、変化球的な演出に頼るしかない。同時期に上映された『デデデデ後章』のクライマックスみたいな狂気的な演出が『ウマ娘』にもあったら、最高に狂った作品の出来上がりだっただけに、ちょっともったいない感じもした。

『劇場版ウマ娘』は事実上、Cygamesの単独出資のようなものだから、どうしてもビジネスに繋げる作品作りになるのはしょうがない。でも、どうせウマ娘マネーがあるわけだし、次の劇場版では作家性をガンガン出した『ウマ娘』を見てみたいなぁと思う。

さいごに

終盤は微妙だったかもしれないけれど、全体として今回の『劇場版ウマ娘』は『ウマ娘』というメディアミックスプロジェクトのポテンシャルを感じさせられる作品だった。映像表現を追求すれば、これだけおもしろい『ウマ娘』が完成するのである。チームスピカはこれまでの路線でいいから、別チームを描く際は、それにあわせて作家性を追求して、劇場アニメを制作するのがおもしろそうである。

『ウマ娘』の可能性を感じられる作品だった。2024年はアニメ映画のレベルが高いなぁ。

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